十三話 倒せ! 炎熱のコーリー


「王様からのご命令か? 弱そうな野郎だな。ガガトロの方がもっとおっかなかったぜ」


「油断するな。おかしな格好だがこいつも逸脱だ。何か能力を持ってる筈だ」


距離を取って睨み合う。一見にしておかしな奴だが底知れない不気味さがあった。


「そこにいる少女を返してもらうよ。それと君達は殺してもいいとの命令だからね。ここに残るものは何も無くなる。そう、跡形も無くなるんだ。消し炭みたいにね」


ピエロ姿の敵は紅を塗ったその口元を歪ます。じわりと寄ってくる敵に対し、俺達は一定の距離を保つように後退りした。


「ティエナ。君はもっと下がっていろ。巻き込まれるかもしれない」


「……わかったわ」


ディーノはいざとなったらティエナだけでも逃がす算段を考える。自分達もここで無理に戦う必用は無い。隙を見つけ次第、夜の闇に紛れて退散するのも手だ。


「──おっと。もしかして逃げようなんて考えてそうな顔をしてるね」


「あ? くそピエロ。誰が逃げっかアホ」


俺は戦う気まんまんである。ディーノはやれやれといった顔をみせる。


「キャキャ! 威勢がいいね。まあこちらも逃がすつもりなんてないよ……『フレイムウォール』!」


ピエロ野郎がパチンと手を鳴らすと、その場にいる全員を囲むように炎の壁が突如燃え盛るよう沸き上がった。


「なんだこいつ!? 炎を操るのか!」


「駄目だわ! この壁熱くて出れないどころか近寄れない……!」


「これでもう逃げられないよ。君達はここで終わりだ。キャキャキャ!」


ピエロ野郎は俺達の慌てふためいた姿を見て愉快に笑う。


「くそったれ! ディーノ! 短期決戦でいくぞ! 熱くてしょうがねえ!」


「…………」


俺が言うと、相棒は何かを思い出すように目元を鋭くさせていた。


「さあ。どちらから焼いてあげようか。人の燃える姿はいつ見ても愉快だ。散々いろんな物を燃やしてきたけどやっぱり人を燃やすのが一番わくわくするね! キャキャ!」


「──おい。一つ答えろ。十二年前にセーリエの街を燃やしたのは貴様か?」


「十二年前? 懐かしいなあ……。丁度それくらいの時に僕は能力に目覚めたんだ。あの時は自分がどれだけすごいのか試したくて、多くの街を燃やしてたから忘れちゃったよ。──でもその中で一際大きいレンガ色の家があってね、そこの家を燃やした時が最高だった……。三階のベランダから綺麗なドレスを着た女の人が踊るように燃えていてね、あれは傑作だった。炎の中でね、黒い影がダンスするんだ! 僕はそれがおかしくってずっと眺めていたよ……!」


邪悪な笑みだ。こいつがいっぺんの余地なく悪である事がわかるような、下衆野郎だということが伝わる。


「──よくわかった」


ディーノは静かに剣を構えると、


「ようやく──犯人を見つけた……。貴様はここで間違いなく、俺に切り刻まれる。一切の容赦は無い。これまでの所業の分、その腐った肉の一片まで地を這う虫どもの餌にしてやる……!」


ディーノの闘気が跳ね上がる──ッ!


「くそピエロ! 大人しくサーカスでもやってるんだったな! お前はここで倒す!!」


「キャキャキャキャ! 何を言ってるんだい。サーカスはこれから始まるのさ。さあさあ、今宵は炎熱のコーリーのサーカスにようこそ! 演目は……『哀れな子犬達の火炙り地獄』だ!!」


コーリーの手から火炎が舞い上がるッ! その肉をも溶かす炎は竜の形となりて、俺達に襲いかかってきた!


「ぶったぎる!」


俺は炎の竜を縦一文字に斬ると、竜は真っぷたつに両断される。だが、その別れた二つの炎は空中を漂いながら再び竜の形に復元し、今度は二体で俺達に襲いかかる!


「どわあ! なんだそりゃ!?」


「バッジョ! こいつは自在に炎を操る能力らしい! 斬るなら本体だ! 奴に近づくんだ!」


「キャキャ! さあて近づけるかなー? 僕の炎はしつこいよ!」


炎の竜はどこまでも追いかけてくる。かといって斬れば分裂し、さらにやっかいだ。俺達は飛び回る竜の突進を必死に避ける。


「どうすりゃいいんだ!?」


「竜を俺に引きつけろ!」


「わかった!」


俺は追ってくる竜をディーノの方に引きつけると、相棒は深く腰を落とし、得意の『静ノ断ち』の構えを見せる。


「ブレシア流、静ノ断ち──『巻き雲』ッ!」


下から上へ、巻き取るような回転と共に出された剣閃は二体の炎の竜を絡めとり、一つの炎へと戻した。


「いまだバッジョ! 『土』だ!」


「──! そうか! わかったぜ! おらあッ!」


俺は剣を地面に突き刺すと、それを思い切り振り上げた。盛り上った大量の土が炎にぶつかると、炎は土と共に地へと還る。


「よっしゃ!」


火は土を被せれば消える。この教訓は昔、火遊びで互いの服を燃やして耐久勝負してたアホな経験が生きた。地面を転がれば火は消える。その事から火は土に弱いのだ。


「キャキャ! 中々やるけど僕は無限に炎を出せるよ? そーれ! 『ファイヤーリング』!」


コーリーは手で大きく円を描くと、丸い炎の輪が現れた。


「からの~? 『ファイヤードラゴン』だ!」


紅蓮に燃えるその輪は、ぐるりと回りながら分裂し、形を変えながら炎の竜を六体出してきた。


「おいなんだそりゃ! 卑怯だろ!」


「くっ……!」


「キャキャ! さあこれを対処できるかな~?」


六体の竜はバラバラに別の角度から不規則に軌道を変えながら、一人に対して三体の竜が俺達を狙う。


「──『巻き雲』ッ!」


ディーノは先と同じ技で防御する。俺は相棒のように『静ノ断ち』は使えない。俺が使えるのは『豪ノ断ち』であり、防御のための剣術が非常に苦手だった。


「だらあッ!」


俺も先と同じように土をぶつけるが、消せたのは一体のみで、あとの二体が俺の背中にぶつかってきた。背中が猛烈な勢いで燃えると、拷問のような熱さが俺の身を焦がす。


「がああッ!!」


「バッジョ! 転がれ!!」


「うおおおおッッあっちいいい!!」


俺は死に物狂いに地面を転がって背中の火を消した。肉の焦げた嫌な臭いが辺りに漂うと、じわりとした痛みが背中から走る。


「くっそお! まじで痛ぇ……!」


「キャキャキャ! 君、いいね~。とてもコミカルな動きだったよ。もっともっと踊って僕を楽しませてくれ!」


「バッジョ。あの竜を相手にしてもらちがあかない。ここは"アレ"でいくぞ」


「──おうよ!」


二人は互いにしかわからないアイコンタクトで会話する。俺達は並んだ状態で剣を構えると、深く呼吸をする。


「おや? 固まってくれるとは仲がいいね。ではまとめて燃やしてあげようか! 踊れ! 『ダンシングファイヤ』!」


コーリーは足で地面を軽快に叩くと、人の形をした炎が二体出現し、ワルツを踊るようにこちらに突っ込んでくる!


「キャキャキャキャ! この世でもっとも熱いワルツだ! 踊れ踊れ踊れい! 」


向かってくる炎を静かに見据えると、俺達は互いの鼓動を確かめ合うよう呼吸を整える。



「豪ノ断ち──阿吽」


「静ノ断ち──阿吽」



「「重ね刃!! 『風弾ふうだん』!!」」



まるで口を開けたハサミのように重なった互いの刃を、交差する如く閉じることによってこの技は完成する! 思い切り振り抜いた剣先から放たれた剣風はまさに突風、烈風の域に非ず! 弾のように空を裂く風の塊はうねりをあげ、敵の炎を消し飛ばした!


「なにぃ!?」


「そこだあああああああ!!」



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