第13話
***
眠りの中、思い出の図書館へと向かった。
チビと遊び、ピケを茶化しながら考える。夢道さんへの手紙で彼に触れるべきなのか。
思い出を探さず、調べようともしない僕をユウナはどう思ってるだろう。怒りだすかとヒヤヒヤするけど、僕に菓子をすすめ大騒ぎするピケを叱るだけだ。
レモン風味のマカロンとフルーツパイ。僕が食べだしたのを見てユウナは笑った。
ユウナを見ながら思う。
リリスが秘める思い出。
隠された悲しみを知ることで……リリスのことを
***
土曜日の午後。
いつもなら静けさに包まれているはずの店内にいる。約束どおりメンチカツを買ってから、坂井と三上を連れてオモイデ屋を訪れた僕。
三上に渡された袋には、メンチカツの他失敗作のおまけが入っている。パートさん、いつになったら揚げ物が上手くなるんだろう。
野田はひとり、スマホで場所を確認しながらオモイデ屋に来てくれた。
数日前、野田が坂井に切りだした提案。
坂井は霧島を学校へ来るよう説得、野田は調査を目的に坂井に同行というもの。提案について、口にするなと言う坂井に野田は不服そうだったんだけど。
——土曜日の午後。大型アップデートで夕方までゲーム出来ないんだよね。まぁ、時間潰しに行ってあげるよ。
ゲームを口実に来ることに賛同してくれた。
「夏美。猫ちゃん招き猫みたい」
兄貴の肩に乗る風丸を見て三上が声を弾ませた。
風丸の何が招き猫かと思ったけど。
三上が言うには僕達が店に入った時、風丸は前足で頭を撫でるような仕草をしてたらしい。兄貴から離れようとせず『ニャア〜』と鳴いた風丸。3人で店に入ったら驚いて隠れちゃうと思ってた。
兄貴、風丸に言ってたのかな。『颯太が友達を連れて来るぞ』って。風丸が僕達を待っててくれたなら嬉しいな。
チビにも教えなきゃ。
僕の話を喜んで尻尾を振ってくれる。それは、チビが生きていた頃から変わらない温もりだ。
「黒い招き猫。怖い映画とかだと、間違いなく恐怖を煽る役回りよね」
「やめてよ夏美、怖い話なんてしたくないんだから」
「理沙ってば相変わらずの怖がりね、話を広げようかと思ったのに。都筑君は怖い話は好き? 苦手なら違う話を」
僕に聞かないで話したいこと話せばいいのに。苦手も何も、僕は
「いらっしゃい。お茶は用意している、ゆっくりしていくといい」
和室から顔を出した時雨さんがにこやかに笑う。
「颯太君、大福餅は買っておいたんだ。柏餅やどら焼きもある。特別な日、友達と楽しむといい」
時雨さんに誘われるまま、和室に入り手紙を書く準備を進めていく。坂井達が便箋と筆記用具を並べる中、僕は父さんから借りたポラロイドカメラを取り出した。
「颯太君、写真撮るの? もしかして私達みんな?」
三上は驚いてるけど悪いことなのか? 霧島が学校に来れば顔を知られるのに。
風丸の写真は親近感を呼ぶかもしれないし、僕には撮らなきゃいけないものがある。鞄に入れてきた黄昏の慟哭。
思い出の図書館で考えていた夢道さんへの手紙。
夢から覚めた時思ったんだ。本を手に写真を撮って、夢道さんの手紙に入れてみようかなって。写真を見た夢道さんが、僕達のために動いてくれる。そう信じてみようと思ったんだ。
驚いたな。
クラスメイトと何かしようとか、家族じゃない誰かを信じようとしてる僕がいるなんて。
人を遠ざけ、
人付き合いが苦手で、面倒だと思っていた僕を変えだしたのは、オモイデ屋で感じる温もりなのか……霧島貴音、彼への興味なのか。
店から聞こえる兄貴の笑い声と風丸の声。三上が笑う横で坂井は眉をひそめ『あのさ』とぽつり。
「都筑君、ここお店よね? なんでお兄……あの店員さんは猫と遊んでるの?」
お兄様と言えず言い直しか。
僕の家に来たのは三上に内緒だもんな。三上がオモイデ屋に来たのも昼休み、坂井が切り出した話の流れから僕の提案として三上はうなづいたんだから。
「すまないねお嬢さん。僕の店は元々客人が少ないのさ。友達がいない風丸を、可愛いがってくれることも大事な仕事なんだ。颯太君のお兄さんはいい店員だよ」
時雨さんの笑みを前に坂井の顔が柔らいでいく。時雨さんって魔法使いみたいだな。
坂井と三上が顔を見合わせ笑う中響きだしたスマホの音。野田はやっぱりマイペースな奴だ。
「野田、ゲームはアップデート中じゃなかったの?」
「馬鹿だな君は。調べごとだよ、僕なりに手紙に書けそうなこと。転校生にオタクって思われたくないからね」
「その行動がオタクっぽいんだけどね」
「ちょっと、夏美‼︎」
坂井のぼやきと慌てる三上を前に、野田は平然とスマホを操作してる。時雨さんが『さて』と呟いた。
「お茶は熱いうちが美味いんだ。話し合いの前に、飲んではどうかな?」
***
みんなが手紙を書き進める中和室から出た。店内に並ぶ
「どうした颯太、疲れたか?」
「ううん、新しい商品があるかと思って」
「ここ何日か買い取った物はないな。気にいったものがあったら言えよ、お土産に買ってやるから」
兄貴の声を聞きながら足を止めた。
僕が選んだのは宝箱をイメージしたオルゴール。オルゴールに触れ、ネックレスの羽根を握りしめた。
メッキが剥がれ、少しだけのひびが見える蓋。冷たい感触を感じながら、ひびを撫で始めた時だった。
指先が感じとったもの。
それはオルゴールから流れ込む温もりと鼓動を思わせる振動。
オルゴールの中
眠り続けた思い出の目覚め。
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