問題だらけの異端魔術師~訳あって新人とパーティを組む事になったが、色々な意味で規格外で異常過ぎた件~

八木崎

序章

プロローグ『故郷からの出立』

 



 ―――少女は歩く。道なき道をただひたすらと歩いていく。貰ったばかりの新品の杖を右手に携え、草木を掻き分けながら進んでいく。



 ここは街から遠く離れた山中の獣道。人の気配はまるで無く、ろくに手入れのされていない草木は伸び放題といった有り様だ。



 そして鬱蒼と生い茂るそれを掻き分けながら進むというのは非常に労力のいる作業であった。



 けれども、少女にとってはそうした事を障害だとも思う事は無い。何といっても、少女からすれば長年の住み慣れた場所であり、そうする事が当たり前の環境である。



 だからこそ、それを苦だと思う事は一切無かった。少女は慣れた感じでどんどんと前にへと進んでいく。



 ただ、その歩みの先に何があるのか……それを少女は知らない。どんな生き物や人が住んでいて、どんな世界が広がっているのか全く分からない。



 本でかじった程度の知識は持ち合わせているものの、実物は見た事が無いので無知だと言っても過言では無い。



 少女が知っているものといえば、住み慣れた故郷の周りにあるものだけ。周りの草木や花々、そこに生息する動物たち。それ以外のものに関しては、少女にとっては未知の領域である。



 しかし、その先に何があるのかは知らないけれども、きっと楽しい事や面白い事で満ち溢れているのだろうと期待に胸を膨らませる。



 少女は一旦歩みを止め、立ち止まると後ろを振り返ってから視線を上にへと向けた。その視線の先には少女の住んでいた古びた山小屋があった。



 正確な年数は分からないが、とにかく長い時をその場所で過ごしてきた。少女と……もう一人、彼女が師と仰ぐ人間と共に。



『この先を歩いて行きなさい』



 その師は少女が進んできた方向を指差しつつ、彼女に向けてそう言ったのだ。



『そうすれば、お前の望むものがきっと手に入るだろう』



 そしてこうも言ったのだ。いつにない、優しい口調で諭す様な感じでだった。



 ならば、それを疑う事なんて以ての外である。他ならぬ尊敬する師がそう言っていたのだから。信じない道理は無かった。



「お師匠様……私、行ってきますね」



 出掛けの際にも本人の面前で直接そう言っていたのだが、少女はもう一度この場にて師に向けてそう告げる。



 そして目線を元の位置に戻した後、また少女は今まで進んできた方向にへと再び歩いて行った。



 それからはもう二度と、少女は後ろを振り返る事はしなかった。真っ直ぐに前を見つめて、突き進んでいく。



 名残惜しいという気持ちが少女の中にはあった。が、また振り向いてしまうのは師に対する裏切りにも思えたから。なので、振り返りはしなかった。



 少女は休憩を取る事も無く、ただひたすらに前にへと進んでいく。そして……長い長い時間が経った。



 そうしてようやく、少女は人の往来のある街道にへと辿り着いたのだった。だが、その街道には自分以外の人の姿は誰一人と無かったが。



 初めて見る光景に、少女は感慨深い気持ちになった。気分はどんどんと高揚していく。けれども、そこはまだ少女の目的地では無い。



 彼女が目指すのはもっとその先、大勢の人が共存して暮らす、見知らぬ土地なのである。



 だからこそ、少女の歩みは止まる事は無かった。その街道の先に向けて、少女は再び進んでいく。



 ふと、少女は空を見上げてみた。そこには雲一つ浮かんでいない、快晴の空が広がっていた。



 この青く広い空の先に何が自分を待ち受けているのか。それを思うだけで少女の心は高まるばかりである。



 気分の乗った少女は歩くのではなく、今度は走り出した。一体どれだけまた進めば目的地に辿り着くは分からないけれども、今の少女には関係は無かった。



 今はそう……好奇心の赴くままに、ただただ駆け抜けていくだけであった。



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