現実の続き、未来への羽音
第41話
黄昏の慟哭を知ったきっかけは放課後の教室。誰かが机の上に置き忘れ表紙を見かけたことだった。
描かれていたリオンとマリーの絵。マリーは彼のスケッチより幼いものだけど、優しい笑顔が僕を呼んでくれた気がした。
あの時には考えもしなかったことが起こってる。マリーに出会わせてくれた彼としようとしてること。風に揺れる白い髪と、もうすぐ金色の光となっていく彼を照らす
「姿が変わるのはどんな気持ちだ? 歳を取るというのは」
「僕にはまだわかりません。だけど、両親は僕と兄貴の成長を喜んでくれます。何かを見届け喜びを感じられるものかもしれません」
「そうか」
「どうしてそんなことを?」
「絵の思い出に包まれる中、浮かんだ願いがある。美結と一緒に歳を取りたい。すぐに叶うとは思えないが……そんな日々が待っているなら」
彼は足を止め屋敷を見上げる。
見るものを追いかけた先にあるのは、黒いカーテンに覆われた窓。
「僕が生みだされ、リリスに出会った場所だ。最初に感じ取った肌寒さと、僕を抱きしめたリリスの温もり。あの時からずっと、窓が閉められたままだ」
「リリスにとって、あなたに会えた大切な場所かもしれません。あなたにとっても大切な場所になる時が」
「君は、悟りきったことを言う」
歩きだした彼を追う。
見上げた空は青さが薄れだし、太陽の眩しさも和らいできた。
「美結を連れ旅に出たら、絵を描き始めるつもりだ。マリーを描いて以来何も描かないでいたが。僕にはまだ創作への意欲が残っているらしい」
「物語は書かないんですか?」
「ダークティアラの仮面は捨てた」
屋敷を囲うような樹々の群れと見えだした花の群れ。マリーの手の温もりと、僕を見たリオンの残像が浮かぶ。風が揺らす花の中、僕には見えるものがないけど。
「霧島さん、妖魔は」
「眠っている。住処は地面の下」
彼と共に歩き花の群れの中に立った。僕達の下で妖魔は眠っている。
冷たい風の中、見上げる空と僕を包む花の匂い。
「集めた願い、君はどうするつもりだ?」
「リリスに託せたらって思うんです。妖魔を前に何が出来るかわかりませんが」
「君はリリスに何を託す。君の願いはなんだ?」
「マリーの幸せな未来。それと、霧島さんの願いが叶うことを」
屋敷を見ながら思う。
みんなは何をしてるだろう。僕がいないことを、三上と夢道さんは上手くごまかしてくれてるかな。
初めて出会った召使い達。
みんなが黄昏庭園で、笑顔になれる未来。それをここから作りだしていけるなら。
「愚かな願いだ。いつ叶うか知れない……見れもしない未来など」
「見れますよ、きっと」
「何故そう思う」
「マリーが見せてくれると信じてるから。過去も今も未来も……ひとつの空の中繋がってますから」
僕に触れたマリー。
あの時、彼女の身を包んでいたブルーのドレス。それはこれから先、僕が見上げ続ける空の色だ。
「大事なことを言い忘れてた。霧島さん、ノートは消滅しました。何を意味するかわかりますか? リオンは許したんです、あなたがあなたとして生きていくことを。リオンの記憶に縛られなくていいんですよ」
「リオンが……僕を?」
「たぶん、リオンは妖魔の中にいます。リリスと共に霧島さんを待ってるんです。あなたという分身に……別れを告げるために」
「本当に、悟り切ったことを」
彼の白い髪が微かな光に包まれだした。
黒い眼帯をも染める金色。
訪れた黄昏時。
冷たい風の中、体が感じ取る振動。
地面が……揺れている。
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