幸福の村 〜ギュスタヴ・サーガ〜
山野陽平
第1話 墓標
ベイクは自分で石を積み上げて作った墓を見ながら、悲しいというか寂しい気持ちになった。
彼を引き取ってくれる身内はわからない(別れた奥さんと娘さんが居る)し、居ても引き取ってくれるかどうか分からない。彼は英雄でも何でも無く、ただ死んで、数日間一緒に居た自分に土に埋めて貰っただけだ。村を救った訳でも無いので、即ち皆の反感を買う訳でも無い。なんとも矛盾した話だ。矛盾し過ぎている。
ベイクは村が見下ろせる丘の上の、目立たない森の中にお墓を作ってやった。ここからなら娘さんの成長が見守れる事だろう。
一緒に村を見下ろした。人口千人くらいの小さな村だから、向こうの端は辛うじて見える。山に囲まれた盆地の長閑な村。土に帰った彼が命をかけて守りたかった村。ベイクには故郷は無かった。気がつけば王都の喧騒に満ちたアカデミーで木刀を振り回していた。特定の土地に愛着を持つなど考えられなかった。
そろそろ行かなければ、とベイクは思った。誠に馬鹿馬鹿しい話だが、ベイクと彼が救った村の住民達は血眼で彼らを探していて、殺したくて仕方無くなっている。まあまあ離れたここにも、いつ追手がやって来るか分からない。
本当に馬鹿馬鹿しい話だ。な?
手向ける花も無かった。摘みに行く時間も。
じゃあな。ベイクは立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます