第39話『ゴブリン』




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「あの、ウィリアムさん。それで、その……今回はどういった依頼なんでしょうか」


 ウィリアムが冒険者ギルドの建物を出て、イヴと合流をしてエイスの街を離れて数時間後。


 二人はとある森の中を茂みを掻き分けながら目的の場所にへと向かって突き進んでいた。


 そんな行軍の中でのイヴの言葉である。彼女はまだ進んだ先にて何をするのかは分かってはいなかった。


「昨日は薬草の採取でしたよね。もしかしてですけど、今日も同じ様な依頼ですか?」


「ん? あぁ、今回はそうじゃない。違う内容の依頼だ」


「えっと、そうなんですか?」


「そうだ。今回の依頼は『討伐』だ」


「とうばつ……? って、何ですか?」


「えーっと、そうだな。君にも分かりやすく言えばだ。この森の奥に潜む魔物を狩る事だ」


「魔物……あっ、もしかして!」


 イヴはウィリアムの言葉を聞いて思い当たる事があったようで、何かを思い出したかの様に声を上げた。


「もしかして、美味しい魔物のお肉を狩るっていうのが目的なんですか!?」


「……は?」


 イヴが言った『魔物のお肉』という言葉にウィリアムは思わず目を丸くさせた。


「お肉を狩るって……イヴ、まさかとは思うが……」


「はい! 狩りって事は、魔物を捕まえたり射止めたりするって事ですよね。だから、その……討伐っていうのをして、お肉を剥ぎ取るって事なんですよね!」


 意気揚々と彼女はそう声を上げて、更には「魔獣のお肉は昨日食べられたので、魔物のお肉はどんな味がするんでしょうか……楽しみです!」とまで口にしている始末である。


 これにはウィリアムも空いた口が塞がらなかった。なんでそうなるのかとため息も吐露してしまう。


「……はぁ。まぁ、良い。とりあえず、説明するから聞いてくれ」


「はい!」


「まず、君の認識を正さなくてはいけないんだが……今回の目的は君の言う肉を狩るというものではない。よって……美味しい肉が食べられるなんて期待はしない方がいい」


「……違うんですか?」


 先程の嬉々迫る表情が一変して、途端にしょんぼりと残念そうな表情をイヴは浮かべる。


「あぁ、違う。まぁ……もしかすると食べられるかもしれないが……」


「えっ。やっぱり食べられるんですか!?」


「いや、だからそんな期待する様な顔をしないでくれ。俺が言いたいのは食べられるかもしれないが、食べられたものじゃないという事だ」


「……??? あの、ウィリアムさん。それってどういう事なんですか?」


「今回の討伐依頼の対象なんだが……それはゴブリンという魔物が対象だ」


「ごぶ……りん……?」


 言ってみてなんだが、イヴは俺の言葉を上手く呑み込めていないといった感じだった。その様子ではゴブリンがどんな魔物なのか知らないのだろう。


「ゴブリンって確か……ウィリアムさんが昨日言っていた名前でしたよね?」


「あぁ、そうだ。そのゴブリンだ」


 そう言いながらウィリアムは昨日の事を思い出す。そういえば彼女、ゴブリンやオークを食べられるかどうかを疑問にしていた事を。だが、それについては今は重要ではないので、思考の隅にへと即座に追いやった。


 そしてウィリアムはイヴに向けてゴブリンの説明を続けていく。


「ゴブリンは身長や体格は子供くらい。君よりも少し小さいぐらいの背丈というべきかな。性別はほとんどが雄ばかりで雌もごく稀に存在するというけど……まぁ、俺は雄の個体した見た事がない。雌もいるって話を聞いたぐらいで、その実態は全然分からない」


 魔物に詳しい学者や先生でもあれば知っているかもしれないが、生憎ウィリアムにはそういった教養は無い。見て知った事実と話に聞いて得た知識でしか話せないからこそ、深くは話さずに次に進んでいく。


「外見的な特徴としては、肌の色が緑色で醜い容姿をしているのが特徴だ。それと、知能はある程度は持っているから武器の扱いも出来るし、人間ほどでは無いが群れを作って集団行動も行える。そしてあとは……他種族の女性を攫う習性があるのも特徴だな」


「女性を攫う……ですか?」


「あぁ。女性を攫って、その……」


 そこまで口にして、ウィリアムは言い淀んでしまう。イヴは不思議そうな表情をして首を傾げながらウィリアムを見ているが、彼の口から次の言葉はしばらく出てこなかった。


 彼が言い淀んでしまった理由は……単純に言い難かったからだ。同じ女性でもあるイヴに向けてその実情を話す事は気が引けたからだ。


 しかし、彼女も魔術師を目指している駆け出しの冒険者でもあるのだ。そんな彼女がその実態を知らない事には先には進めないだろう。


 だからこそ、ウィリアムは一呼吸をしてからその内容についてイヴへと告げた。


「その……ゴブリン達は自分達の巣に女性を持ち帰って……繁殖に使うんだ」


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