第40話

 落ち葉を掃き集める召使いが僕に気づき頭を下げる。広大な敷地を綺麗にするの大変そうだな。


「お客様、外に行かれるのですか?」

「少し歩きたくて」

「そうですか」


 彼も霧島もどんな気持ちで召使い達に接してるんだろう。頭を下げられるのちょっと緊張するな。


「寂しい場所ですよね。誰もいなくて朽ちていくだけの」


 止まりかけた手を動かし、召使いは落ち葉を掃き続ける。カサカサと音を立てる落ち葉と、僕達を包む冷たい風。


「昔は活気溢れる町だったようですね。噂に聞くだけですが、夏のお祭りや新年を祝う集まりごと。どんな盛り上がりだったのかしら」


 遠のいた過去に確かにあったもの。

 この町はオモイデ屋と同じだ。捨てられ、忘れられたものが眠り続けている。


 門を抜け歩きだした町の中、見えだした住人達の残像。陽に照らされる割れた窓の煌めきと、崩れかけた家の中に見える壊れた家具の群れ。


 路地裏に見つけた公園。

 遊び相手がいないブランコと滑り台。枯れた芝生と壊れたままのベンチ。


 芝生に寝ころんで目を閉じた。

 訪れた暗闇に心地よさを感じるのは、僕が知り得ない懐かしさが詰まってるからだ。







 暗闇の中、落ち見えるものがある。


 雪のように舞い散る光輝くもの。



 羽根だ。



 何処かで見た金色。

 夢のような光景ものの中。

 そうだ……ゼフィータの翼だ。


 リリスが出会い、創造の力を与えた織天使セラフィム


 舞い散り、溶けるように消えていく羽根。

 僕に流れ込むのはゼフィータの願いだろうか。




 いつかの未来、朝と夜が訪れる世界で彼女と巡り会えるなら。

 命尽きるまで……繰り返し。







 目を開けると、暗闇が消え空だけが見える。天界……塔の中でゼフィータは何を思うのか。


「マリー。黄昏の慟哭に出会ったことは、僕にとって大きな奇跡だった。訪れる君との別れ、君がリオンと生きていく未来。いつか何処かの世界から、君は知らせてくれるかな。ゼフィータの願いの行く末も、彼と夢道さんが歩いていく先も。マリー……僕達が生きる世界は、なんて眩しいんだろう。見えないものを君が見せてくれたんだ。僕は願うよ……君の幸せを。叶うなら、僕が君を幸せにしたかった」


 頬を濡らすものはなんだろう。

 心から軋む音が響く。

 君の幸せを願いながら悲しんでるなんて。それだけ……君を想うことは幸せだったんだ。



 起き上がり空に伸ばした手。

 掴めるものはない。

 それでもいつかの未来に、空は繋がっている。







 ***


  門の前に立ち、黄昏時の始まりを待つ。

 空の色が変わるのを待つひと時。

 小さな頃、母さんに連れられた散歩の道で見つけた1番星。それが僕の最初の自慢話だったように思う。


「何をしている」


 背後から響く声が僕を弾く。

 振り向くと僕を見る彼が見える。彼の隣で夢道さんが微笑んだ。


「都筑君ったら。黄昏庭園で待ち合わせって言ったのに」

「夢道さんこそ、僕と彼だけでって」

「先輩達の願いはいらないの? それに、貴音様は大事なご主人様ですからね」


 夢道さんが持つメモが風に揺れる。どんなものが書かれてるんだろう。


「何をしていると聞いた」

「黄昏時を待ってました。そろそろですよね」

「僅かなひと時だ。そんな所にいては、すぐに終わりを告げる」

「都筑君気づかない? 貴音様が迎えに来てくれたのよ」


 近づいてきた夢道さんが手渡してくれたメモ。彼は背を向けるなり僕から離れていく。向かう先は……黄昏庭園。



「都筑君、貴音様をよろしくね」


 夢道さんに背中を押されるまま歩きだした。



 緊張と寂しさが混じる中……彼を追って。








 次章〈現実の続き、未来への羽音〉

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