十二話 放火魔
テインから数キロ離れた所で夜営する一行。ディーノを怒らせた俺とティエナは絶賛反省中であった。
パチパチと聴こえる焚火の音が、会話の無い静寂さを引き立てる。
いま俺達は結構ピンチであった。まず金が無い。すると船を見つけてもチケットが買えない。そして逸脱を倒して褒賞金を稼ごうにも、すでにおたずね者として自分達も指名手配されてる事を考えると王都には近づけない。つまり何が言いたいかと言えば──万策尽きたのだ。
「……」
ティエナが虚ろな目をして港町で買った、変なコップのような形をした謎の人形を見つめている。その姿たるや、なんと哀愁漂うことか。
「……」
そんな俺も体育座りしながら、虚空を見据えて棒状の甘い菓子をぽそぽそと食べている。その姿は唐突に職を失った浮浪者の如くである。
「……おい」
「「!」」
ディーノの一声で俺達は我に返る。
「考えたんだが、放火魔を探そう。いま出来る事はそれが最良だ」
真剣な顔をしてこのイケメンは言う。沈黙が続いていただけに、その言葉はどこか深く感じる。
「テインの町の連中は、船を燃やした犯人探しで躍起になっている。放火魔を捕まえれば船着き場の連中から謝礼金も少しは出るだろう。それに船だって出せる筈だ。幾らか安くもなるかもしれん」
「な、なるほど……!」
「それだわ……!」
頭脳明晰の相方に感動を覚える。だが、ある疑問点が俺とティエナの頭に浮かぶ。
「──そんで……どうやって見つけるんだ……?」
「漁師の言葉を思い出せ。犯人は昨晩に全ての船を燃やした──。この事から並大抵の手際の良さではない。あそこは港町だからな、夜でも人が結構賑わっている。そんな中で全ての船を燃やすなど"普通の人間"には出来ないんだよ」
「──! そうか、犯人は逸脱ね!」
「その通りだ。次に考えるのは何故に船を燃やしたかだ。犯人は船を燃やす事で何らかのメリットがあった筈だ。それが何かわかるか?」
「うーむ? 理性のイカれた逸脱だから自分の快楽のためにやっただけじゃねーの?」
「それならば町も燃やすだろう。まあそいつが船に強い憎しみを持ってる奴とかなら話は別だが、そんな偶然は今は考えにくい。なぜなら船を燃やす事で、いま一番困る者がいる状況でそんなピンポイントな逸脱が来るなんて偶発的な事はあり得ないと断言しておこうか」
「いま一番困る者?」
「そうさ、ここにいるじゃないか」
「──私達……!」
「そう、ここにいる三人だ。逸脱は俺達が逃げられないように先回りして、船を燃やしたのだ」
「ちょっ、ちょっと待てよ! 何で逸脱がそんな事するんだよ!?」
「私、聞いた事があるわ。セドフ王が逸脱狩りになんであんなに積極的なのか……。その理由が逸脱を使って他国に負けない軍事力を作ってる噂があるの──。だから放火魔の逸脱も、もしかしたらセドフ王の手先の可能性が……?」
「いい推理だティエナ。俺もその噂は耳にしたことがある。恐らく君のような理性のある逸脱を飼い慣らしているんだろうね。ティエナを捕まえたのも政治利用しようとしたんじゃないかな。何にせよ、ろくなものじゃない」
「じゃあその逸脱は俺達を狙ってると言う事だな」
「そう言うことだ」
俺と相棒は剣を握ると、
「「出てこいッッッッ!!!!」」
暗闇に向かって一喝した。
「へえぇ。僕の気配がわかるんだ」
暗闇から這い出るように、二つの目玉がギョロリと浮き出る。月明かりに照らされたその男はひょろりとした外見で、ピエロのような格好をしていた。
「なにもんだぁ……てめえ」
「初めまして──。僕はコーリー。人呼んで『
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