第8話 弟と、

 目が覚めると、全く知らない家の中。物は何もなく、畳はだいぶ傷んでいて埃っぽい。腕と足は縛られて、さらに柱に縛り付けられていて、逃げるどころか動くことさえできない。

 この後、どうなるのだろうと不安になる。もし、あの人があの時も悪意をもって突き落として、今回もそうだとしたら。どんどん悪い方向にしか考えられなくて、怖くなっていく。

 何とか逃げられないかと、藻掻いていれば男の人がやってくる。思わず身構えれば、その人はさっきと同じように穏やかに笑っている。


「本当、君はお兄さんに似てるね。君のお兄さんはまだ幼いころだったけれど、とっても可愛かったなぁ。ああ、でも、十四年前のことだから、君は何があったかどころか、そのお兄さんのことも知らないかな」


「……兄様を、殺したの」


「おや?知ってたのかい?誰かに聞いたのかな?ああ、でも勘違いしないでほしいな。にくいとか、そういうので殺したんじゃない。可愛いから殺したんだ。死ぬ瞬間の顔、とっても可愛かったなぁ」


「……」


 いまさらながら改めて、とんでもない相手にかかわってしまったのではないかと、ものすごく後悔しています。

 未だに何か言っているけれども、脳が理解するの拒否していて、また意識を飛ばしたくなる。なんとか意識を飛ばさないようにしている間に、柱からは解かれて、どん、と突き飛ばされる。

 転がった先には、水の入った桶。


「君は、どんなかわいい顔を見せてくれる?」


「なっ!!!」


 抵抗する間もなく、桶の中に頭を押し込まれる。藻掻いても、上から押さえつけられて頭を上げることができない。それでも、必死にもがいて息を吐ききって、だんだん意識が遠くなって。

 死ぬんじゃないかと思った瞬間、徐に引き上げられる。


「けほっ……ごほっ……」


「そう簡単に死なれたらつまらないからね。じゃあ、もう一回頑張ろうか」


「やめ……!」


「やめないよ?」


 再び水の中に押し込まれて、窒息する直前に引き上げられる。酸欠で頭が痛いし、視界がにじむ。昔も、こんなことがあった気がする。僕が、いらない子だって……。にじむ視界の中で、また水に沈めようとする手が伸びてくる。

 せめて抵抗を、と思うのに体が動かない。死ぬまでこうされるのかと、あきらめた。


「ぼくのおとうとに、なにするんだよっ!!!」


「っ!?」


 知らない怒鳴り声とともに、男が吹っ飛んだ。和彦兄様だろうか…。でも、兄様の喋り方とはなんか違う気がする。そのまま誰かに抱きかかえられた。なんだかそれがすごく安心できて。ドタバタと複数の足音を聞きながら、一度意識を手放した。

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