影を追って

春風月葉

影を追って

 彼女と私は二人で一人だった。私が座れば彼女もそこに座り、私が歩けば彼女も一緒に歩き出す。ある日、私はしゃがみ込んで涙を流していた。勿論彼女もしゃがみ込んだ。しかし彼女は涙を流さなかった。その日そのときから私と彼女は噛み合わなくなった。

 それから先も彼女は私と同じように動いた。しかし、彼女は泣かないし、笑わないし、怒らない。

 ある朝のことだった。彼女は私の足から離れていた。私は唯一の理解者を失ってしまったのだ。足元を見てもやはり彼女はいない。彼女を失った私は鏡にも映らない。

 私は急いで部屋を飛び出しアパートの階段を駆け下りた。

 彼女はすぐに見つかった。彼女は近所の公園のブランコの影に重なってしゃがみ込んでいた。きっと涙は見えないが泣いていたのだと思う。このとき初めて私は気付いた。あのときも彼女は泣いていたのだと。私を理解してくれる彼女を、私は理解できていなかったことが恥ずかしくて、私は涙を流した。

 彼女は私の足に戻っていた。もう私と彼女が離れることはない。

 その日から私達はまた一人になった。

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影を追って 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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