第14話 用心棒・龍一郎

能登屋の番頭は加賀屋に訪れ、一番番頭を呼び出しひそひそと話しあった。

途中、加賀屋の番頭は「とうとう」とか「いよいよ」とか「間違いないですな」とか聞こえた。

即て、暫く、ひそひそ話し、能登屋に戻って行った。

加賀屋の番頭も自席に戻った、程なくして、加賀屋の暖簾を分けて若い侍が

「番頭殿は、おられるか」

と言った、番頭は、固い顔で奥を指差し誘った、暫く、話あった二人が店先に来て番頭が言った

「この方は、龍一郎様と言って本日より、当店と能登屋さんの見張りをしてして戴きます。

皆、ご承知おき下さい。この方に一切の秘密は無用です、どのような質問にも、お答え下さい」

「突然で驚かれたでしょうが、よろしくお願いします」

龍一郎が挨拶をすると皆が一声に

「よろしく、お願いします」

と皆が答えた、少しの蟠りを感じさせる返事もあった。

「本日は、こちらにお泊りいただきます、お部屋は、以前の方と同じで宜しいですか」

「お任せします」

「では、こちらへどうぞ」

奥へ向かい直ぐに右の廊下に曲がり一つ目の障子を開けた。

「こちらです、いかがでしょう、宜しければ、台所の者が、お茶をお持ちします」

「結構です、良い部屋ですね」

「皆の夕食は、六つですが、台所へ行かれれば何時でも食べられます」

「解りました、私の用がない事を願っております」

「はい、私もです、では、御寛ぎ下さい、私は旦那様に報告に参ります」

と言って障子を閉めて右へ行った。

奥へ向かった一番番頭は、主人の部屋の前の廊下で声を掛けた。

「旦那様」

「何ですか」

「はい、只今、龍一郎様がお見えになりました」

「おぉー、番頭さん、お入りなさい」

「はい」

と言って、部屋に入り、主人の前に座り暫く二人は見詰め合っていた。

序々に二人の瞳が潤み出し、二人はほぼ同時に手で顔を覆い前屈みで泣き出した。

その頃、能登屋でも、番頭が奥に知らせ同様な光景が見られた。

加賀屋で番頭同士が話し合った後、能登屋に戻り直ぐに奥に知らせ同様な光景になってしまった。

四人が待ちに待った方が戻られたのだ。

この日が来る事を信じて、それぞれの店を繁盛させ十年も経たずして江戸で大店と言われる位置にまでにした。

能登屋は、輪島塗で、各藩、大身旗本のお殿様に贔屓され、贈答品にも重宝され、加賀友禅はその奥方や側室に贔屓にされている。

加賀屋は、当初、加賀藩だけの札差であったが、本来、札差は幕臣だけのものだけに、他の雄藩も、その必要性を認め、自前の札差を設けたが、運営がうまくいかず、加賀屋に依頼してきた。

今では五つの藩を任されている、また、札差の常であるが、金貸し業も行わざるをえなくなっていた。

翌年の扶持米を担保に金の用立ての申し込みがあると、断る事が出来なかった。

証文に印を貰いお金を貸す、期限内に利子込みの返金があれば、翌年の扶持米は、持ち主に戻る。

返金がなければ札差のものとなる、この商いが近年増えて来ていた。

物価は高騰している、特に江戸は、激しいが、武士が受け取る扶持米は、変わらない、生活が苦しくなる、当然の事だ。

加賀屋では、両替商も始めようと考えている、店の近くに最近、相場に失敗し、夜逃げした大店があり、町役と役所に願い出て、この店を手に入れている。

今や、江戸と本店のある加賀金沢では、押しも押されもしない程、大店中の大店となっていた。

ただただ、龍一郎との約束を守る為であり、息子のようにも思っていた、その当人が戻って来たのだ、感激に号泣するのも無理はない。

機せずして、四人は、平静に戻り、二組の主従は今後の相談を確認した。

だが話の内容は四人がそれぞれに龍一郎と始めて合った時の思い出がほとんどだった。

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