第107話 一方通行六角形



 生徒の殆どが帰宅した後の閑散とした学園内。

 試験の順位発表も終わり生徒達は皆夏休みに向けて忙しない。


 特に貴族の令嬢令息の多くは週末はお城から舞踏会の招待状が送られているので準備に余念がないのである。


 放課後顔を突き合わせて話をしている自分達のことなど一々気にする人はいないはず。

 完全に気が緩んでいたカサンドラの正面に、雷を連発で落としてくる男子生徒達。


 何故……


 楽しく三つ子と話をしていたはずの中庭は、戦闘警報発令間近の緊急地帯へと姿を塗り替えた。



 呆然とベンチに座ったままのカサンドラ。

 勿論自分の左右に座る三つ子もそれぞれ、驚き戸惑って言葉が出ない様子である。

 二の句が継げない、絶句する、とは今のような心境を指すのだろう。


 それもこれも、全てはなんの躊躇いもなくこちらに向かって歩いてきたジェイクのせいだ。


「――……っと」


 そんな張本人は何ら気にすることもなく、数歩先の離れた場所に設置されている木造のベンチをひょいっと両手で持ち上げている。

 重量があるはずの腰掛けは、どしん、とカサンドラ達の正面に急ごしらえで移動させられてしまった。

 丁度自分達と向かい合わせ。あたかも中央に大きなテーブルが設置されているような間隔で、無造作に置かれた。


 ……呆気にとられるカサンドラを後目に、彼はもう一脚軽々と横に置いたのだ。


「これでよし」


 わざわざ椅子まで引っ張ってきて、君たちは一体どれだけ長居をするつもりなのだ!?

 だが自分達が座ったままで、彼らを立たせ話すわけにもいかない。

 特に王子を立たせるくらいならカサンドラは自分の席を譲るが、当然王子もそれを借りることはないだろうから何故か八人で立ち話……

 なんてわけのわからない構図になりかねない。


 ジェイクは自身が運んできた椅子に、躊躇なくどっかりと腰を下ろす。


 全く心の準備は出来ていないまま、長期戦突入の構えにカサンドラも覚悟を決める。

 どうせ昼の時間なのだ、食事があると言えばこちらで任意に解散のタイミングを図ることが出来ると考えよう。



 傍に立つ王子に、どうか座って下さい! と慌てて懇願した直後、彼は「ごめんね」と苦笑してカサンドラの正面に座ってくれた。


 手を伸ばしても届くわけではない、絶妙な配置だ。

 知人を来客として迎える応接間のソファセット、その距離感を再現したものだ。

 声を張らずとも会話は出来るし、かといって目の前過ぎて視界が眩しさで潰れる程でもないという。


 それにしても本当に顔が良いな、この人たち……。

 改めてカサンドラはその光輝の強さに己の影が濃くなった気がした。


 ジェイクやラルフ、シリウスもそれぞれ図抜けた美形であることは間違いない。

 存在そのものの位相が違う、この世界で特別な人間なのだと否が応でも人目を惹きつける容姿を持っている。


 顔だけではなくて能力も彼らの得意分野では誰もが惜しみなく称賛できる完成されたもので、それはこの先も揺るぐことは無い。

 貴族社会と言う特異な社会構造の中でも生まれは高貴で、お互い勝るとも劣らないハイスペックな少年たちだ。


 そんな物語の中のヒーローとも呼べる人間が具現化して、恋愛が出来て愛を囁いてもらえる……!

 想像したらゾクゾクする、まさに夢の世界。


 でも彼らとは違い、存在は認知されているが攻略できる人物でなかった王子。

 まさにカサンドラが王子様として抱くイメージをそのまま三次元化し、そして動いて喋って自分に微笑みかけてくれる。

 婚約者だという立場が無かったとしても、間違いなくカサンドラは彼をこの世界で目にした瞬間恋に落ちていただろう自覚があった。


 三つ子やジェイク達がどんな会話を繰り広げるのかドキドキする以前に、正面に王子がいるというだけで心臓が口から飛び出そうな程緊張している。



「――こんな時間に集まって、一体どんな話をしていたのかな?」


 先に、そう柔らかく尋ねてくれたのは王子だった。

 彼はカサンドラに挨拶をしようと思っただけで、実際にこの場に顔を出すつもりではなかったのかもしれない。


 ジェイクが勝手にひょいっと動いてこちらに合流し、更にラルフまで追随し。

 ……シリウスも気になっているという状況で、自分一人だけ帰ったりシリウスを引きはがすように帰ることが出来なかっただけで。


 実は廊下からカサンドラの姿を見咎め、声を掛けたことを後悔しているのではないか……? と不安になった。

 でも王子が内心でどう思っていたとしても、彼はそんな負の感情を表に現すことは無いだろう。

 どうか杞憂であれ、と祈る他なかった。


「試験も終わりましたので、夏休みの予定を話していたのです。

 休み中皆様と一緒に出掛ける予定が合うのなら、わたくしも楽しみが増えますから」


「そうか、本当に君たちは仲が良いんだね。

 試験が終わった後だから余暇の過ごし方の話も弾むだろう。

 ――私が言うのも面映ゆいことではあるけれど、カサンドラ嬢の成果は素晴らしいものだった。

 生徒会の面倒な仕事を任せることになって大変だったと思う」


「とんでもないです。

 王子やジェイク様方に比べれば、わたくしの時間は有り余っておりました」


 順位が二位だった人に「素晴らしい」と言われるのは確かにおかしいかも知れない。

 でも彼が成績が良いのは当然で当たり前のこと、上から目線で褒められても十分『有り難き幸せ!』と思えてしまう。

 そもそも彼の言い方は嫌味や皮肉めいたものが一切なく、素直に褒めてくれていると受け取ることが出来るのだ。


 もしもシリウスに言われたら微妙な気持ちになったかもしれない。同じ言葉でも話し手が変われば受ける印象も変わるとはこのことだ。


 ――精々頑張ったじゃないか、お前にしては。


 同じ言葉で褒められても、相手がシリウスならそう受け取っただろう。



「そうそう、試験だけどさ。

 ほんっとうにあるがとうな!」


 ここに来た理由を思い出したと言わんばかりに、ジェイクは膝を叩いてリゼにお礼を言う。

 リゼからのプレゼントという名の対策ノートが無ければ、赤点で補習という事態も現実として迫っていたわけだ。

 それが本人でさえ信じられない程の高順位を叩きだしたとなれば、この感謝っぷりも当然のことと言える。


 正面に座ったジェイクに何のてらいもない言葉を受け、それまで現実を上手に把握できておらず無表情で固まっていたリゼの肩が大きく跳ねた。

 果たして今の彼女の心境はいかばかりか。


「私自身、良い復習になりました。

 先日のお礼代わりに差し上げたものです、どうか気になさらないでください。

 それに――試験で問題を解いたのはジェイク様ですし」


 リゼの声は彼女の出来得る限りの平常心を寄せ集めて放ったものだった。

 彼らの目からは淡々とした態度に見えるだろうが、少々指先の動きが忙しない気がする。


「あまり甘やかさないでもらいたいものだがな。

 ……一般生徒の手をああまで煩わせた割には、人に自慢できるような成績でもなかっただろう」


 隣に腰を下ろしたシリウスの容赦ない声が割り入る。

 相手がジェイクでなければ喧嘩腰と思われてもしょうがないが、彼の物言いはこれがスタンダードだからしょうがない。

 しかし、その声に若干のやっかみが入っていることを考えれば――確かに嫌味も込めた発言だった。


「あー、分かってるって。

 次は独力で頑張れってことだろ?」


「当たり前だ」


 ジェイクを睨んだシリウスが、その斜め先の視線の中に見つけた人影に思うことがあったのか表情を少し緩める。


「む……。

 礼を言うのが今更になってしまったが、生誕祭の時には大変助かった。

 協力に感謝する、リナ・フォスター」


「い、いえ! 私もあの時は夢中で良く覚えていないんです!

 邪魔にならなくて本当に良かったです!」


 あわあわ、と両手を横にブンブンと振るリナの顔は真っ赤だった。

 ……生誕祭での出来事と言えば、カサンドラも直接知らないが……

 冷却魔法を使うために小部屋に籠っていたシリウスに飲み物を届けたと聞いたのだけど。

 話しぶりからするとそれだけではないのか?


「シリウス。あの日、報告以上のことがリナ嬢とあったのか?」


 カサンドラが記した報告書にはリナの名前は全く出ていない。

 飲み物を持って行ったことを記録に残すのも大袈裟だと思ったし、シリウスも記すよう言及しなかったのだから。


「……。一々報告するまでの事ではない、気にするな」


 何か思うことがあるのか、シリウスは詮索を一切許さないという態度でシャットアウト。

 飲み物の差し入れがそんなに口外されて困ることなのだろうか?


 そう不思議に思ったカサンドラだったが、彼が説明するつもりもないことを改めて詰問したところでいやそうな顔をされるだけだ。

 またリナに詳しく話を聞いても良いかもしれない。


 ――ラルフの表情が珍しくムッとしている。

 一体何があったんだ、という疑わしげで懐疑的な視線でシリウスをジロジロ眺める。


 彼にとっては内心快いわけがないだろう。

 リナに幾度声を掛けてもろくに反応がない状態で、むしろ避けられて話しかけられても困るという旨の発言までされているのだ。

 それが友人のシリウスに対しては『何かありました!』という反応全開になっているリナ。

 根掘り葉掘り聞きたいが、それを聞くのも何となく憚られる心理状況。


 ただシリウスを睨みつけたところで何かが変わるわけでもない。


 ラルフもまた自分の感情を押し殺し、愉しくもない場面で笑えるような立場に晒されていた人だ。


 露骨に自分の感情を振りまくことは社交界では恥ずかしい事。

 皆笑顔の仮面を被って、丁寧な言葉で丁々発止を繰り返す。健全とは言い切れないが、武力で殴り合う関係よりは血を流さないだけ良心的……なのだろうか。


 カサンドラの生家レンドールは南方の領主として君臨する大貴族であるが、地方であることは確かだ。

 そしてレンドールにいる間は皆カサンドラのことを下にも置かない扱いでちやほやしてくれたので、中央貴族達のように鍛えられてはいない。

 だから他の令嬢の態度が果たして恭順なのか面従腹背状態なのか判別しづらく、それがクラスメイトの令嬢達と好んで関わりたくない一因にもなっている。

 勿論派閥を作りたくないというのが一番の理由だが。


 ラルフは細く長い息を吐いた。


 その直後、豪華な四人揃い踏みで落ち着かずそわそわしっぱなしのリタの様子に気が付いたようだ。

 普段の元気で明るい彼女はどこにいったのかと思う程、借りてきた猫状態。


 普通の感性の女の子が、王子様とその側近たちに囲まれたらそりゃあ戸惑うだろう。

 曲がりなりにも普通に応対しているリゼとリナのメンタルが強靭なだけだと思われる。


「リタ嬢、男子寮監から話を聞いたけれど――逃げ出した犬を保護してくれたそうだね。

 元気が良いのはいいことだけど、何にでも向う見ずに突っ込んでしまうのに困っているんだ」


「……あれはワンちゃんが勝手に頭に乗ってきたわけでして!

 その、怪我が治って良かったです」


「あの子も空から降って来た君のことは忘れがたいんじゃないかな、それで会いに行ったのかもしれないね」


 以前聞いたラルフが拾ったという犬のことか。

 壁を乗り越えてラルフの前に飛び降りたというのだから、インパクトも相当なものだったと思われる。


「ええと、本当に重ね重ねご迷惑を……」


「ああ、そういえば――いつも落ちているところばかりだね」


 記憶の中にその”いつも”が思い出されたのか、ラルフは可笑しそうにフフッと笑う。

 己の暴挙を思い出し、リタは今にも悲鳴を上げて逃げ出しそうな混乱っぷりだった。

 が、ラルフの表情は馬鹿にしたり蔑んでいるものではなく大変穏やかで温かいものだ、和やかと言っても良い。

 迷惑がられて嫌われているわけではないと気づいたリタは、ほーーーっと胸を撫でおろしてようやくニコニコ笑顔になった。


 傍から見ているととてもほのぼのとした会話、やりとりである。

 が、ジェイクがかなり険しい視線でラルフを睨み据えているのが良く分かる。彼の橙色の双眸は苛々する気持ちが見え隠れ。


 ――気にいらない、と。


 声に出さないまでも、彼の口元がそう動いた気がしてカサンドラもつい視線を逸らしてしまう。


 三つ子たちは自分の好きな相手に話しかけてもらってほわわんとした幸せそうな空気が漂っているというのに。

 対する向こう側に渦巻く腹の裡の探り合いに不穏さを感じずにはいられない。

 彼らも本当に難儀だな。


 だが最初に牽制し合った空気も互い違いに話し続ければやがて薄らいでいく。

 相性に差異はあれど、彼らと彼女達は本来どういう組み合わせでも親しくなれる可能性を持っているのだ。


 他愛ない雑談から徐々に友達グループ同士と言うやりとりに替わるところは凄いなと思った。

 皆コミュニケーションとるのが上手いと感心する。

 シリウスはあまり雑談は得意ではないが、思った以上に穏やかに会話の行く先を軌道修正しているではないか。


 話題は生誕祭のことだとか、試験のことだとか、夏休みのことだとか。

 耳や目が追い付かず、ハラハラしながら観察していたカサンドラもようやく人心地。



「……カサンドラ嬢、体調は大丈夫かな?」


「は、はい!」


 そして三つ子たちを気にするあまり、自分の正面に王子が座っていることを一瞬忘れてしまった。

 序盤の不穏な雰囲気に気もそぞろになった自分に焦る。

 朝に引き続き痛恨のミスだ。


「王子にお見舞いとお手紙をいただいたおかげだと思います」


「簡素なものだったのが心残りだよ、私信というものは中々難しいね」


「王子が宛てて下さったお手紙、本当に嬉しゅうございました。

 ……ところで、頂戴したあの黄色い花は何という花なのでしょう?

 不勉強でお恥ずかしい限りです」


 黄色い一輪の花。

 カサンドラは動植物にさほど詳しくない、無数にある花の種類も基本的なものしか知らなかった。

 薔薇とか百合とかヒマワリどかスミレソウなどの特徴がある花は分かるのだけど。


「とても明るい黄色で、可愛い元気が出るお花でした」


「あれはネモフィラという花だそうだよ。

 本当は青色のはずだけど、王宮内の植物園で育てているものは黄色いもので珍しいと聞いた」

 

「王宮の中に植物園があるのですか?」


「昔から薬草を育てていた建物なのだけど、いつしか珍しい草花も蒐集するようになったとか。

 植物を世話している管理人に事情を話をしたら分けてくれたものなんだ。

 気に入ってもらえたならよかった」


 そんな希少価値のある花を見舞いに使ったと……!?

 可愛らしいなぁ、と思っていたが一輪でもカサンドラの手元にあるだけ凄い事なのでは。

 良かった……

 押し花にして保存することを決めて本当に良かった…!


 そんなの枯れたから捨てるなど勿体なくてできやしない!


「王宮植物園……ですか」


 隣に座るリナの耳が僅かに反応した。

 そしてキラキラと瞳を輝かせ、上せるような表情で呟いた。


「リナさんは植物が好きなのですか?」


「はい、大好きです。

 珍しい綺麗なお花が沢山と想像しただけでワクワクしてしまって。

 ……お城って色んな施設があるのですね……!」


 花が好きなのはリナらしいと言えばリナらしい。

 ふわふわっとした可愛らしいものが大好きで、花柄も当然彼女が良く身に着けている柄である。

 見たこともないような綺麗な花が咲き誇る植物園なんて、彼女にしてみれば奇跡のようなスポットだろう。


 だが生憎、カサンドラが連れて行ってあげることはできない。

 王宮なんて出入りしたことは一、二度しかないのだ。それも舞踏会の時くらい。

 王子達の居住スペースや研究施設など当然未知の領域である。




「アーサー。

 その植物園、見学出来るよう特別に開放してもらえないだろうか?」




 ラルフが大真面目な顔でとんでもないことを王子に提案する。

 

 王子が大変驚いてきょとんとした顔をしているではないか。

 そんなことが出来るわけがない、とカサンドラが注意をしようと口を開きかけた――が。


「まぁ、出来なくはないと思うよ。

 管理人に相談してみようか」


「ええ!?

 あ、あの、そこまでして頂かずとも……!」


 本当に感想を述べただけのリナの顔色が真っ青に染まる。

 自分の不用意な発言で王子の手を煩わせるなどと彼女は珍しく早口でまくしたてた後口ごもる。


「薬草園の方は別棟だから難しいけど、それ以外なら見てもらうことに問題はないよ」


「僕も王宮の植物園には前々から興味があってね。

 良かったら一緒に行って良いかな?」



 ……権力のごり押し……!



 王子に気兼ねなく頼みごとが出来る親友であるという立場を利用した揺さぶり!

 普段ラルフの誘いに頷くことは無いリナだが、王子は問題ないと言っていて。そしてこんな皆の前で誘いを断るのは大変難しいことである。

 ラルフの綺麗な顔に浮かぶ表情はいつも通りキラキラ輝く爽やかな笑みだ。

 だけどその笑顔が今は凄く空恐ろしいものに感じる。


 リナは時間たっぷり悩む素振りを見せた後、顔を覆って「はい」と頷いた。

 この機会を逃せば、王宮の施設に足を踏み入れることは出来ない。それは彼女も重々分かっていた、誘惑には勝てなかったか……


「あ! 私……私も植物園、見てみたいです!」


 このままでは置いていかれると判断したリタの動きは大変早かった。

 片手を”ハイ、ハイ!”と強く上げて意思表示。


 そしてリタがその誘いについていきたいと咄嗟に言い出したことで、ジェイクが「俺も行く!」と便乗。


 その瞬間まで完全に他人事で「ふーん」と斜めに構えていたリゼが一つ大きな咳払い。


「ええと、私も勉強のため行ってみたいです。

 この子達を見張る人員もいるでしょうし?」


 やはりどこ付く風の他人事だったシリウスも、リゼが行くとなればみすみすその機会を手放すほど余裕があるわけではない。

 別に自分は興味がないのだが、という姿勢は崩さずに。



「……希少な花を踏み荒らされでもしたら国家的損失だ。

 お前たちが向かうというのなら、付き添わないわけにはいかないだろう」





 

   面白いなこの人たち。





 うっかり声に出しそうだった、危ない。



 彼らも彼女らも至って真剣なのだ。

 カサンドラだって王子が目の前で別の女性に声をかけて誘うなんてことがあったら、絶対に焦る。

 何か言わないと、行動しないと、と混乱して変なことを言い出すかもしれない。



「そうか、皆で来るのか……」



 王子はしばらく何事か思案のため瞑目する。

 こんな大所帯を引率するのは王子も大変だろうなぁ、とカサンドラこそ全く自分に関係ないと心理的距離を一歩引いていたのだけど。



「ではお茶会に集まったというていの方が良いかも知れないね。

 ……カサンドラ嬢も招待して良いだろうか?

 このメンバーなら、君がいた方が彼女達も安心すると思うから」







 しっかり自分も巻き込まれ、カサンドラは「勿論です」と頷く外なかった。



 この六人、遠くから見ている分には皆仲良しで楽しそうに見える。

 至ってフレンドリーだ。


 でも……

 彼らの想いの矢印の先を知っている身としては、大変胃が痛い。

 特に男性陣には黙ってそのまま攻略されて欲しい! という心の、いや魂の叫びが漏れ出そう。


 聖女関連イベントを確実にするなら男性陣が主人公を攻略した方が都合がいいが、それはもう考えてない。

 頑張ってる女子に対しての裏切りだ、などと良心の呵責に苛まれるだけ。




 王子にお茶会に誘われるなんて名誉この上ないことなのに、胃薬の準備を考える。


 これが、一方通行な六角形ヘキサゴン、か……


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