第2話
風呂から上がった俺は、死にゆく子猫を見過ごせない、Ca不足はヒアルロン酸でカバーする、死体の処理は絶対に俺にはできない、そんな思いを胸にバトルスーツを装着するような勇ましい気持ちで寝巻きにしているダルダルのスウェットに袖を通した。時刻は21時、妻子がアニマックスを見ているのを横目に外へ出た。
少し肌寒く感じる気温の中で猫夫婦はますます盛り上がっている。軽装アンド丸腰ではいかにも心細く、また風呂上がりでもあるので濃厚接触必至の肉弾戦は避けたいところ。俺は庭の砂利の中から消しゴムサイズの石を集めた。古来より石を投擲し相手にダメージを与える印地打ちという戦法がある、低価格な武器として合戦や一揆でも用いられていた。下級サラリーマンの武器としてしっくりくるし何より俺は現役の草野球選手、しかも制球力が生命線の打たせて取るタイプのピッチャー、仕事中も持ち歩きたくほど相性抜群のウェポンだ。俺こそが真のストーンズだ。
と言うとまるで討伐モードのように見えてしまうがそれは違う。目的はあくまでも交尾をやめさせ、不憫な子猫の出生率を下げることにある。「あら、隣のイケメンのご主人が野球の練習をしておみえだニャン、見られたら恥ずかしいわ、あなた今日はやめにしない?」猫の奥さんにそう言わせればいい。下手に力んで殺傷するなど許容されるものではない、そんなところを万が一近所の人間の奥さんに見られようものなら「ハリさんのご主人、夜にダルダルのスウェット着て猫に全力で石をぶつけて俺こそストーンズ、ストーンズウワーって騒いでたわ、あの人完全にヤバいわ。」などと変な噂がたったら終わる。なので猫の身体や周囲の目をケアしつつマイルドにスタイリッシュに作戦を遂行しなくてはならない。
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