第470話 報告!


 

 最近、一日一日がとても濃い――と感じてしまう。

 

 現在の事態を考えれば、漫然とした日々を過ごしているわけにはいかないのだが。

 ここ半月の間の感情の振れ幅を思い返すと、こんなに激しく上下する日はもうこないのではないかと思われる。



 王子の事を救いたい。

 好きになった人だから、彼が破滅してしまうのはとても耐えられることではなかった。

 しかし具体的にどうするか、カサンドラは初日からすっかり躓いてしまったのである。


 異世界からこのゲームをプレイし終わった後、いつの間にか転移してきました!

 この後王子は悪魔になります! なんて誰に相談して良いのかも分からなかった。

 急に何を言っているのだと思われるだろうし、王族が悪魔になるなんて吹聴するのは不敬罪に値しかねない。

 大袈裟に喧伝して誰かに目をつけられて、カサンドラ自身が危険に晒される可能性もあった。


 カサンドラにとって厳しい話だったのは、未来予知をして信用を得ることがこの上なく難しい――ということ。

 乙女ゲームという仕様を考えると、全てのイベントは主人公の選択次第だ。

 彼女達がどう学園生活を過ごし、イベントでどんな会話や行動を選択するかで文字通り未来が変わる。

 

 ゆえに、こういうイベントが起こる、と明確に予言するとしても結局学園生活上のスケジュールに組み込まれていることで予知もへったくれもない。

 唯一大きな動き、厄災と呼んでも良いイベントの隊商数劇が起きた時には遅いのだ。

 もう悪魔が動き出して手遅れなのだ、と思い込んでいた。


 せめて出来る事と言えば王子の心の闇を払うことで、彼が悪魔になる選択をしないことで未来は変えることができた……

 そう思っていたカサンドラの気持ちを裏切るように、事件は起こってしまう。


 まさか裏に、学園外のところで『聖女計画』なる、”条件を満たせば必ず王子が悪魔にさせられる”計画が進行していたなんて……

 そうとも知らず自分は呑気で甘かったな、と思う。


 臆病な自分のせいで、ようやく進展を見せた事態が後退してしまうなんてまっぴらだ。

 これからは一人で思い悩まず、皆を信じて『未来』を掴むのだ。


 自分に出来る事を探そう。

 きっと、この世界に呼ばれた意味はあるはずだから。



「おかえりなさい、姉上。

 お帰りが遅かったので少し心配していました」


 ジェイク達に付き合っていたので、帰宅した時はいつもより随分遅い時間になってしまった。

 夕食の時間までには帰れるはずだったが、唯一馬車に乗って通学しているカサンドラは皆よりも自室に着くまで三十分以上時間がかかってしまう。


 カサンドラの姿を見てホッとしたアレクを見て、一気に罪悪感が広がった。

 彼もまた当事者の一人であるはずなのに、状況のせいで同席する機会を逸してしまったのだ。

 大変後ろめたい気持ちになったが、ちゃんとアレクにも一対一で話す機会を設けると言ったシリウスを信じる他ない。


「申し訳ないです、急な会合がありました」


「姉上がご無事ならそれでいいんです。

 今の時期は聖アンナ生誕祭の用意のことなどで忙しいのでしょうし」


 少し帰宅が遅くなるだけでこんなにも心配されてしまうとするなら、今後も彼が不安に陥る機会も多くなるのではないか。

 まだ規定年齢に達していないので学園に踏み入る事の出来ない、彼の事を思うと心が痛い。

 何も出来ずに見守るだけなのは嫌だろうに。


 誰よりも助けを願っていたから、『自分』をこの世界に喚んでくれたアレク。


「生徒会の用事ではないのです。

 実は、今日ジェイク様とリゼさんが王都にお戻りになりました」


「……! そ、そうだったんですね」


 一体結果はどうだったのか、と。

 彼は玄関入ってすぐの階段手前に立ち止まり、食い入るような視線をカサンドラに向けていた。


「アンディさんはご無事だそうです」


「よ、良かった……!」


 彼は力が抜けてしまったのか。

 珍しくその場にしゃがみこんで、顔を両の掌で覆った。


 自分の手で運命を変えたいと強く願っていたアレク、しかしリゼに全てを託すことになってしまい、ずっと気になっていたのだろう。

 漸く全てが上手くいったのだ、と実感すると冷静ではいられないのも当然のことだ。



「そしてシリウス様が皆様を生徒会室に招集し――

 三家側の事情を深く知る彼自身から、多くの事を教えて頂きました。

 本当はアレクにも同席して欲しかったです。

 ……力及ばず、申し訳ありません」



「姉上。

 僕も自分の立場は弁えているつもりです。

 ……どうか気にされないでください」


「後日、シリウス様からアレクに報せがあるはずです。

 その前に現状分かったことはわたくしからお話するつもりですが」



「そうなんですね、気を遣わせてしまったみたいで……すみません。

 ……うーん……

 シリウス……様………。

 うーん……」


 立ち上がって小難しい顔をするアレクと一緒に、カサンドラは廊下を歩く。

 彼が気にするだろうし、まずはシリウスから聞いた衝撃的な話も込みで出来る限りアレクに伝えたい。

 その上でまだ気になるところで直接シリウスに質問する、という流れの方がシリウスも手間がないだろう。


「アレク、シリウス様がどうかされたのですか?」


「いえ……

 シリウス様に、『様付け』するのって慣れないですねぇ……。

 ジェイク様……やラルフ様……も同じですけど」


 彼は困ったように照れ笑いだ。


 王宮にいた時には彼らに会う時は普通に兄の友人で呼び捨てだったので、面と向かって「様付け」で呼ばなければいけないということに心理的抵抗を感じているようだ。

 そりゃあ、元王子様なのだからアレクが様付けをするのは殆どなかったことだろうが。

 もう”侯爵家の養子”に慣れてしまったはずのアレクでも、そんな反応を示すのかとカサンドラは戸惑った、が。


「だって姉上。

 姉上だって、ベルナールさんと再会して『ベルナール様』って呼ばないといけない状況になったら――抵抗あるでしょう?」




 唇を尖らせ、珍しく年相応の拗ねた口調のアレク。

 そんな彼のもしもの話に、想像したら背筋がぞわっとしたので、十分共感するに至ったのである。





 ※





 今日から普通の学園生活、と考えるとつい頬が緩みそうになる。

 何分、隊商襲撃事件以来カサンドラの心は決して休むことがなかったのだ。


 昨日シリウスから諸々の情報を聞き、『答え合わせ』をすることができた。

 今まで皆で考えていたことが正鵠を射ていたことは純粋に誇らしかったし、推測だけでは全く分からなかった聖アンナの話までおまけに聞いてしまった。

 この学園が聖女のために創られていると分かり、まさに育成要素のある乙女ゲームの舞台に相応しい箱庭だったと知った。

 

 ある程度事情が明るみになり、現状三家側も手出しが難しいことも察することが出来たのは幸いだ。

 少なくともこの学園生活の残りを過ごすことくらいの猶予はもらえそうだし、その期間に巻き戻りを止めるという大きな目標を目指せる。

 

 ジェイクやラルフに王子への不信感を与えるための事件さえ、主人公が未然に防いだのだ。

 当然向こうの行動は一際慎重になるだろう。


 懸念事項は三つ子の聖女覚醒だけだが、機会を与えなければ良いだけの話だと言われ肩の荷が下りた想いだ。


 仮に三つ子が覚醒したとしても、シリウス達が『悪意の種』へのアクセスを魔法で封じることに成功すれば時間も稼げる、三家の当主と直接交渉も可能になるかもしれない。

 



 当面は、このまま……?




 ああ、こんなに晴れやかな気持ちで登校するのは久しぶりだ。


 馬車を降り、朝の眩しい陽光を浴びてカサンドラは感動に打ち震えていた。



「カサンドラ様、おはようございまーす」


 胸元に軽く拳を握っていたカサンドラはさりげなくその手を下方に下げて振り返る。


 肩越しに振り返った視線の先にいた三つ子は、それぞれ普段通りの笑顔と表情で挨拶をしてくれた。

 軽く駆け寄ってくる彼女達が三人揃っている光景に、今更ながら奇跡だと思う。


 最初はなんで三つ子なんだ!? と驚き戸惑った。

 一つの世界に一人の主人公というゲームの原則を無視して、彼女達は三人揃ってここにいる。

 今は彼女達が一緒にいない世界の方が考えられない、それくらい馴染んでしまった光景だ。


「皆様、昨日はお疲れさまでした。

 リゼさんの体調はいかがですか?」


 確か昨日、腰が痛いと訴えていた。


「はい、何とか日常生活に問題ないです。

 ぐっすり休んで疲れもとれました」


 強がっているわけではなく本当に随分良くなったようだ。

 凄まじい回復力、これが若さか……と、カサンドラは感嘆の念を送る。

 

 まぁ、ゲームの中の主人公も疲労で一日休んだ後は体力も順調に回復する仕様だったので、その辺りの設定も反映されているのかも知れない。

 どこまでも、関連付けようと思えば結びつけることが出来るのだなと自分の思考の方向性に苦笑した。


「これからは今まで通りの学園生活が送れるのですよね。

 私、とても嬉しいです」


 リナははにかみながら、控えめな言葉で喜びを言い表す。

 全く同意せざるを得ない。


「学園の外でラルフ様に会えないのは残念ですけどねー。

 折角両想いになれたのにー」


「それは言わない約束でしょ。

 私もリナも同じなんだから」


「でもリゼは一週間に一度、ジェイク様の家庭教師で二人っきりになれるでしょ?

 ……ズルくない?

 ねぇ、リナ」


「え!? ……それは……

 あの、私は放課後、図書室で魔法理論の勉強をシリウス様と一緒にする予定なの。

 週二回は会えるように調整して下さるって」



「えーー!?」



「お願いだから、私と同じ顔でそんな不細工な表情しないで」


 衝撃を受けて顎をカクンと外すリタを、おぞましいものを見るかのように睥睨してリゼはそう言った。


「リタさんは、ラルフ様の婚約者役として外に招かれる機会もあるのではないですか?」


 リリエーヌとして、彼の婚約者役を演じる必要があるだろう。



「それが――二人で行動するのは危険だから、招待されても連れて行けないって言われました。

 完全に私、お役御免ですよ」


 意気消沈するリタをどう慰めたものか、とカサンドラも言葉に詰まる。


 リリエーヌの正体がリタであることは当然三家も把握している情報だ。いや、その方が都合がいいからわざとリタにそういう役目を振った――という見方も出来る。

 そんな状態で大手を振って二人で外出すれば、どんな事故に巻き込まれるか分かったものではない、というのがシリウスの言い分らしい。

 リリエーヌを招待する貴族に、三家の息がかかっていない保証はない。


 他家を巻き込まないためにも、婚約者のフリは必要ないのだ。

 そう言い含められ、リタも半分以上涙目であった。


 折角あんなに両想いになったと飛び跳ねて喜んでいたのに、現実は非情だ。



 とぼとぼと肩を落として消沈するリタ、そしてリゼとリナと一緒に教室へ向かう。

 既に教室には大勢屯して賑やかな声が響き、廊下にまで伝わってくるほどだ。


「王子達、今日は早いですね」


 リゼが首を傾げて呟く通りだ。

 こんなにも賑やかということは教室内に彼らが既に揃っているのだろうが、普段の登校時間はもう少し遅かった気がする。


 ジェイクが早めに来たというのなら、久しぶりの登校に大勢詰めかけているだろうことは想像に難くない。

 二週間近く欠席したのは初めてのことだ、何があったのかと聞きたがる生徒も多いだろう。


 何にせよ、王子達が教室内に先にいるからと言って自分達が躊躇う必要は無い。

 カサンドラ達はごくいつも通り、自然な挙動で教室内に入った。


 いつもは自席のある教室後方の扉から入るカサンドラだが、今日は三人と一緒に揃って登校ということで久しぶりに前方の扉を開け、「おはようございます」と中に入る。


「おはよう、キャシー」


 予想通り先に登校していた王子が、教壇傍からカサンドラに片手を挙げて笑顔を向けてくれた。

 見慣れたはず、聞きなれたはずの王子の存在と言葉に、しかし今日は一段と爽やかさが増している気がして心に突き刺さる。


 教室内で大勢に囲まれていたのは、やはりジェイクだ。

 男女問わず彼の周辺には生徒が多いけれど、今日は彼が登校してきたことを聞きつけた他学年の生徒も押し掛けている。


 教室が、凄く狭く感じる……


 シリウスはそんな周囲の騒然とした中、我関せずとばかりに自席で分厚い書物を開いて目で追っている。

 遠目に見ると、武器になりそうな厚さ辞典にしか見えない。

 早速、昨日話していた魔法の事を調べているのだろうか。相変わらず仕事が早い。


 ただ、唯一ラルフの姿だけが教室内にいないのが気になる。

 まさか昨日の今日で、学校を休む――という理由もない気がするが。




 どうしたのかな、と疑問に思うカサンドラ。そんな自分を置いて、事態が大きく動いた。




「お、やっと来たか」



 ジェイクが教室に入って来た自分達、いやリゼを見てパッと表情を明るくする。

 この教室にジェイクとリゼが揃うのも久しぶりだなぁ、と耽る時間の余裕はなかった。


 ジェイクは人垣を掻き分けるように近づいてくる。

 そして――


 戸惑いの表情を浮かべるリゼの腕をぐいっと強く引っ張った。

 急な行動に驚き、鞄を床に落とすリゼ。


「ジェイク様?」





「おい、皆注目!

 今から言うこと、よーく覚えてろ。



 俺はこいつと結婚することに決めたからな。

 ……俺の女だ、間違っても手を出すなよ」






     …………。


     ……………!?




 一拍の沈黙、空気が完全に凍り付いた直後。

 教室内は、嘗てない程の混乱ぶりを呈し、皆、とりわけロンバルド派の生徒は泡を食ったようにジェイクに事の真偽を問いただそうとする。

 完全に不意打ちで、誰もが信じられないものを見る視線で彼らに詰め寄ろうとしたが――



「ジェイク様! ちょっと、こっちに来てください!」



 ようやくハッと我に還ったリゼが、状況を把握し――自分の肩を抱き寄せる彼の腕を掴む。

 そして「いいから! 早く!」と、自分の言った事がどんなとんでもないことであるのか理解していないジェイクを、無理矢理廊下に引きずり出す。

 本気を出したらジェイクも腕を振りほどくのは簡単だろうが、流石に今はなすがままだ。


 何をそんなに慌てているのか分からない。


 そんな顔のジェイクに、カサンドラは夢でも見ているのかと頬を引きつらせた。




 『どういうことですか!?』




 廊下に出たリゼが、ジェイクを問い詰める声が壁や扉を貫通して教室内に響き渡った。




 皆、今起きた出来事が白昼夢ではないかと呆然としていたのだが……




「……おはよう。

 今日は朝から騒々しいね」



 ジェイク達と入れ替わるように、ひょいっと教室に入って来たラルフが騒然とする教室内を見渡す。

 よく見れば彼の席には既に鞄が置いてあるようだ。

 登校した後、どこかに出かけていたのだろうか?



 「どういうこと?」「やっぱり!?」などと下級生や上級生の女生徒が声を上げて言い合っている背景を全く気に留める様子もなく、ラルフは石像のように固まるリタに声を掛けた。


 すぐ傍にいる王子やカサンドラなど彼の視界には入っていないのかもしれない。


「ら、ラルフ様……!

 あの、ジェイク様が……ええと、リゼが……」


 突如スイッチが入ったように、わたわたと両手を動かして動揺のかぎり言葉を探すリタ。

 衝撃的な光景を目の前にして、息も絶え絶えと言った様子であるが。


「ああ、二人は廊下で揉めていたね。

 ……痴話喧嘩だろうし、放っておけばいいのでは?」


 ジェイクの突飛な言動にリゼが度肝を抜かれたのは想像に難くないが……

 それを平然と受け流しているラルフにも吃驚する。



「そんなことより、僕も今君の話をキャロル嬢に伝えてきたところなんだ」


「え? キャロルさんに?」


「君が『リリエーヌ』という架空の僕の婚約者役をしてくれていたけれど、もう隠す事情もなくなったことと――これからは君を婚約者として扱うよう伝えてきた。


 僕が結婚を申し込むのは、彼女リリーではなく君だから」



「そんな……

 キャロルさん、怒りませんでしたか?」  



 お嫁さん候補を集めての舞踏会なんてものを開いて皆を参加させ、それも出来レースだったことを知ればキャロルだって参加した誰だっていい気持ちはしないだろう。

 しかも身分を偽り、婚約者だと喧伝していたなんて。


「勿論驚かれたけど、それ以上に喜んでくれてね。

 この件について彼女から他の女子に伝えたいとまで言われ、押し切られてしまったくらいだから。

 ……大丈夫、君が心配することは何一つない」



 リタは蒼い目を大きく見開き、その場に立ち尽くす。

 大騒ぎするでも奇声を発するでもなく――彼女は感極まったようにその場でポロポロと泣き出してしまったのである。



 人は悲しくても泣く生き物だが、嬉しくても泣けてしまう生き物だ。


 そんな彼女の頭を、ラルフは周囲の視線など全く気にせずよしよしと撫でている。

 ここだけ別世界というか、次元が違う……!




 カサンドラは、自然と彼女達から距離をとっていた。

 こんな衆目の前でこんな状況、本当に良いのだろうか? 目を激しく瞬かせ、困惑するレベルだ。


 チラとシリウスに視線を向けると、彼はやはり意に介さず黙々と調べ物を続けている。

 彼らの起こした騒ぎなど、一切気にしていない様子だ。


 シリウスが敢えて苦言を呈すことがないなら、構わない……のだろうか?



「彼女達と仲がいいアピールをするのは、悪くない選択だと思うよ。

 この話は当然『彼ら』にも伝わるだろうから」



 困惑するカサンドラを気遣うように、王子がこそっと耳元で説明してくれた。

 ……それぞれ仲がいい関係ならそれに越したことはない、今までのように想いを隠す必要など、もうどこにもない。


 彼ら自身、既に『枷』が外された後なのだから。 






 ※






「何だか、大変な事態ですね」


 シリウスにそう話しかけるリナは、困ったように微笑んでいる。

 リゼとジェイク、リタとラルフが結婚予定らしい――そんな話が学園中に広まれば、当然事の真偽や経緯を教えて欲しいとリナも質問攻めになるかもしれない。


「全く、あいつらは……。

 思い立ったら、すぐこれだ」


 彼は分厚い本を静かに閉じ、呆れたように溜息を落とす。

 別にそういう宣言をして回るのは構わないのだが、ちゃんと双方合意の上で動けばいいのに。

 急に話の矢面に立たされても、気持ちの整理がつかないだろう。




「ああ、そんな不安そうな顔をしなくてもいい。


 ――来月の聖アンナ生誕祭の場で、お前を私の婚約相手だと正式に紹介するつもりだ。


 それまでにセスカに赴き、フォスター家の両親に挨拶しなければな」





 今まで見せた事のない柔らかい笑みを浮かべ、シリウスはそう囁いた。

 憑き物が落ちたような、ハッキリとした言葉で。









  リナは思った。






 もしもシリウス、ラルフ、ジェイクの三人が揃って実家を訪れたら――








      母も父も、驚きの余り心臓発作で倒れるんじゃないかしら? 

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