2
真夏日だ。夕方になっても暑いもんは暑い。
西日が差し、それが更に肌を焼いてくるようだった。
「おい悠二~どこ行くんだよ。お前んちそっちじゃないだろ?」
「花屋寄ってくんだよ。それと、今日はお前も送ってくからな」
スタバから帰る途中に悠二がそう言い、俺は隣で半袖を肩までまくり上げながら「はぁ?」と怪訝そうな顔をした。
「いや、そんなんいいって。もう子供じゃねぇんだから」
「うだうだ言うな。俺がそうしたいから、お前は黙ってついてくればいいんだよ」
「そんな理不尽な……」
半ば無理やり俺を黙らせ、悠二は近くの花屋に入った。
店先に吊るしてある風鈴が冷たい音を鳴らしている。
風鈴が揺れるくらいの風は吹いているが、やはりそれも生温くて暑さを際立たせているように思う。
「んーと、どれがいいかな……」
「そんな悩むようなものなの?」
「隼人には分からねぇだろうなぁ、俺のコダワリは」
「けっ、大人ぶりやがって」
肩をすくめておどけて見せる俺を横目に、悠二はある花に目をつけたようだった。
小さく、可愛らしい花。真ん中の黄色い部分からいくつかの白い花弁が開いている。
「それ、可愛い花でしょう」
ふと店員さんが悠二のほうに歩み寄ってきた。
悠二が「ああ、はい」と曖昧に返事をすると、店員さんは何本かその花を取って、差し出してくる。
「これ、エーデルワイスって言うんです。名前もなんだかオシャレですよね」
エーデルワイス。
試しに呟いてみると、なんだか不思議な響きだった。
悠二はその後も散々迷った後に、結局エーデルワイスを五本買った。
「お、買い物終わった? ってお前……花、似合わねぇな~」
「隼人……心底可哀そうなものを見るような目でこっちを見るな」
悠二が小さな花を抱えながらジト目を向けてくるのが面白くて、俺はつい吹き出した。
二人並んで歩いていると、夕日が傾いて影が伸びていく。
そういや、今みたいな夜と夕方の間の時間帯、『黄昏時』とかいうんだっけか。
確かあの世とこの世の境目が曖昧になるだとか、なんとか、聞いたことがある。
「……ところで、お前どこに向かってるんだ?」
「言っただろ、送ってくって」
ここまでなんとなく黙ってついてきてしまったが、俺達が歩いていっている方向に俺の家はない。
悠二は小高い丘をずんずんと登っていた。
「悠二、帰らなくていいの? もう日が暮れるぜ?」
俺が問うも、悠二は微かに頷くだけだった。
「いいんだよ。今日は特別なんだからな」
丘を登りきり、俺は目の前の光景に目を見開いた。
そこは――墓地だった。
和風の縦長な墓石がずらりと並ぶ、墓場。
しかしそこに不気味さはなく、むしろ差し込む夕日を墓石が反射する様がとても綺麗だと思った。
「悠二……? どうしたんだよ、急にこんなところに連れてきて」
俺が悠二に視線を戻すと、悠二は俺の方をじっと見つめていた。
優しい微笑みを口元に浮かべている。
ただ、その笑みは今にも泣き出しそうな雨雲のような危うさを宿していた。
やがて悠二は、ゆっくりと口を開いた。
「説明して欲しいのは俺だよ、隼人。
―――お前は二日前、死んだはずだろう」
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