第443話 <リタ 1/2>


 数か月前までは劇場で裏方仕事のバイトをしていたリタだが、現在劇団は地方巡業に旅立った後である。


 その後、リタは毎週末のように、ヴァイル公爵邸で『訓練』を続けることになってしまった。

 必要がなくなるまで、ラルフの仮の婚約者のリリエーヌとして社交界に顔を出さなくてはならないからだ。


 自分が公的な場で何かしら取り返しのつかない失敗をしてはラルフの顔、ひいてはヴァイル公爵家の顔を潰すことになるので緊張しっぱなしだ。学園で習う社交講座とは比べ物にならない、実に実践的でほぼマンツーマンの淑女特訓である。


 今日は社交ダンスの練習の名目でラルフの屋敷に顔を出すことになっていた。


 本来はウキウキで今日という一日を楽しみにするはずだったのだが、カサンドラや王子、そしてリナの話を聞いた以上それどころではない。

 何とかラルフに、如何にクレアにとって現状が危険なものかを分かってもらわなければいけない。


 ただ、リタはどうしてもこの世界が実は物語の世界だとか、自分達が主人公で聖女の役目を追っているだとか、何度も繰り返しているとか。

 そんな途方もない話を頭から完全に理解していないので、ラルフに上手く説明できない。

 理解を越える事情は伏せ、とにかく――


 ラルフの姉であるクレアに身の危険が迫っていることを伝える他なかった。

 昨夜一生懸命、説得方法を考えていたのだけれど。


 この国で人身売買を行っている非合法な組織があって、それが週末どこかで行われることになっていて。

 そこでクレアが商品として売られてしまうかもしれない。

 しかもこの状況下、アーガルドのあの何かを企むようないやらしい笑みを思い出すと――彼が妻をその場で売買する、なんて地獄が発生する可能性が高い。



 自分で言うのも何だが、事情を知らなければあまりにも突拍子もなく、馬鹿げた妄想とも言って良い訴えだと思う。


「……ラルフ様、お願いします。

 このままだとお姉様が危険なんです!

 アーガルドさんから引き離さないと……!」


 果たしてこんな稚拙な説得がラルフに通じるのだろうか。

 何かの物語を読んだ影響を受けているのか、と頭の可哀想な子扱いされてもしょうがない。


 普通に生きていて、自分だって人身売買だとか闇の組織だとか、本気で口に出す機会があるなんて思ってもみないことだ。


 ラルフに部屋へ迎え入れられるや否や、興奮気味に彼に疑問を差し挟む余地なく延々と話し続けている。


 彼は突然わけのわからないことを捲し立てるリタを、とても不思議そうに眺めていた。


「クレア様が、旦那様と何処へ行かれるのか……

 せめて、それだけでも一緒に確認してもらえないですか……?」


 全く声を伴った反応を返さないラルフ。

 ふざけた事を言っているので、熱でもあるのではないか、帰った方が良いのでは? と体よく追い払われるかも知れないとビクビクしている。


 もしもリタが彼の立場だったら、戸惑うだけでは済まないだろう。


 少なくとも、周囲の目を欺くためとは言え、完全にメイド仕様の服を着た少女が口にするような単語の羅列ではない。

 自分の姿を客観的にイメージして、恥ずかしさのあまり床にめり込みたくなった。

 



「………そうか。」



 だが彼は――感情を殺したような醒めた瞳で一言、そう呟いただけだった。

 そしていつもそうするように、部屋の中央に鎮座するふかふかの大きなソファを手の先で指す。

 座れと促されているのだろうが、彼の反応はリタが想像していたどれもと違っている。

 大きな混乱の渦に巻き込まれていく。


「………。

 あの……信じてくれる……んです、か?」


 自分の姉がそんな場所に行くわけがないだろう。

 そんな組織がこの平和な国に存在するわけがないだろう。

 文字通り妻を売るような夫がいるわけがないだろう。


 真っ先にそう否定されるかもしれないと思った。

 その場合は土下座でも何でもするから、とにかくクレアの様子をラルフと一緒に見張るしかない! と覚悟を決めていたのだ。

 信じてもらえないとしても、『お願い』したら彼は不承不承でも聞き届けてくれるのではないか? と期待していた。


 もしくはリタの言うことを全面的に信じてくれたなら――

 当然クレアの身を案じ、すぐにでも行動に移ってくれるに違いない。

 何せ自分の大切な家族の危機が迫っているのだ。突拍子のない話でも万が一、と動いてくれるはず。まさか座して見過ごすことはないだろう。



「信じるも何も。

 ……君がそう言うなら、姉は会場に行くのだろう? そこで……アーガルドのせいで危険な目に遭うのかもしれない。

 少なくとも君はそう信じているから僕に言ってくれたんだと、それくらいは分かっているよ」


「ありがとうございます!

 ――でも、何で……ラルフ様、助けに………ええと……」


 一緒に助けに行きましょう、と腕を掴む事は出来たかもしれない。

 しかしラルフの赤い瞳は先ほどから光を失ったかのようだ。精彩を欠いている。


 許せないと意気込むでもなく。

 信じていない、とバッサリと両断するでもなく。


 リタのとんでもない与太話にしか思えない話を信じた上で――何もリアクションを見せないというのは予想外過ぎる。


 全く想像していなかった状況に至り、リタの頭は真っ白になった。


「どうして……

 心配じゃ、ないんですか……?」


 ラルフはとても姉想いだと聞いている。いや、仮にそうでなかったとしても実の姉の身に危険が迫っているからと聞いてそれを否定せずに”受け入れる”ような態度?

 わけがわからない、とリタの脳内に「?」マークが乱舞する。



「姉さんは……望んでそこに行くのだろう?

 僕が、助ける?

 ………姉さんにとって――余計な事でしかないのではないかな」


「……ラルフ様?」



 それは言葉だけ額面で受け止めるなら、突き放したような冷たいものだっただろう。


 家族を見捨てる。

 好きにすればいい、と見捨てるような言い方だ。


 彼女が選んだことだから、どうなろうと彼女の勝手だ、と。



 だがラルフの表情は、先ほどと同じように感情の色がなかった。

 無理矢理自分の中の想いを抑え、それが出てこないように抑えているように見える。

 いや――

 苦しそうだ、と言えばいいのか。



「どうして、そう思うんですか?

 もしも自分が困っていたとして、兄弟姉妹きょうだいが助けに来てくれたら嬉しいと思いますよ」


 普通は嬉しいはずだ。

 リタが苦しいと思う時、リゼやリナが手助けをしてくれたら嬉しい。


 世話好きのリナは言わずもがな、リゼだって口では何だかんだと言いながらリタが進退窮まっていたら手を差し伸べてくれるに違いない。

 リタは全力でその厚意に甘えるし、勿論感謝するだろう。




「……。どうして、か。


 あまり、聴こえの良い話ではないよ。

 聞き流してくれて構わない」


 彼はそう言って、僅かに肩を落とした。

 同時に、首の後ろで結んでいた彼の金の髪の先も小さく揺れる。


 愁いを帯びた赤い瞳。

 それを目の当たりにするだけで、リタの心も締め上げられそうな程苦しい。




 複雑な心境を、彼は自嘲を伴って語り始めたのである。





 ※




「僕はとても姉を慕っていてね。

 ――生まれた時からと言って良いかな。

 それは今でも変わっていないのだけど……」



 言いにくそうに、彼はぽつり、ぽつり、と。過去を思い返しながら言葉を選ぶ。



「実はね、僕は生まれた当時、虚弱児というか――仮死状態で生まれてきたらしいんだ。

 物凄く難産な挙句、ようやく生まれても泣きもしない。

 死産じゃないかとその場が凍り付いたそうだよ」


 ははは、と彼は目を据わらせたまま笑う。

 今のラルフはどう見ても健康で、とても生死の境をさまよった赤子時代があったとは思えないのだけど。

 まぁ十七年も前の事だ、人は心も体も成長するものである。


「しかも、母も危険な状態でね。

 危うく母子共に……という状況だったらしいよ」


 ラルフもラルフの母も命は助かったのだと彼は言った。

 その話に心底ホッとする。


 ラルフが生きているのは分かるが、もしもお母さんが亡くなっていたとしたら大変言いづらいことを告白させたことになる。

 自分を生んだせいで母が落命するなんて、あまりにも悲し過ぎてリタをしても何と言って良いかわからない。


「そんな生まれ方をしたせいだろうね、決して健康ではなかった。

 すぐに風邪をひいて寝込む、歩き始めるのも遅い、言葉を話し出すのも遅い。


 ――当時を知る使用人の話だと、僕は物心つく前から『死にぞこない』扱いだったみたいでね。

 まあ……ヴァイル家の嫡男が、虚弱で白痴なんて事になったら大事おおごとだろう? 不安もあったと思うよ。


 しかも僕のせいで長い間母が臥せっていて、公爵夫人としての務めを数年もの間果たせなくなってしまった。

 厄介者扱いされてもしょうがないというか」


 彼は口元に軽く握った手を添えるようにして淡々と過去を語る。

 ここまで”どこに出しても恥ずかしくない貴公子”様が語る過去とは全く思えない話に、リタはただただ聴き入ることしか出来なかった。


「姉さんだけはそんな僕を可愛がってくれてね、いつも一緒にいてくれた。

 僕にとっては一番身近にいた人だったんだ」


 クレアの歳は自分達より三、四歳くらい上だろうか。

 自分がそんな年頃の時、甲斐甲斐しく誰かの世話をしたことはないな、と思い返す。


 きっと――弟が可愛かったんだろうなぁ、と幼女姿のクレアと赤ちゃん時代のラルフのほのぼのとした光景が脳裏にぽわぽわと浮かんだ。




「僕はいつも姉さんに守られてばかりだったし、庇ってもらってばかりだった。

 劣った弟を持ったせいで親戚から嫌味を言われる姿を見て、子供心に腹が立ってね。

 このままじゃ駄目だと思った。

 今まで身体が強くないからと、止められていた事を望んでするようになった。

 

 ――姉さんに喜んで欲しかった。



  出来損ないの弟より、皆に自慢できる弟の方が嬉しいだろう?」

 




 脳裏にクレアとのやりとりが思い出され眩暈が生じ、頭が揺れる。


 彼女は確かに弟ラルフの事を可愛がっていたのだろう。

 とてもか弱い、守るべき存在であると――実の母に替わって、まるで子を守るように大事に。特別な存在だったに違いない。

 

 だが本当のラルフは生まれた状態がどうであれ、公爵家の嫡男に相応しい人間になる素因を持っていた。



  ――この子ラルフは劣っている、守ってあげなければいけない。


 そんな存在の弟が、早い内に姉をも越え皆に賞賛される”立派な弟”になってしまった。


 本来なら喜ばしい事だ。

 ラルフの望んだように、喜ぶのが普通ではないかとリタも思う。


 優れた才能を開花させるまでに至り、周囲に認められる能力を身に着けたなら誇れば良かった。

 だが……

 それはクレアにとって決して望んだ状況ではなかったのかもしれない。


 いつまでも自分の後ろについてくるはずだった弟が、いつの間にか全てを追い越していく。

 そして逆に守られる側になる。


 周囲の賞賛も興味も、弟想いの心優しい姉から――優秀な弟へと移っていく。






     あの子は私から奪っていく





 それは、もしかしたら……

 とても身勝手な事ながら、幼いがゆえに何も知らない自分を頼ってくれる”弟”を成長したラルフ自身に奪われたという気持ちがあったのかもしれない。

 一瞬の内に頭角を現していくラルフに戸惑い、その落差に堪えられなかった?


 理不尽だ。


 だが……リタには共感できない感情だが、辛うじて何とか理解は出来る。

 





 リタは『あああ……』と頭を抱えたくなった。




「姉さんに喜んで欲しかった。

 ずっと傍で守ってくれた姉さんを安心させたかった。

 僕の事を汚点だと思って欲しくなかったからね。


 でも、その頑張りは……

 僕の独りよがり、ただの独善でしかなかった。


 本当は姉さんがどう思っているか、そんなことも分かっていなかった。

 表面的な誉め言葉が全てで、本音が裏にあるなんて――まぁ、知ろうともしなかったわけだ。


 アーガルドに言われた時は、愕然としたどころではなかったね。



 ……僕が姉さんの居場所を奪って、知らない間に追い詰めていたなんて。

 僕は彼に言われるまで全然、気づかなかった」


「それは……」


 絶望的に姉弟の気質・相性が合わなかっただけではないかと思うのだ。

 世の中にはどうしても合わない気性の人は絶対にいる、それが不幸にも姉弟のケースだったということ。

 なまじ最初は弱い弟を支え助けたい、という姉の優しさがラルフの状態とぴったり重なっていたことがその後の姉への感情の負担になってしまっただけで。


 誰が悪いわけでもないのではないか。


「姉さんが連れてきた恋人に、僕も家族も大反対をした。

 見かけだけは一端いっぱしに貴族ぶっているけれど、とても自堕落な男でね。

 いくつも商売を始めては借金を重ね、払えなくて実家に泣きつく。

 同じ失敗を繰り返す――

 口だけは上手い男だよ」


 そんなお金にだらしない男、もしも家族が連れて来たら絶対に反対すると思う。



「でも姉さんはアーガルドを愛していると言うんだ。

 あいつは、姉さんの望む言葉を言える。

 『必要としてくれる』のだと。


 ずっと一緒にいた家族おとうとの言葉は河原の小石ほどの価値もなかった。

 適当に生きてきた放蕩息子の軽い言葉に姉さんは心を動かされて、無理矢理結婚してしまった。

 駆け落ちをされるよりましだ、という父の一声でね」


 元々、クレアは公爵家のお嬢様。

 箱入りで、深窓のご令嬢だ。

 外の世界にいる口だけは上手く、大きな夢と適当な愛の言葉を謳う少しアウトローな感じの男に免疫が無かったのかもしれない。

 しかも一応貴族の出だったものだから、全く結婚が不可能というわけではなかったのも事態の悪化に拍車をかけた。

 誰からも祝福されずとも、彼女は愛を語って家を出ていく。


「アーガルドは途轍もなく厄介な人間だ。

 外面は良いのけれど内では姉さんを傷つけるような事を平気でする、ヴァイル家に平気でお金の無心に来る。

 ……限界だ、家に帰ろうとどれだけ言っても……

 僕の言うことになんか、姉さんは耳を貸さない。


 ”真実の愛”だと嘯かれては、僕には何も言えない」 




 ――あの人には私がいないと駄目なの。

   あの人は、私を必要としてくれるの!

 



 例え夫からどんな酷い扱いを受けても、言葉で謝って反省したふりをすればほだされる。

 それは極めて不健全な関係ではないか、と傍から聞いているリタも思う。



 というか真実の愛ってなんだ。

 今時物語の中でだって、そんな陳腐な言葉など使われないというのに。

 第一それは他人から賞賛を込めて使われる言葉であって、当人が自己陶酔するための単語じゃないぞ!



「……。

 元を糺せば、僕が姉さんを過剰に追い詰めてしまったからあんな男に捕まってしまった」


「それはラルフ様のせいじゃないのでは……」


「僕のせいだ。

 姉さんがアーガルドにしばしば言っていたそうだ。

 ”僕の傍から連れ出してくれた事に、感謝している”とね。

 ……僕がいなかったら姉さんはアーガルドの言葉に耳を傾けなかったのだと思うよ。若しくは両親の忠告を素直に聞いていたはずだ。


 ――考えてみれば、僕も本当に子供だったと思う」


 はぁ、とラルフは沈鬱な溜息をついた。

 眉根を寄せ、当時の事を思い返しているかのようであった。



「姉さんが好きだったヴァイオリン、教えてあげるなんて僕が言うべきじゃなかった。

 学園の宿題で分からない問題を教えてあげるなんて、弟に言われて嬉しい人はいない。

 姉さんの顔を立てないといけないと、紹介された女性に愛想を振りまいて……逆に姉さんに迷惑をかけたことも多かっただろうね。

 

 僕は成長した姿を見て欲しかった、だけどそれが彼女にとっては嫌味や自慢に見えてしまっていたみたいだ。

 おかしいだろう?」


「ラルフ様?」




「いつも傍にいる同じ家族。

 しかも尊敬して慕っていた姉さん相手なのに、この体たらくだ。

 僕には人の心が、分からないんだろう。



 それからは気を付けるようにしているよ。

 相手が何を考えているのか、常に警戒して本音ウラを探るようになったしね。


 ……もう、遅いけど」

 




『他人に優しく接しているように見えるけれど、あの子に人の気持ちは分からないでしょう』





 クレアは多分、ラルフがこんな風に過去を振り返って後悔していることを知らないままなのだ。

 彼女は自分が傷ついたと言いながら、相手が傷つくことには無頓着……?

 ラルフのことなど見たくないと、何を言っても良いと思っている?



 いや。そうとは思えない。

 だって彼女は――



 リタの思考は、そこで一瞬途切れる。



「リタ嬢。

 僕は姉さんがアーガルドの傍にいることが幸せだというなら、もうどうしようもない事だと思っている。

 姉さんに辛い思いをして欲しくない、という僕の勝手な価値観で邪魔をするのが躊躇われる。

 君がそこまで姉さんのことを気遣って助けてくれようとするのは有り難いけれどね。

 ……彼女自身が、それを望んでいる」


「奴隷として売られてしまうかも……死んでしまうかもしれないんですよ?

 旦那さんのせいで、そんな目に遭いたいわけ、ないじゃないですか!

 分かっていて助けに行かないって、おかしくないですか?」




真実の愛・・・・なんだろう?

 愛する人のためなら、命も惜しくないのかもしれないね。

 そんな覚悟おもいでアーガルドの傍にいるとしたら――どうして僕が邪魔出来る?

 僕は……これ以上、姉さんの人生の邪魔をしたいわけじゃない」





 愛って、なんだ。



 愛なんてものがなければ、彼女はそれをよすがにして他人から見れば不幸としか見えない結婚なんてする必要はなかった。

 だからラルフは愛という言葉、恋愛という言葉が嫌いなのだろう。





 自分の真っ直ぐな思慕の念、家族愛。それが彼女の心を曇らせ、追い詰めて。

 アーガルドの空気よりも軽い口だけの愛の言葉は”真実”だと受け入れられる。



 

 ……それが、愛だと?

 愛だから、何も言えない、だって?






 リタは、物凄く腹が立った。


 何だか――自分を、いや、皆を侮辱されているような気がしてならなかった。


 悲しかった。

 そんな想いを”真実ほんとう”なのだと勝手に納得しようとしている彼が。




「ラルフ様!」


 思わず、ドン、と。

 間に置かれた分厚い樫作りのテーブルを――拳で叩いた。

 気持ち的には、叩き割りたかった。


 ヴァイル公爵邸の豪華絢爛としか表現できない広い応接室。

 何故か主人であろうお坊ちゃんと向き合って座るメイド服の小娘が、突然怒りに満ちた表情でテーブルを叩く姿は他ではお目に掛かれないだろう。





「謝って下さい!」


「は?」







「私だけじゃなくって!

 カサンドラ様や、リゼやリナ――世界中で恋愛してる女の子達に物凄く失礼だと思いませんか!?



 そんなの真実でも何でもないです、愛って言葉に謝って下さい!」





 我知らず、全力でがなり立てていた。



 

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