第137話 茶請けは恋話で


 ラズエナの別荘に招かれ三つ子と一緒に楽しんだ時間も本当にあっという間だ。


 もう少し長く滞在できれば良かったのだが、彼女達にも予定というものがある。


 『暑い中だ、往路は大変に疲れるだろう。今年は帰って来なくても宜しい』という父からの手紙でレンドール行きの帰省案件が消し飛んだカサンドラとは違う。


 お城の舞踏会に招待された際、父クラウスは特に何も言っていなかったというのに。

 数多の貴族令嬢がそうであるように実家に帰る準備をしていたカサンドラに手渡されたのは、帰省しなくてもいいという父からの素っ気ない言葉であった。 

 物凄く脱力した。


 ……故郷にどうしても会いたい友人がいるわけでもない、帰ったところでレンドール繋がりの貴族達から招待責めで疲労困憊になることも目に見えていた。

 それにカサンドラが移動するとなると、また手配諸々も面倒だしあちらも騒がしくなるし……

 帰らない方が良い理由はいくつか見つけることは出来る。


 もしも王子と共にレンドールに帰省します! という話なら別だが。

 生憎王子と出かける予定は観劇だけという物寂しい状況だ。


 王子がカサンドラの出身地に顔を出すなど、夢のまた夢の話なのだから。



 父からの申し出は大層ありがたかったはずなのに、帰ってこようが帰らずにいようがどうでもいい扱いをされると内心複雑である。


 アレクなどは舞踏会の後喜々として両親とともにレンドールに旅立って行ったというのに。

 何ならもう別邸には戻ってこないのではないかという浮かれっぷりを見ているカサンドラは――帰って来なくても良いという理由にアレクの願いが込められているのではないかと穿ってしまった。

 レンドールに帰ってまで姉の面倒ごとに巻き込まれたくないというアレクの確かな意思を感じる……! 


 昨日あたり、三つ子は揃って実家のセスカ領に馬車で向かっていたのではないだろうか。

 このような頻繁に長距離馬車を利用させることになって、かなり申し訳ないと思っている。



 そしてカサンドラは、ぽっかりと空いた予定を埋めるべく――


 急遽お茶会を開くことにしたのである。



 流石に一週間、誰にも会う予定がないのは辛い。


 以前は友達なんていらなかったのに。

 人と話をすることなんて好きじゃなかったのに。


 三つ子と一緒にいて、友人という感覚を知ってしまったら一人で居るのが途轍もなく寂しくなってしまったのだ。


 やはり人間とは欲張りな生き物だ。

 満ちるを知り猶、もっと満たされたいと願う。




 ※





「――本日はお招きいただき、誠にありがとうございます!」


 まさに直前の誘いであったにも関わらず、カサンドラの別邸には四名の令嬢方がちゃんと頭数を揃えるように訪ねてくれた。


 最初に恭しく頭を下げたのはカサンドラも良く良くお世話になっていると言っても良い、クラスメイトのデイジーだ。


 彼女はまるで他の三人の令嬢を引きつれるかのようにして一歩前に歩み出た。

 濃いブラウンの長い髪を揺らし、蒼い瞳を絨毯に向け伏せ辞儀をする。


 だがそれは彼女達が緊張しているからに外ならず、デイジーのように前のめりにカサンドラに近づいてくる女性がいないだけということでもあった。

 何度かデイジーをここに招待したことがあるし、個人的に仲も良好だと思ってる。普段はあまり前に出てくることのないデイジーだが、必要とあらば率先してこちらの意を汲んでくれる頼れる友人。


「皆様、急なお呼び立てにも拘わらず訪ねて来て下さって嬉しく思います。

 暑い季節ですもの、今日はサロンで寛ぎましょう」


「まさかカサンドラ様からお声をかけて頂けるとは思わず、大変恐縮です」


 そわそわ落ち着かない様子の女生徒はそう言って頭を下げた。

 上品なフレンチスリーブのワンピースで、裾は可憐な花柄模様。彼女達は自分と同じく地方貴族として国王陛下より爵位を賜った親を持つ貴族令嬢だ。


 男爵家、子爵家という面々になるが、彼女達も顔を見合わせて不思議そうな顔をする。


 一々自分達のような下位貴族に声を掛けなくても、いくらでももっと有力貴族の令嬢達を呼ぶ事が出来るだろうに。

 その瞳には若干の不審、不安がぬぐい切れていない。


「こちらで立ち話も難です、移動しましょう」


 カサンドラはにっこりと微笑んで彼女達を促した。

 そして今更隠し立てをしても仕方ない、と正直に彼女達に話すことにした。


 帰省が取りやめになってしまって、予定が空いてしまったこと。

 突然のことで、声を掛ける相手として話しかけやすい同じ地方出身の彼女達を選んだのだけれど、そこに他意はないということ。


「普段あまりお話する機会もありませんし、宜しければご一緒したいと思っておりました。

 来て下さって本当にありがとうございます」


 女子寮から通っている令嬢達は皆出払っているので、声を掛けたのはデイジーのように王都に別宅があったり親族の家から通っているお嬢様である。


「とんでもないです、カサンドラ様にお呼びいただけるのならたとえ帰省中でも飛んで参ります!」


 いや、流石にそこまでされるとこちらも困る。



 ふと彼女達の足元を見ると、微かに震えているようにも見えた。



 ――今までのカサンドラはレンドール主催のお茶会に呼んだ令嬢に対してどう接してたのか。

 今の彼女らのように緊張して畏まって、自分に礼を尽くしたり気を遣うのは当たり前のことだとスッカリ思い込んでいた。

 成程、女王様気どりだったと言われれば反論できない。


 考えてみればこのような若い女性が単身、同じ年代の機嫌を損ねてはいけない相手に気を遣いながら接するのは大変辛いことだっただろう。

 守ってくれる親族もおらず、「ごまをすって取り入ってこい」と相手の屋敷に放り込まれるのだ。


 もしも粗相があったら一大事と神経を擦り減らし、笑顔が笑顔になっていない様を見ると本当に心苦しい。


 カサンドラにとっては、たまたま空いた日程に他の令嬢と親交を深めつつ情報収集をと思い立っただけである。

 別に機嫌伺に飛んで来いなんて言ったつもりはない。


 だが急に呼び出しをしたという時点で軽んじられていると捉えられても仕方のない話だ。

 まずは彼女達の警戒心や緊張を解いて、同い年の地方出身の誼ということで気軽に話をしてもらえるようにしなければ。



 ……こちらとしては折角予定が空いたから学園の知人、友人らとゆっくり過ごしたいというだけの気持ちだったのだ。

 もしもこのままの面持ちで帰してしまえば、『カサンドラが休み中に格下貴族の令嬢を無理やり呼びつけ侍らせていた』だなどと思われかねない。




 彼女達の緊張を解くために、一体どうしたものか……。


 完全に平民の三つ子達が、ああも普通に接してくれるものだからカサンドラも少々勘違いしていた。

 むしろ微妙な立場の貴族令嬢こそ、カサンドラに接する時に最も緊張するものかもしれない。

 なまじ、立っているフィールドが同じな分逃げることも関係ないと見ないふりをすることもできないのだから。



 以前三つ子を歓待した別邸内サロンに令嬢達を招待し、思い思いの席に座らせる。


 彼女達も故郷の場所は全く異なる離れた地方出身でも、どうしても肩身の狭くなる立場上自然と打ち解け合って仲良くなっていることは見て取れた。

 故郷を離れ学園に通い緊張を強いられるのは大変なことだろう、仲間意識があってもおかしくない。


 こちらから執拗に話しかけても彼女達の緊張が解かれることはあるまい。


 ケーキスタンドに並ぶシェフが手によりをかけて作成したデザートの数々、給仕が淹れてくれた最近サーシェ商会で取り扱い始めた紅茶。


 暑くないように室内は氷水を張ったオブジェをいくつも設置し、ひんやりと涼しさを演出している。

 ラズエナのように清涼な空気とは言い難いが、室内は十分に冷えているはずだ。



 三つ子達のように勝手に懐いてくれるわけではない、彼女達もレンドール侯爵家との関わりを損なうわけにもいかず、次期王妃候補の自分に呼び出されてどんな無茶ぶりをされるのかと内心震えているのだ。


 カサンドラだって、ラルフの家が主催するパーティに単身呼び出された時は身の置き場が無かったものだ。

 既に出来上がった関係の中に飛び込むことはカサンドラでも嬉しい気持ちはしないし、胃が苦しくなることもあるのだから。


 よし、と。

 カサンドラが緊張し紅茶の表面を気まずそうに眺める令嬢達に、どうにか緊張を解くよう声を掛けるべく口を開きかけた。


「まぁ、皆さん。そこまで畏まらなくても宜しいのではないでしょうか。

 確か学園で、カサンドラ様に王子との事をお伺いしたいと盛り上がっていらしたの、私もしっかりとこの耳にしています。

 ご本人がいらっしゃるのですもの、今なら聞き放題ではなくて?」


 フフン、と何故かデイジーは嬉しそうにそんな事を言い出すものだから。

 カサンドラを始め、雁首を揃える他の令嬢達も思わず噎せ返るように前傾姿勢をとる。


「で、デイジーさん! 私達はそのようなプライベートなことを知りたいだなど……」


「実は私、以前カサンドラ様と王子が街中でデートされていらっしゃる場面に遭遇しましたのよ。

 あの時は本当に驚きましたわぁ」


 あれは完全にデイジーの仕込みだったのではないかと確信しているカサンドラである。

 今になってあの出来事を喜々として蒸し返そうとしてくるとは。


 しかも流石花も恥じらう乙女たち、人の恋愛話というものに大変興味津々な事も一瞬で悟ってしまう。

 「そのようなプライベートな事を」と慌てる中にも、良ければ聞かせてくださいと言う意思がチラチラ見え隠れしている。


 デイジーも彼女達の気持ちを解きほぐすためとはいえ、中々カサンドラの心臓に悪い切り込み方をするものだ。

 そしてデイジーに鼻高々と宣言されてしまえば、こちらもみっともなく慌てたりその話はしないで頂戴、なんて冷たくできない。

 緊張がフッと解けたこの瞬間を凍らせるわけには行かないのだ。


 あまり付き合いのない者同士で一番簡単に得られる同調は、きっと陰口や悪口、そして愚痴などの負の感情に違いない。

 誰かの悪いとことや噂を元にひそひそと話をして、直接的ではないが皮肉や嫌味を言い合って意地悪く笑い合う。


 手っ取り早く仲間意識を持つことが出来る。

 例えば中央貴族達ってお高くとまっているだなどという反感を口に出せば、きっと彼女達も頷いて異口同音にカサンドラの口さがない悪口に賛同してくれるだろう。

 それも一つの結束の方法ではある。


 だが、勿論そんな気分の悪い会合にしたいわけではない。

 出来るだけ明るい話題で彼女達と親しくなりたいのだ、彼女達の立場からしか分からないようなことも沢山あるはずだから。


「――ええ、わたくしも大変驚きました。

 とても不思議な偶然でしたね」


 その含みを持たせた言い方に気づいたデイジーは、スーッと目を逸らす。

 やはりアレは仕込みだったのか。

 王子と二人きりになれたことは嬉しかったから良いのだけど、そこまで気を遣われていたことに戸惑いを禁じ得ない。


「カサンドラ様は、王子とどのような場所に行かれたのですか?」


「あの時は孤児院の慰問や、街中をゆるりと散策して――

 ゴードン商会の経営されているカフェに立ち寄りましたの」


「ええ!? 王子がそのような場所に……!?

 カフェ、ですか?」


「カフェに入るのは初めてというお話で、とても興味深そうにされていました」


「丁度その時、私と友人がそのカフェで話をしていたのです。

 まさかカサンドラ様がいらっしゃるとは思いもよりませんでした」


 デイジーは軽く咳払いをして言葉を足す。

 あのカフェを使うということはリゼには事前に話してあった、間違いなくそこから通じたに違いないと確信に至る。


「それは驚きます、私だったら飲み物をひっくり返してしまったかも」


「ですよね、あの王子が……って、目を疑います」


「ですが可愛らしいですね、王子とカサンドラ様がそんな庶民的な」


 令嬢達も心なしか声に喜色が宿ってくる。

 女の子は恋話に弱い。特に親に婚約者がどうだと常日頃から薦められ勝手に決められるような立場の彼女達にとって、恋愛とは憧れの物語だ。


 こういう話に全く興味がないのであれば早々に打ち切ろうと様子を伺っていたが、彼女達の目が爛々と輝いているのをカサンドラは見逃さなかった。

 カサンドラがどうというよりも、王子には熱狂的なファンも数多い。

 普段の日常が完全にヴェールに隠されているからこそ、皆の知らない日常を垣間見ることに後ろめたさと興奮を覚えるのだ。



 ……うん、その気持ちは分かる。王子が普段どんなことしてるのか、自分ももっと知りたいし……。




「なんとなんと、その日は開店以来千組目のカップルということでカサンドラ様と王子は特別席にご案内されたのですよ!」


「まぁ、何という偶然……! 王子は神様にも愛されておいでなのですね」


 令嬢の一人が全く疑うこともなく素直に感動しているのが心に痛い。


 ホホホ、と。

 カサンドラは何もコメントすることなく紅茶を口にする。

 王子は偶然を必然に変える豪運の持ち主だとでも思ってもらって支障はないことだ。


 ……カサンドラと王子が仲が良いのだということを、殊更喧伝したいデイジーと。

 そして王子がどんな人なのか興味津々の彼女達の希望ががっちりと噛み合って、完全に女子学生の放課後のような様相を呈してきた。


 己の身を削り過ぎたかと若干後悔するが、彼女達が打って変わって楽しそうに年頃の女の子の空気で話を続けるものだから。

 まぁいいか、とついカサンドラも見過ごすことになってしまう。



「最も、そのせいで護衛として同行していたジェイク様が席を離れることになってしまったわけですが。

 あの方もお二人の仲睦まじい様子を遠巻きに――」


 気分よく話を続けていたデイジーを遮るように、正面に座っていた一人の令嬢が身を乗り出す。

 隣のクラスで普段あまり付き合いのない生徒だが、だからこそ今日は少しでも仲良くなれればと声を掛けたわけだ。

 控えめではにかみやな彼女が、相手の話を遮るような一面もあるのかとカサンドラも目を丸くする。


「ジェイク様は王子の護衛もされるのですか!?

 ……ああ、そう……ですよね! はぁ……

 さぞかし絵になる光景だったでしょうね……!」


 何故かそこで頬を染めてうっとりしている彼女の姿を、デイジーは怪訝そうな表情で見つめる。

 首を傾げるこちらの心情を察したのか、隣の少女が友人をフォローするように慌てて両手を横に振る。


「申し訳ありません、この子、ジェイク様に憧れが強いみたいで。

 ……はぁ……」


 そうか、ジェイクのファンの一人か。

 家柄だ性格だなんだという以前に、顔が良いからしょうがないのか。

 顔が良いから何でも許されるなんてカサンドラも思ってない。

 が、許されないといけないことをしていない人間のルックスが良かったら――そりゃあ好感度しか上がらないだろうし。



「ラルフ様の方が絶対素敵だって何度言ってもここは割れるところなんですよね。

 生誕祭の時には気を失うかと」


「あの生誕祭、ジェイク様の騎士姿で記憶が飛んでて覚えてないのよ」


「ミステリアスクール系のシリウス様の方が、見ているだけなら一番目の保養になると思うのですが」



 呆れたように溜息をつく少女と、キラキラを目を輝かせる少女と、得たりと自信満々にそう宣言する少女と。






   ……こんなところでも派閥を作るな!





 心の中で攻略対象達に文句を言いたくなってしまった。

 本人たちの与り知らぬことであろうが、つい心の中で彼らの背中を一人ずつバシっと叩いてしまう。



「申し訳ありません、カサンドラ様」


 何故かデイジーは悔しそうに歯噛みし、表情を曇らせる。


「私がジェイク様の名を出さなければ……!」


 もっとカサンドラと王子の話が出来たとでも言いたかったのだろうが、正直に言えば少しほっとしている。

 普段からそれぞれ十二分に女子生徒に囲まれて慕われている彼らの話なら、まだ心穏やかに相槌を打てるという物だ。


 あまり自分と王子の関係について詳らかにしたいものでもないし、そもそも開示できるほどの関係性ではないことを誤魔化す方が心苦しい。

 デイジーは自分と王子の仲の良さを出来るだけ多くの人に知ってもらおうという気概を持っているらしく、それは彼女の立場を慮れば理解できる。

 でも中々それに応えられない自分を省み、少し悲しくなってくるのだ。



「そういえば最近ジェイク様達と結構仲良くしてる特待生がいると聞きました」


「同じクラスの三つ子……? 

 たしか、ただの特待生なのに親しく声をかけてもらっているとか」


「私のクラスの方でも話題になってます。

 平民出という言葉は好きではないですが、そのように非難されている人も結構見かけますね」


「確かにもう少し立場を弁えてもらいたいなと思うこともありますよねぇ」


「なんでラルフ様達は、あのような特待生の方に親しく接しているのでしょう」



 心底疑問だ、という令嬢達が首を傾げて三つ子のことを言及している。

 やはり彼らと接触する時間が多いということは、それだけ反感や嫉妬を買う機会も多くなるということだ。

 長期休暇で顔を合わせる機会がないならいざ知らず、徐々に親しくなっていく過程で誤魔化しがきかなくなる日も訪れるのではないか。


 カサンドラの肝が冷える。

 ミランダに水責めを食らったリゼではないが、あまりにも目立ちすぎると身に危険が及ぶのではないか。


 ……ただ好きだ、というだけでも人間関係は拗れる。

 そこに家の事情や親の思惑、己の上昇志向などが乗っかれば不穏という単語では済まなくなる可能性も見えてくる。


 彼女達を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 


「そのように不思議に思われる必要などありません。

 貴女達はジェイク様方の事を人柄を含めてお慕いしているように見受けられますが――


 もしも話しかけてくる同級生が”平民だから”という理由で、露骨に無視をしたり冷たい態度をとったら嬉しく思いますか?」


「………。」


 一瞬の間に想像したのだろう。

 何か違う、という釈然としない顔が答えだと思う。


 傍若無人に自分の方が立場が上だから弁えて話しかけて来るな! なんて振る舞う人間に魅力を感じるなんて、骨の髄まで環境に毒されているとしか思えない。

 彼女達は普通の感性を持つ女生徒だからこそ、言われて納得できるものがあったのだろう。 




「あの方々も、学園という限られた世界の中で正しく立ち振る舞っているだけではないでしょうか。

 同級生として話をするだけで騒ぎ立てられては、窮屈というもの。

 今しかない機会ですもの――懐の広いところも良いところだとわたくしは思っております」



 自分がそういう状況をフォローするような事を言うのも、少々不思議な気持ちだ。

 だが出来るだけ穏便に、クラスメイトという立場で誤魔化しがきくまでは邪魔が入らないよう見守る他ない。

 カサンドラは機会を作り、助言は出来るけれど。結局それしか出来ない。


 嫉妬や計算渦巻く悪意から、彼女達を完全に守り切れるかどうか確証はないのだ。

 ああ、ゲームで遊んでいる時にはこんなに細かいことを考えなくても良かったのに。イベントごとに勝手に二人きりになることができた。

 平々凡々の日常の一部を切り取った瞬間しか映らないから違和感がなかっただけだ。


 ――彼らと日常生活を送るとは、実際にこんなにも困難が付きまとうものなのか。

 

 


 何にせよ、彼らの話からスムーズに学園生活の話に入ることが出来た。

 他のクラスでの人間関係など、複数の視点で教えてもらえることはとてもありがたいことだ。

 特に三つ子の事がそこまで話題になって、中には反感を持っている層もいるのだと聞いて悲鳴を上げたくなった。



 誰かに付き従われたいとは思わないけれど、他所の派閥関係の状態に無関心でもどこでヘマをするか分からない。


 勿論、地方貴族令嬢の彼女達が少しでも居心地のいい場所であるよう、尽力するのも自分の役割の一つだし。




 風通しが良い関係でいたいと思う。

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