第498話 <三つ子の戦い>



「……デカっ……」


 高い山のようにそびえ立つ『悪魔』のもとにリタはようやくたどり着く。

 かつて悪魔がどんなモノだったのか、という話には聞いていたもののここまで巨大な敵影とは。


 実際に体験しないと分からないことも沢山あるものだなぁ、とリタは背中に汗を掻く。


 先陣斬って学園から飛び出したはいいものの、途中で王様を発見したことで到着が遅れてしまった。

 ……まぁ、王様を見つけ出すことが出来たのは本当にラッキーだったと思う。


 足の速さには自信があったが、大通りは城周辺から少しでも逃げ出そうと雪崩の如く押し寄せてくる人ばかりで逆走が困難だった。

 出来るだけ人通りの少ない通りを魔物を斬り裂きながら走っていたから、孤軍奮闘している王様を見つけ出せたリタである。


 ――目玉が飛び出る程驚いたものだ。


 本来一番守られなければいけない偉い人が、真っ先に市民を救おうと身の危険を省みず特攻するなんて、中々出来る事ではないと思う。

 きっと根っからの善人なのだろう。

 人間、土壇場の窮地に立たされた時に初めて本性が出るとも言われている。


 追い詰められた時の咄嗟の言動が、その人の本質を表すらしい。

 しかしこんなとんでもない事態に陥ったら、聖人でもパニックになって裸足で逃げ出してもおかしくない。


 だから自分の国の王様が良い人なのは嬉しいし、勇気も湧いてくる。

 走り出し近づくにつれて大きくなっていく巨大な影に恐れおののく気持ちもあったが、こうして真っ向からに立ち向かうことが出来ている。



 ――とは言え、リタの百倍以上はありそうな巨大な化け物を前にして、どうしたらいいのか、と途方に暮れるのも事実だ。

 近くをうろちょろしていても、悪魔自身も全く意に介するように見えない。


 足元を猫が尻尾を逆立てながらうろうろしているようなものなのだろう。



 一体どうしたら……


 リタが焦りに苛まれた瞬間、悪魔の口が開いた。

 赤黒い口腔ないはギトギトにぬめり、いやな光を灯す。


 呆気にとられるリタの頭上で、悪魔はその口から光線を発する。

 闇を纏う炎が、一直線にある方向に向かって照射されたのだ。


 ドン、と大きな音が立って地面が揺れる。



「え、もしかして、学園狙ってるの!?」



 今の一撃は学園を意識的に狙い撃ったとしか思えない。


 背後を恐る恐る振り返ると、学園があるべき場所の上空には多くの魔物が集い、透明な光の壁を穿とうと蠢いているのが見え気が遠くなった。

 あの場所にはカサンドラもいるし、王様も向かっているし。

 王子やシリウスもいるのではないか?


 想像すると、ぞっと背筋が凍った。


 悪魔は大きく息を吸い込むように、口腔内に光を宿す。

 もう一度光線を放とうとしている動作なのだろう、あんなモノを何発も喰らって無事な結界が存在するとも思えない。

 現に城の魔物避けの結界は悪魔が内側から壊してしまった、きっと穴を開けるなど容易い事。



「駄目!」



 もう一度口から赤黒い光を放射しようとする悪魔、その攻撃を遮るようにリタは両手を掲げ――

 ぐっと意識を集中させ、奴の前方に『盾』をイメージする。


 次の一撃を、突然現れた白い光の壁が完全に遮る。

 鉄の板に吹きつけられた炎のように、奴の攻撃は四方八方に飛び散ってしまった。


 散った衝撃の余波を喰らった周辺の地面、建物が大きく崩れ落ちる。

 威力は分散させることは出来てもこんな攻撃をあちこちに飛ばされては、辺り一面瓦礫の山だ!


 攻撃をして奴を止めなければと思うのだが……

 白い光輝を纏うリタの姿を視認した上空の魔物達が、次から次へと急降下して襲い来る。

 一斉に飛びかかられ、眉を顰める。


 それらを振り払い撃ち落とし、薙ぎ払う。

 掃討に手間取っていると、ついに悪魔も足元で自分の動きを邪魔する人間リタに視線を下ろす。

 眼窩の中には、眼球が無い。

 ただぽっかりと虚ろに赤く光る目。


 それが自分を見下ろし、邪魔をするなと言わんばかりに狂った咆哮を上げるのだ。

 リタは一瞬、金縛りに遭ったように動けなくなる。


 殺意と敵意に満ちた魔物が、凄い勢いで腕を振り降ろしてくるのだ。




  逃げないと!



 そう自分の足に命令を出すのに、まるで足の裏が地面に貼り付いてしまったかのように動けない。

 これが足が竦むって現象かとしみじみ実感している場合ではない。


 空は変わらず、漆黒が覆う。

 時折稲光が闇を裂き、地上をうっすらと照らす。


 倒された街灯の『光石』が、街のいたるところで弱弱しい輝きを放っている。



 自分を叩き潰そうとする明確な意志を受け、リタは顔の前に両腕を交差させる。




 一撃くらい耐えられる、大丈夫、多分、きっと痛くない!



 咆哮と共に振り下ろされようとする、悪魔の巨大な腕。

 もしかしたら地中深くにめりこまされたり、紙のようにペラペラになってしまうのではないかと変なイメージが脳裏を過ぎる。

 そんな冗談で済むような状況ではないと言うのに。


 だが目標が自分であるなら、まだマシか。

 他の人間や、ましてや学園への攻撃止めない状況の方が被害が甚大だと思う。


 何とか持ちこたえることさえ出来れば……





 「……リタ!」





 怒号と共に、リタの前方に誰かが飛び込んでくる。

 そして――




 白く輝く『剣』を彼女が縦に振り下ろすと、実体の何倍もに膨れ上がった白い剣の軌跡が衝撃波のように頭上に走る。



 悪魔は再び猛り咆哮を木霊させた。





 自分目掛けて振り下ろされようとしていた奴の腕が、目瞬きする僅かの間隙で斬り落とされていたのである。

 彼の肩からどろっとした青い体液が迸り、身をよじって蹈鞴たたらを踏むのが分かった。


 ズシン、と奴の腕が地面に落ちる。

 あっという間に蒸気に包まれ、泡沫のように斬り落とされたはずの腕が消えた。




「リゼーーー!!

 待ってたーーー!」


 自分を庇うように剣を構えて前に立ちはだかるリゼ。

 砂塵の中、髪を靡かせて凛と立つ彼女の背中に、リタは思わず抱き着いてしまった。



「ちょ、ちょっと!

 邪魔でしょうが!!」



 流石一年以上どっぷりと戦闘訓練に漬かっていただけのことはある。

 姉の姿は戦士そのものだ、頼もしい……!


 リタは目を輝かせた。






 ※





 崩れ往く日常、崩壊する空の下。

 アレクと外門前で会う事が出来、カサンドラのいる生徒会室までの道順を手短に教える。

 部外者が学園に入るのは一悶着在るはずだが、誰もそんなことを気にしている余裕はなくアレク一人に気を留める教師などいないようだ。


 青い顔の彼は運動場を斜めに横切り、最短ルートで東校舎へ向かう。

 彼もまた痛々しい程悲壮な顔で、後姿さえも見ていられない。

 リナと同じだ。

 過去の自分が悪魔を見たことがある、だから絶望の淵に立たされている。




 魔物を呼び寄せる双角の巨影が――王子が悪魔に乗っ取られた姿だ、と。

 かつて目にしたことがある。


 ふらふらとした足取りで生徒会室に向かうアレクにかける言葉があるはずもない。




 だがここで自分まで狼狽えてどうする、事態が進展するのか!?

 大きく首を横に振って、再度気合を入れ直す。



 まだそうと決まったわけではない!

 希望を捨て、悪魔に全てを壊され続けるのを甘んじて見ているわけにはいかないのだ!


 それに仮にあれが王子の成れの果てだったとしても……

 何とかなる、何とかする!






    だって『聖女』が三人もいるのだ、奇跡は起こす!






 混乱状態の学園寮の中、グリムを探し出すのに手間取ってしまった。

 しかし、リゼは絶対に彼を『治す』と決めて執念で探し出したようなものだ。


 案の定彼は、大勢が悲鳴を滅茶苦茶に逃げだそうとする波にもまれたか、突き飛ばされたか。

 男子寮奥にあったロビーの柱の陰で蹲り、丸まっていた。

 窓ガラスが割られ、飾り棚の上のものは全て散乱している。彼の傍には青い血を散らす魔物の残骸が散乱していたので、もしかしたらここで一人交戦していたのかもしれない。


 意識は朦朧として、自分が天国からの出迎え人だと勘違いしていたくらいだから重篤な状態だったのだと思う。


 彼は自分が危機を脱せるきっかけを作ってくれた人だ。

 もしも頭を殴られ昏倒させられたあの時、彼が心配してついてきてくれなかったら……

 仮定すると、今でもぞっとする。


 そして彼はジェイクの大切な弟で、彼を未だに蝕む後遺症が未だに関係をぎくしゃくしたものにしているのであれば。

 今の自分にそれが出来るのだとしたら――何とかしたいと思うのは自然なことだと思う。



 彼は拒否した。

 でも、無理矢理治したのは自分だ。



 リスクが在ろうが、多少の寿命が削れようが、『今』、彼を助けたいのだと思った。

 それに彼の剣の腕前、実力はよく分かっている。

 もしも彼が万全の体調に戻ったとすれば、守らなければならない体調不良の人間が一人減るどころか、他の人を助けてくれる戦力が一人増えることになるわけだ。


 そんな理屈を抜きにしても――

 本当に治ったと驚き戸惑い、申し訳なさそうで泣きそうな顔をするグリムの両肩を思いっきり叩いた。



『そうしたいって思っただけだから!

 私ね、誰かに命令されるのは大ッ嫌いだけど、自分でしたいって思ったことは絶対実行するって決めてるの』


 今までそうやって生きてきた。

 その信条は変わらない。

 自分がこうするのだ、と決めて選んだ選択を後悔したことはない。








 目の前に聳える、悪魔と呼ばれる化け物の親玉を倒す。

 それも自分が決めた事だ、と再び剣を構えて頭上を見上げるリゼだったが、すぐに愕然とし目を瞠った。


「何、あれ。嘘!?」


 背後からリタの驚愕の声が覆いかぶさるが無理もない。


 今自分が斬り落としたはずの腕が、しばらく後に再び切り口から生えてきたのだ。



「……成程、不死身ってそういうこと。

 再生能力が半端ないのね」



 いくら奴の身体を傷つけたところで、あっという間に再生してしまう。

 更に普通の魔法は悪魔には効かない――過去の人類が絶望する理由も分かる。


 しかしすぐに再生するからと言って、全く攻撃を与えないわけにはいかない。

 驚異的な再生能力で己の体躯を修復し、そして復活した腕を再びリゼ達に向かって振り下ろして来るのだ。



「この!」


 再びリゼは剣で悪魔の腕を寸断する。

 手に持っている剣は自分が普段愛用している剣と全く同じような形を模しているが、不思議な事にリーチがありえない程長い。

 一度縦に剣を振れば、本来届きようもない悪魔の肩口に切っ先が届く手ごたえがあるのだから少々感覚が鈍るくらいだ。


 魔物は再び斬り落とされた腕を復活させる――が。


「また生えて来るまで、さっきより時間が空いた気がする。

 ……本当に不死身ってわけではないのかも?

 いや、でも……」


 悪魔の背後に、怒りゆえか黒い炎のような渦が巻き起こり、その衝撃で石や岩が周辺に飛び交う。

 大きな石は避ける事が出来ても、ピシピシと細かい小石が頬や首筋を掠めて鈍い痛みが走った。



「ていうか本当の物語の中の私達って、一人でこんなの倒してたってこと?

 凄くない!?」


 リタの余計な茶々入れに思考を乱されそうになる。

 しかし、確かに普通の女の子一人が――多少剣を使える、もしくは魔法が使えるだけの『主人公』が立ち向かって”勝てる”相手のはずなのだ。

 でなければ『聖女計画』自体成り立たない。

 自信満々に、絶対に聖女が倒せるという確証があって、復活させるわけだから。



 でもこんな巨大な化け物、しかも切っても切っても再生する相手にどうしろと?


 緊張故か滴り落ちる汗を手の甲でぬぐう。

 

 全く呼び動作なく悪魔が大口を開け、こちらに向かって闇炎の光線を打ち付けてきてリゼは瞠目する。

 意外に視力も良い?

 動きもこんなに速いのか……?


 奴が轟音と共に放った光線はリタの作った『障壁バリア』の前に防がれ、こちらに届く前に周囲へ四散する。

 相変わらず火力が凄まじく、僅かに残っている建物の柱を容赦なく貫き瓦解させていくのだ。

 全くどうかしている。


「リゼ、大丈夫?」


「もう! 中が王子だって思うと……

 何か手が鈍るっていうか」


「え? あれ、多分中身別の人だと思う。

 ……リゼ、途中で王子達に会わなかったの?」


 急にポンと提示された情報に、リゼは内心大きく動揺した。


「知らない!」



 広く構造も知らない男子寮内でグリムを探し回っていたし、彼を治すのだって決して一筋縄ではいかなかった。

 

 グリムは魔物達が上空から流れ込んでくる中央広場への増援に向かったようだが、自分は大元を断つのだと急ぎここに向かったわけで――

 後ろを振り返っている余裕も無かったなぁ、と今更気が動転して視野が狭まっていたことに気づく。

 もしかしたらどこかですれ違っていたのかも。


 学園に強力な結界が張られているのは見てとれたが、まさか王子が学園に向かったとは思わなかった。

 王子が生きている、悪魔が王子でないというのなら朗報に違いない。




 だがしかし。そうと聞けば今の状況も想定と変わって来るのではないか?




 この悪魔を復活させたのが王子ではないから、性質が変わって本来より厄介な敵になっている?

 ……分からない……






「リゼ、リタ!


 ………核よ、核。

 心臓を狙って攻撃するの!」






 必死に呼びかける声と共に、一筋の白い光が――魔物の肩を貫いた。

 軌道を見るに左胸を狙ったのだろうが、悪魔も斬撃から逸れるように体を捩り胸部には全く届いていない。


 狙いを悟った魔物は今まで以上に、地鳴りを誘発する咆哮を大地に轟かせた。




 背中越しに振り返って見た彼女リナは、弓ではなくリゼと同じ神々しい白い剣を携え、険しい表情。

 剣の切っ先から生じた”光”が、あの魔物を貫いたようだ。



 相手が元人間だったもの、と思うと剣を構える手も震えるはずだ。

 しかしリナはその震えを堪え、その場に真剣な貌でしっかりと両足で立ち聖剣を構えている。






 ※





 未だカサンドラは深い眠りに就いている。

 完全に昏倒していると言っていい。もしかしたら呼吸が止まっているのではないかと恐ろしくなるくらい静かで、時折彼女の口元に手を翳してしまう。


 しかしいつまでも呆けたまま、生徒会室に籠っているわけにもいかない。

 二人はあの巨大な敵に立ち向かうために、ここを発ったのに。


 どれくらい無為な時間を過ごしたのかは分からないが、アレクが部屋に飛び込んできてようやくリナは我に還った。


 目を合わせたアレクは絶望に顔を青ざめさせていた、互いに窓の外に聳える『悪魔』に視線を遣って悔しそうに息を呑む。

 あれが何であるのか、”自分達は知っている”。


 分かる者同士だからこそ、視線が合致しただけで互いの深い哀しみが理解できてしまう。

 こうなって欲しくなかった――という嘆きで体中が埋め尽くされる。


   

「私……行かないと………」




 よろめく足取りで何とか歩みを進め、言葉少なにリナは生徒会室を後にする。



   全てが無駄だったのか。



 未来を知っても、結局何も変わらないのか。

 カサンドラが教えてくれた『真実』は無駄に終わってしまったのか。


 仮にこのまま未来へ進むことが出来たとしても――大切な、王子という存在が欠けたままになってしまうのか?



 力なくとぼとぼと学園を出ようとした時、正面から駆け寄ってくる二人の人影にリナは蒼い目を大きく見開いた。



「シリウス様!


 ――――王子!」



 肩で荒い息をし、駆けつけてきた二人の姿にリナは滂沱した。

 良かった。

 彼は無事だった。


 あの悪魔は王子の成れの果てなんかじゃない。


 未来は変わっている、同じじゃない!


 そう確信が持てることが、リナにとってどれだけ救われ、嬉しい事だったか。







 王子とシリウスに再会できた時は神に感謝を捧げた。





 だがその高揚感も、すぐに別の不安にとって代わる。

 王子がここにいるなら。





 ”あれ”はだれ





 恐る恐る、リナは遠くで咆哮を上げる悪魔に視線を寄せる。

 そのリナの不安に気づいたシリウスの言葉に、心臓が凍りつくかと思った。







  『 ――あれ・・は 私の父だ 』






 彼は淡々と、誤解のない端的な言葉でリナに事実を告げてくれた。

 闇が周囲を覆う。


 そう言った彼の表情は、きっと歪んでいたのだろう。



 








「心臓?

 心臓狙って剣を向ければいいの?」



 リタはしどろもどろになっていたが、意を決したように両手を掲げた。

 彼女の願いに呼応し薄暗闇の中に白い聖剣が音もなく具現化、彼女の手の中にすっぽりと収まったのだ。



 かつて聖女アンナが悪魔を倒した武器、それが今この場に三振り存在することになる。

 



「『核』に集中して弱らせないと、そこに力が残っている限り体は再生されてしまうから。

 直接『核』を攻撃して、弱らせるしかないの」



「急所は人間と同じ場所ってことね、了解。

 でも向こうだって分かってる、簡単には狙わせてくれそうにないけど。


 そうね、再生が追い付かないくらい、あの巨体を切り刻んで――隙を作らなきゃね」






「お願い。

 ……『核』を狙い打てる隙があったら、同時に攻撃したたいて!



 完全に破壊しましょう!

 存在ごと、全部消すの!」





 跡形もなく! 欠片さえ塵さえ 魂さえも残さずに。





 リナが発するとは思えない、物騒なワードに二人はぎょっとした。


 しかし――すぐに三人、同時に深く頷く。




 









『聖女だったアンナは、確かに強かった。

 その力で悪魔を退けた。


 だがこうして復活したことからも分かるように、ただ力を失い、弱まったところを『封印』されただけだ。

 彼女の力を以てしても、完全に悪魔をこの世から消滅させることは出来なかった。

 完全に壊せなかった、だからずっと大聖堂の地下で人目に触れないよう隔離されていたのだろう。



 ただ”倒す”だけでは、きっと……駄目だ。


 再び封印しようが縛り付けようが、核がこの地上に残存する以上いずれまた巻き戻ってしまう・・・・・・・・現象が発生するのではないか?』





 シリウスはあの『核』が自分達をこの世界に閉じ込めている”諸悪の根源”ではないか、と訴えた。

 自分達を延々とループに閉じ込めている何かがあるのなら、キーアイテム――それは『悪意の種』しか考えられない、と。



 繰り返しという”呪い”をかけるものとして、あれ以上にうってつけの道具は無い。



 再生能力を奪われた剥き出しの『核』の状態に戻すだけではなく、完全に存在ごと消滅させることはできないか、と彼は言った。



 消滅


 浄化


 昇華

 

 なんでもいい


 あれがこの世に存在する以上自分達が永遠にこの世界から出られないとすれば、現象を誘発する本体を完全に消去デリートする他ない。



 リナの今までの苦悩、懊悩、悲嘆の全てはあの『悪意の種』が原因では、とシリウスは口にした。










『奇跡が起こって、今、聖女が三人もいる。

 お前達なら出来るのではないか?



 頼む。



 これ以上犠牲になる者が増える前に、父を止めてくれないか。





  殺して欲しい。この世から、アレごと存在を……消してくれ!』






 






    実際に 彼の言うことが真実なのかは分からない。





    でも――彼の願いは叶えたい。



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