第11話 王子が眩しすぎる件
果たして王子は手紙に気づいていくれるだろうか。
そして読んでくれたとして、ここに来てくれるだろうか?
放課後の木漏れ日の下、カサンドラは静かに彼の到着を待つことにした。
殆ど人通りがなく、また廊下から発見され辛い角度である。
だが万一、一人で待っている姿を見咎められ何をしているのだ? なんて他の生徒に不審に思われては元も子もない。
カモフラージュのため、端っこのベンチに座って図書館から借りた本を読むことにした。
これなら天気が良い日だから外で読書をしていても不自然には思われないだろうし。
それともう一度、この王国の歴史について浚ってみようという想いもあった。
現在のクローレス王国は百五十年前に興った比較的歴史の短い王国だ。
クローレス王国が統一する前の西方大陸は小国同士の小競り合いが長く続き、混沌の時代と呼ばれる。
クローレスが現在の領土全てを呑む形で建国されたが、その前時代のイメージは中国の三国時代だろうか。お上はいないが、日本の群雄割拠時代も想起させる。
大陸の西方全域を国土に持つ大国だが、国境線には高い山脈が聳え立ち東方諸国や南方三王国との陸路でのやりとりは山脈の僅かな間隙のみ。
地図上の国境線はべったり諸国と面しているのに、船での貿易も多いのはそのためだ。天然の万里の長城が囲っている状態が現在のクローレスである。
完全に海と山に隔離された大きな領土の中で、過去何千年も国境線を敷き直し戦争を繰り返し勃興する国々。
西方大陸統一など絶対に不可能だと思われていたにも関わらず、百五十年前にそれを成す契機となった災厄がこの大地を襲ったのだ。
――それが悪魔の降臨。
魔王の配下だとも実は魔王の右腕そのもので魔王の一部だとも言われる恐ろしい存在。
それが大陸に喚び出され、西方大陸に存在したあらゆる国々を大小の別なく襲っていったのだという。
悪魔はそれ単体で恐ろしい力を持ち、どんな軍隊をも寄せ付けない魔の瘴気に守られていたそうだ。
例え人が今住んでいる国を捨てて逃げても、悪魔の軍勢は追ってくる。
山も海も越えて移住など簡単なことではなく、この大地は悪魔の
悪魔が造り出す魔物は、人の世界を思うさま蹂躙していったのだという。
誰もが明日をも知れぬ生活を送っていた時に立ち上がったのが現クローレス王国建国の祖、聖女アンナだ。
彼女は女神から与えられた聖なる力を以て、奇跡を起こし悪魔を退けることに成功した。
アンナの献身により、人類は悪魔の脅威から解放されたのである。
根源足る悪魔を完全に滅ぼすことは叶わなかったものの、力を失った”それ”が二度と喚び出されないよう厳重に封印され今日に至る。
あれ、滅んだのではなかったのかと少し引っ掛かった。まぁ再び王子が召喚するから存在が滅んでいたらおかしいか。
初代女王、聖女アンナの名の下に混迷を極めた西方諸国は一つの王国としてまとまった。
それが今カサンドラ達が住んでいるクローレス王国のことだ。
女神に選ばれた彼女が西方を統一することに異論を唱える地方豪族、小国の王、部族の長はいなかった。
それほど悪魔によってもたらされた被害は甚大なものだったのだろう。
ゲームでここまで詳しく事の起こりが記されていた記憶はない。
前回世界を救った聖女アンナの逸話や話題は言及されていたし、この王国でアンナ――聖女アンナの名を知らない人はいない。
聖女アンナを崇める教団が、この王国で最も影響力がある宗教団体である。
ただ混沌時代だの各小国の戦乱だのの設定は開示されていなかったはず。
多分現在のゲームの舞台に辻褄が合うように創られた歴史で、そしておおむね”カサンドラ”の記憶と歴史書の記載は一致する。
この史観が共通認識で良いはずだ。
……ラスボスと化す王子は、悪魔を喚び出すための苗床に過ぎなかった。
彼は悪魔を蘇らせるために不幸を集め、負の感情を育てるために利用された入れ物。勿論、内実はどうであれ彼は悪魔と化し聖女に倒される運命なのだが…
問題は、悪魔を倒して終わりではなく、実際は王子にそれを植えた何者かがいるのではないか? ということ。
ここまで一切問題になっていないなら、王子自ら悪意の種を取り込んだのでは? なんて疑惑が勃発してしまう。
本当に一体全体王子は何なんだ、何がしたかったんだ? という恐ろしい顛末になりかねないのだが。
今のところカサンドラには判断が出来ない。仮定に仮定を重ねても答え合わせさえ不可能だ。
それにしても『悪意の種』なんて単語がどこにも出てこないのは気になる。
だが、悪魔を復活させ召喚することを可能にする道具なのだとしたら――一般に存在を周知するのも危険かもしれない。
聖女のいない時代にそんなものが復活したらまた国が亡んでしまう。
ただでさえ領地間を巡って地方諸侯が小競り合いを起こす頻度が上がっているというのに。
パラ、パラ、と本を捲る。
次第に――その文章内容に入り込んでく。
確認を続けていると、統一前の歴史は読み物としても結構面白い事に気づいてしまった。
何年前にどこそこの部族が何千の軍を率いて敵対する勢力の堅牢な城を落として降伏させる、とか。
またある時代に皇帝を名乗る男を戴き多くの領土を併呑していった帝国を、隣接した小国が団結して抵抗し逆侵攻で分割統治に至るまで、とか。
その結果領土分配でまた争いが起こって不毛な戦争がその後何年も続く、とか。
眺めているとわくわくするのですが…
建国された後のクローレスの歴史なんかより、数多の小国の織り成す戦記モノの話の方に興味が出てきたのは誤算だ。
今のカサンドラには関係ない話なのに、混沌時代の歴史書を借りようかなんて思うほど。
そういえばカサンドラの生家レンドールも元を辿れば南方を支配していた豪族だったらしい。
王国から侯爵位を与えられているが、ある意味歴史は王家より長いとも言えるのでは。
じゃあ他の貴族もそれぞれ混沌時代からの異なった歴史を持つのだろうか? なんて無駄に目を輝かせる――が、コホン、と。
誰もいないのに、わざとらしい咳払いをひとつ。
一体そんなことを調べて何の益になるというのか。
本筋から脱線してしまうのは自分の悪い癖だと、天を仰ぐ。
ゲーム内未断定情報からこの歴史まで作り出すこの世界は、やはり想像を超える奇跡の力を持っていると再確認だ。
やはり神の仕業としか思えない。
時間を潰すことは問題がないのだが、いつまで待っても王子の姿が見えることがなかった。
読書に来たのではなく王子に会うのが目的だったと思い出した時は、もう既に陽が傾き始めている。
それに気づいてしまったカサンドラ。
「……王子……」
本を閉じ、膝の上に置く。
校舎の向こうで、話し声がかすかに響くのを耳が拾う。
しゅんとしょげ返り、腕時計で時間を確認する。
小さな円形の文字盤には、五時を示す針の位置。
授業が終わったのは一時間半以上前である。
時間が空いたら来てください、の簡潔な言葉は彼には届かなかった。
ただ彼と話がしたかっただけだ。
生徒会の部屋で過ごす時間の多い王子は、見慣れない手紙に気づいたはず。
気づかなかった可能性も考えられるが、相当低い確率だと思う。
王子、手紙に気づいてくれましたか?
なんて、聞けるわけがない。
面と向かって彼を糺すことが出来るなら最初からここで待ちぼうけなんてしていない。
急がないと、彼は誰かを不幸にするための行動に出てしまう。
やむを得ない状態だとしても、本人の意思とは無関係だとしても。
――倒されて快哉を叫ばれるような非道なことを王子にして欲しくはない。
仮に不幸が訪れるのが王子でなく、攻略対象やクラスメイトだったとしても同じ危険があるのならカサンドラはこんなに焦り悔しく思うだろう。
話をしたことがある彼らはもうただのキャラクターなんかじゃない。
人間だ。
心も体もある、自分と同じ人間なのだ。
結末を分かっていても、救えない。
そもそも話すら聞いてもらえない、一体自分は何のために『ここ』にいるの?
辛いなぁとしみじみ思う。
いきなりこの世界に転生したと知った時は、驚いたけれど絶望まではしなかった。
目の前にはアレクがいたし、言葉は通じたし。
前世の自分がどうなったのかを考えると空恐ろしいが、カサンドラというこの世界で生きていた記憶が消えるわけではなく同化したのでパニックを起こさずに済んだ。
仮に悪役であっても、この世界がカサンドラを受け入れてくれるから――泣き暮らすほど寂しくはなかった。
主人公達やクラスメイト、攻略対象と考えることは山積みだったのだし。
侯爵令嬢という立場のおかげで不自由することはなかったのは、僥倖だった。
でも王子を相手にするときは、前世の記憶もカサンドラの十五年も、そして地位も身分も無意味と化す。
無視される、受け入れられない。拒絶される。
しかもそれが己の婚約者だなんて、とても寂しい。
今日気づかなかったとしても、明日は気づいてきてくれるだろうか。
望みは薄かったが、カサンドラはため息交じりに立ち上がろうとして……
素っ頓狂な声を上げかねないほど、驚いた。
「……もう帰ったのかと思ったよ」
不意にベンチの横からかけられた声に、『ぎゃあ』という悲鳴を押し殺す。
心臓がピッチを上げて全身に血液を駆け巡らせる。
「お、王子…?」
夕陽の射す中庭に、彼の微笑みが映し出される。
「あまり時間がないもので、申し訳ないカサンドラ嬢。
――用件は何かな」
彼は薄桃色の封筒を指で挟み、こちらを一瞥する。
それは間違いなくカサンドラが送った手紙を入れた封筒だ。
来てくれた、という喜びと。
まさか来るとは! という衝撃と。
実際にこうして王子を目の前にすると、彼を呼びつけてしまった形の現状に恐れ多さがぶわっと湧き上がってくる。
だが、嬉しい。
無視されたのではないのだと分かっただけで胸がポカポカ暖かくなった。
先ほどまで目を通していた本を片手で胸に抱き立ち上がる。
左手でスカートの裾を抓む素振りで、ゆったりとした礼を。
「わたくしの個人的な事情のためお呼び立て申し上げましたこと、深くお詫び致します。
同時に、王子の貴重なお時間を頂戴できることは光栄の至りでございますわ」
真っ直ぐに正面から彼の前に立つと、彼の王子様煌めきパワーに目が眩みそうになる。
昼食の時も生徒会室で顔を合わせる時も見ているはずのアーサー王子。だが夕陽の傾く校舎の中庭で立っている彼の破壊力は抜群だった。
周囲に人気を感じないので本当に二人きりなのだと思えば思うほど頭が湯だっていく。
「王子殿下。不躾な質問を御許しください。
――わたくしは今も殿下の婚約者であると自負しても宜しいのでしょうか」
名ばかりの婚約者であるということが、こんなに心が凍てつくものだとは思わなかった。
誰もカサンドラを蔑んだり哀れんだりはしないけれど。
カサンドラ自身が会話の一つも満足に出来ない彼を『婚約者』であると自覚するのは少々難しいことだった。
彼はこの言葉をどのように受け取ったのだろうか。
ドキドキと彼の返事を待つ。
「勿論私もその認識でいるよ。
陛下もそれを望んでいらっしゃる」
親が決める事。
そんなのは当たり前だ、自由に好きな誰かと添い遂げるなんて本来は許されない。
特に王子の身分であれば、それに相応しい相手など自ずと知れたものだ。
『お前の相手だ』とカサンドラの肖像画だけ見せられて、そこに興味関心さえなくて……という様子がありありと想像できてしまう。
きっと大きく予想と違わないのだろう。
彼はカサンドラに常に関心がないように振る舞う。
失礼にあたらない限界を常に攻めている、ある意味で器用な王子様と言える。
「……。
わたくしは……」
大それたことを言っても良いのだろうか。
一瞬揺らぐ。
後光射す彼を間近にして、決意や勇気が蒸発して消えてしまいそう。
でもここまでしなければ王子と接触することも困難な婚約者が、一体彼をどう助けどう救うというのか。
名前と顔と、そしてその他大勢に向けられる表情しか知らない。
彼が何を考え、感じているのかその一端さえ分からない。
ゲームの中で攻略した三人のことはよく知っている、彼らの喜ぶ話題も分かる。
誰にも言えないだろう悩みだって、素顔だってカサンドラは知っている。
本人さえ知らないことだって言い当てて見せる自信がある、カンニングで反則技だけど。
ここは『黄昏の王国 純白の女王』というゲームの世界を実現させた場所なのだから。
でも王子は分からない、彼の内面に通じるものを何一つ自分は知らない。
ただ彼が何もしなければ最悪の結果に陥ってしまうことだけは分かる…!
「わたくしは、王子とお話がしたいのです!」
決死の覚悟で、彼に想いをぶつける。
もしかしたら自分は必死の形相で、現状の自分にはいささか不釣り合いな悲壮感さえ感じさせていたかもしれない。
「……そう、か……」
彼は逡巡し、瞑目する。
再びその澄んだ瞳を開いた時、笑みが消えた。
まるでゆらゆら暖かく闇を照らしていた蝋燭の炎がフッと風によって掻き消えてしまったかのように。
「私の態度でカサンドラ嬢を不安にさせてしまった事、謝罪しよう」
「……王子……?」
彼はどこか寂し気で、己の過ちを悔いるかのように沈鬱な表情でカサンドラに頭を下げた。
まさかそんな風に謝られるなど想像していなかったカサンドラの方が大慌てだ。
本当に彼との対話は自分にとっても未知の領域で、予測も何もあったものじゃないのだと思い知る。
顔を上げてくださいと懇願する声は情けないことに裏返っていた。
「――私の友人、ラルフ達三人にはまだ決まった婚約者がいない。
それはカサンドラ嬢も知っているだろう?」
「え? は、はい。
勿論存じております、あの方たちのお相手が決まったとしたら、国中の女性が涙することでしょう」
急に何を言い出すのかと思って身構えていたカサンドラ。
困ったように首を手で押さえる王子の表情、態度。今まで見たこともない様子に平静を装うことさえ難しい。
「彼らはまだ相手がいないというのに、私ばかりがカサンドラ嬢と懇意にするのも少々気が引けてね」
……何だって? と、耳がピクリと動く。
将来の部下の恋愛事情、ひいては異性関係、婚約事情など王子には何の関係もないことではないか。
彼らに相手がいないせいでカサンドラを半ば避けるように行動しているなどと言われても、それは容易に納得できない。
「私自身もカサンドラ嬢に楽しんでもらえるよう話題を提供できる人間ではなくて……ね。
あまり女性と話すのは得意ではないんだ、魅力的な女性なら猶更」
えええ!?
下手に持ち上げられても鵜呑みにするのは結構難しいです、王子!
社交辞令にしか聞こえません!
でも彼は王子とは言っても今は男子高校生のようなものなのだよな、と。
そういう視点で見るならば、仲の良いグループで自分だけパートナーが出来てしまったらから? シャイな少年なら、かわれたり囃し立てられたりするのは嫌だと思うかもしれない。
特にジェイク辺りは王子であろうと露骨に冷やかしたりしそうだし、シリウスは婚約者ばかりに構っていたらやるべきことはちゃんとするようにと小姑めいた態度に出てもおかしくはない。
王子の言い分が単なる言い訳――と穿つことができない。
若干現実味があるのが恐ろしいところだった。
「実は今も彼らを撒いてきたようなものでね、すぐに戻らなくてはいけない」
そういう王子はしきりに時間を気にする素振りを見せた。
「王子のお気遣いに触れ、一人の臣下として心から敬服の念に堪えません。
ですが――
わたくしは王子とお話する時間をいただくことを、これからも赦されないのでしょうか?」
婚約者というよりはその他大勢と一緒の扱いが続くのか?
下手をするとあの三人に決まった相手が出来るまで、気を使って生活しなければいけないと?
勘弁してくれ、と心の中でダンダン! と足を踏み鳴らす。まるで駄々っ子のように。
あの三人に遠慮して、というのが今の状況の口実だとしても。
建前、口実を崩さなくてはならないことには変わりない。
カサンドラを避けているのではないと述懐している以上、障害がなくなれば会話せざるを得なくなる。
「カサンドラ嬢を不安がらせるつもりはなかった。
そう思わせてしまったのは私の落ち度だ。
――そう、だね……
確約は出来ないけれど、また来週この時間に会えないだろうか?」
ありがとうございます、とカサンドラはその申し出に一も二もなく飛びついた。
いや、それに頷くほかなかった。
嫌だと言ったところで会う機会が増えるわけでもないし。
我儘を言って顔も見たくないとうんざりされては何のために王子を呼び出したのか分からなくなる。
少なくとも、彼は完全にカサンドラを疎んじているわけでもないのだと。
次回もまた話をしてくれる心積もりでいてくれること。
その意思が確認できるなら大きな一歩ではないだろうか。
まだカサンドラとアーサー王子は顔見知りのクラスメイトに過ぎない、親同士の利害の絡んだ関係の男女。
いきなり何もかも詳らかにし、胸襟を開いた話ができる程仲を深めることは出来ない。
「王子。
わたくしは、王子の婚約者です」
ポッと出の、ただの知人のお嬢さん。信頼も出来ないだろう、幼馴染のラルフ達攻略対象と比べれば、遥かに『どうでもいい』存在に過ぎない。
でも彼を見ていると、とてもではないけれど誰かの悪意に操られているようには感じない。ましてや高官を買収して気に入らない領主を脅し潰すような真似ができる人ではないように思う。
こんな澄んだ瞳、柔和な笑顔を浮かべる彼が人の不幸を嘲笑うとは――想像することさえ憚られるわけで。
カサンドラは彼の
だが最初から彼を疑ってかかりたくはない。
この先にある王子の破滅を知っている唯一の存在だとしても。
「――何があっても王子の味方です。
どうかお心に留め置きくださいませ」
どうせ婚約が簡単に破棄できないのなら、カサンドラと王子は一蓮托生とも言えるのだ。
彼を救うことは自分を救う手段でもある。
カサンドラは、なにも分からない段階から王子の言動の裏を読んで、一々疑いたくはない。
己を信用してくれない相手を信用する人間なんかいない。
ならばカサンドラは彼に信用されるために彼の良心を信用する。
いきなり突拍子もない発言をしたカサンドラを前に、王子は呆気にとられ言葉をなくす。
だがそのあたりは流石王子、すぐに常態を取り戻し穏やかに笑むのだ。
「それは心強いね、ありがとう。――カサンドラ嬢」
………本当にどうしてこの人が悪魔なんかに乗っ取られてしまうのだろう。
顔も声も仕草も一々的確にカサンドラの急所を射貫いてくるのは本当に心臓に悪すぎる。
ああ、駄目だ。
そんなピュアさしか感じない笑顔で見つめられると、後に一緒に悪事のお手伝いをする手下に成り下がってしまいそう。
ぞっとしない未来絵図に、カサンドラは心の中で自分の頬っぺたを往復ビンタし戒める。
****
『
その金髪の後姿が校舎内に消えたのを確認し、少年は額の髪を掌で掻き上げ細い吐息を地面に落とした。
「無理のない程度に避けるというのは――案外、難しいものだな。
だが、妙だ。
……彼女は知らないはずなのに、何故……?」
何故、あんなことを言う?
呟きは春の風に溶けて消えてゆく。
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