第19話 龍一郎の住まい

翌日、龍一郎は加賀屋の一番番頭善兵衛 に付き添われ武家屋敷にやって来た。

この屋敷は加賀屋に程近かった・・・。

加賀屋を店の者達の「番頭さん、いってらっしゃいませ」の声に送られた。

二人は、能登屋の前を通り、能登屋の角を右に曲がった。

能登屋の隣の路地にしては少し広めの道を過ぎ、白壁が続く屋敷の門を潜った。

そう、程近い所ではない、加賀屋と能登屋の直裏で、能登屋の隣なのだ。

門を潜り式台でおとないを告げると三、四十代の下男と思しき男が現れた。

「富三郎さんや、ご当主様は、お目覚めかの」

善兵衛が聞いた。

「はい、朝食も、お済で、お待ちしております、さあ、お上がり下さい」

「はい、では、龍一郎様、上がらせて頂きましょう」

善兵衛は履物を脱ぎ、式台にあがった、

龍一郎も「はい」と答え、式台に上がった、富三郎の案内で主の待つ部屋へ向かった。

一番奥に寝間があり廊下で富三郎が到着を告げ障子を開けた。

二人は廊下に座し、挨拶をし許しを得てから中に入った。

主は、床に伏せっており病のようだった。

「起きる」と富三郎に言い補助され上半身を起こし二人に向き合った。

まず、主は善兵衛を見て、軽く会釈をし、次に龍一郎を見た、二人の視線が交差した。

善兵衛が紹介した。

「この方が龍一郎様にございます」

「龍一郎と申します、よろしくお願い申します」と頭を下げた。

「流派は何ですか?」と突然の問いに

「全国を武者修行しましたので、いろいろ取り入れ、もはや流派はありません」

「ほう、この時代に武者修行を・・・で、どれほど」

「八年程です」

「うむー・・・、ところで私の名前がまだであった、私は橘 小兵衛じゃ、よろしゅうな」

「こちらこそ、よろしくお願い申します」

「善兵衛殿、何時から来られるの?」

「そちら様の都合の良き日に」

「わしは、今日からでもよいが」

「今日からよろしいので?、龍一郎様は?」

「よろしくお願いします」

「よし、決まりじゃ、富さんや、部屋の案内と荷物運びの手伝いをの、たのむぞ」

「畏まりました」

「久しぶりの会話、楽しかったぞ、じゃが少々疲れた。」

富三郎の介護で床に横になり「では、またのー」と言って目を瞑った。

「ありがとうございました」

龍一郎が言いと深々と礼をし立ち上がって廊下へ歩き出した。

その後を善兵衛と富三郎が続き、富三郎が障子を閉めた。

富三郎が先に立ち廊下を歩きだした。

「お部屋はこちらになります」

玄関ヘと向い直に左に曲がり三つ目の障子を開けた。

「こちらです、どうぞ」

富三郎は脇に避け二人を先に入れ自分も入ってきた。

龍一郎を上座に座らせ二人は、深々とお辞儀をした。

「このものは、富三郎と申しまして、妻子と供に国から着てもらいました、龍一郎様の素性は知っております」

「よろしく、お願い申しあげます、龍一郎様」

「家族と一緒とは、造作を掛けましたね」

「女房が、江戸に出たがったおりましたので、好都合でした」

「生活は、慣れましたか」

「はい、女房は御当主様の御世話がありますが、生き生きとしております」

「富さんや、細工を披露してくれぬか」

善兵衛が願った。

「はい」

富三郎が返事をして掛け軸の横の組木細工を操作すると掛け軸の下の底板がずれた。

覗き込むとそこには階段が見えた。

「この階段は、加賀屋様、能登屋様の地下に通じております」

「このものは、鍛冶屋、大工と才能豊かにございます」

「今後とも、よろしく、お願いいたします、ところで武術はいかがですか、富三郎殿」

「そちらは、まるでお役に立てません」

「しかし、それに勝る才を持っております、龍一郎様より帰府のお知らせが有りましてから・・」

と善兵衛が一年近く前に龍一郎が江戸の加賀屋に宛て、「十月程で戻る」との知らせを送ってからの江戸での動きを伝えた。

こうして、その日から龍一郎の住まいが定まった。

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