第9話 きょうだい

「あぁ、おきた?」

 

「……アキ?」

 

「やっぱりわかる?」

 

 再び目を覚ましたとき、視界に入ったのは見慣れた天井と布団、そして、知らないけれどもよく知っている顔。僕ら兄弟と良く似た少し幼い青年。頭にぴょこりと生えた狐耳かピコピコと動く。

 

「さっきのは…」

 

「けーさつがつかまえたよ。ありがとうね、はる」

 

「僕は、何も…」

 

「でも、あぶないはしをわたったね。もうすぐ、おにいちゃんたちがくるから、おこられればいいよ」

 

「それは、勘弁してほしいかなぁ…」

 

 アキの言う通り、バタバタと音がして。スパーンと開いた障子の向こうには、和彦兄様と彦幸兄様。二人とも怒ればいいのか安心すればいいのかといった表情をしていたけれど、アキを見るとそれは驚愕へと変わった。


「ゆきおにいちゃん、かずおにいちゃん」

 

「あき、なのか…」

 

「うん。あきひこだよ」

 

「…!!」


「あのね、もう、あんまりじかんがないんだ。ほんとうはおねえちゃんたちや、みちおにいちゃん、しげおにいちゃんともはなしたかったんだけど…」

 

「じかんがないって、どういう…」

 

「いろいろ!だからね、これだけはいいたかったの。ぼくね、おにいちゃん、おねえちゃんたちのおとうとで、よかったよ!」

 

「あき…」

 

「ごめん、ごめんな、あき。あの時俺が目を離さなければ…!」

 

「ゆきおにいちゃんは、わるくないよ?ぼくが、かってにでかけたの」

 

 だから、もうせめないで。

 アキは笑いながら彦幸兄様に抱きつき、兄様もしっかりと抱き締める。きっと、兄様が時々悲しそうな顔をしていたのは、その後悔だったんだ。だから、結婚しないとも言っているんじゃないかと、なんとなくわかった。

 

「成仏、できなかったの?」

 

「うーん…はんぶんはんぶん?でも、これでさよならだよ。ね、はる。さいごのおねがい。いちどでいいから、おにいちゃんってよんで?けっきょく、はるには、よんでもらえなかったから。そしたらぼくは、いなくなって、またあえるから」

 

「さいごとか、言わないで」

 

「治、呼んであげて」

 

「嫌です。彦幸兄様だって」

 

「いいんだ、治。呼んでやってくれ」

 

 何故だろう。涙が止まらない。

 なんとか止めようと躍起になって、それでも止まらなくてボロボロと溢れていく。不意に、頭を撫でられる。顔をあげれば、アキが困ったように笑いながら、撫でてくれていた。

 

「なかないで。ね、わらって?」

 

「……、明彦、兄様」

 

「うん!」

 

 なんとか泣き笑いになりながらも、明彦兄様の名前を呼ぶ。

 兄様はとても明るい顔で笑って。

 

 

 

 消えてしまった。

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