最終話 とある兄弟と未来のこと

あれから九年の月日がたって、今も僕たち兄弟は何も変わらず。

変ったことがあるとすれば、理彦兄様、彦重兄様だけでなく、ずっと独り身でいると言っていた彦幸兄様も所帯を持ったことでしょうか。

あの一件以降、いろいろ考えが変わることがあったようです。正直、僕もいろいろ思うところがあったのは事実ですし。でも、兄様、姉様たちは肩の荷が下りた、といった感じでした。

アキ、いえ、明彦兄様はあの日以降姿を見せることはなく。そういう意味でも、あの日でいろいろ区切りがついてしまったのかもしれません。

あぁ、一番の変わったことがありました。いつぞやの子供の口約束は、本当になりました。近々、康規君と桜子さんは一緒になります。ひと悶着どころかふた悶着、さん悶着もありましたが。本人たちや両親たちがよくとも、その外側が、やいのやいのと…。

結局は本人たちの意志が尊重されましたがまぁ…。康規君が跡取りではないと言ことや駿河の家は桜子さんの弟の真広君、真典君のどちらかが継ぐ、ってことで、外側は黙ったようですが。

僕は今も家の離れに住んでいて、店の手伝いをしています。僕にも、見合いの話は来ていますが、この性格なので、今のところご縁はなく。それならそれでもいいのかなぁと、かつての彦幸兄様と似たようなことを考えています。

なんだかんだ、兄弟そろって生活してましたが、今残ってるのは僕だけです。そろそろ家を出たほうがいいのかなぁと思いつつ、義姉様にも照彦の面倒見るの手伝って、と言われています。照彦君もだいぶやんちゃで、毎日のように泥だらけになって帰ってきては、義姉様に怒られています。

みんなそれぞれ所帯を持って、家を出ていきましたけれど、相変わらず仲はいいですよ。今も月に二回ぐらいは、みんなが集まってきます。まぁ、実質各家族集まってお昼でも、ってわけです。

丁度今日がその日でして、僕は義姉様と一緒にお昼用の海苔巻きを大量生産中です。いかんせん、人数が多いので、義姉様やお手伝いさんだけでは手が回らず、僕や照彦君も一緒になって作るのが恒例です。

大概、この時一番最初に来るのは、理彦兄様です。兄様は今は小説家で、有名というわけではありませんが、一定の人気があるそうです。逆に一番遅いのは彦重兄様で、郊外の理工系の研究所に勤めています。

大量の海苔巻きを巻いているうちに、居間がにぎやかになって、姉様たちが持ってきたおかずなんかも、用意されて。

準備さえ終われば後は無礼講です。


「あぁ、そうだ。酒が入る前にみんなに報告が」


いつもならそうなのですが、先に彦幸兄様がそう切り出して。横に座る義姉様に視線を向けると、義姉様は恥ずかしそうに、そっとお腹に手を当てた。


「子供ができたんだ」


「おや。それはおめでたいね。おめでとう、二人とも」


「それで、みんなに許しを得たいことがある。特に、治にな」


「え……僕、ですか?」


ふいに、僕に話を振られて思わず首をかしげてしまった。

別に何も許しを得るようなことはないと思うけれど、一体、なんだろうか。


「生まれてくる子供が、男の子だったら…。名前を、明彦としたい。もちろん、混同するつもりはない。けれど、あの子が生きられなかった分もと思って」


「ああ、もちろんいいとも。治はどうだい?」


「はい……!もちろんです。でも、義姉様はいいのですか?」


「ええ。私の提案だもの」


そういうことなら、僕が反対する理由は何もない。

どうか、生まれてくる子が幸せでありますように。

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