第41話 トランプ
「さあさあ。行きましょ。かわいい子たちがまた来てくれてマサミさん嬉しいわ」
内側から手だけで施錠できる扉なので鍵を閉めたことは何とも思わなかった。扉の所から小走りでルリに近づいたマサミさんはまたしてもルリに抱きつく。
「もうこんなにおめかししちゃって。こんないい服どこから持ってきたのよ」
「離して」
予定とは全く違うが、厄介になることになった研究所の内部はこの前来た時よりも明るく見えた。照明が灯っている訳ではないがないが気持ちが盛り上がっているので雰囲気が明るく見える。
研究所内部にあるリビングルームに入ると4人ともテーブルに着いた。先日昼食を頂いた部屋では朝ご飯らしい焼いたベーコンのような香りが漂っている。大食らいのダイスケが口を大きく開いて食べる姿を思い出したエイタは朝食は済ませてきたが空腹を感じた。
「あ、そうだ。この前あなたたちが来た時に旦那と車で物資を取りに行ったでしょ。その時にねルリちゃんとエイタ君の為にって色々取ってきてあげたのよ。ほら」
マサミさんが立ち上がって部屋にある棚から紙袋を取り出し、開いて見せてくる。その中には人形やらミニカーやらのおもちゃが色々入っていた。
「どう、嬉しいでしょう。何か欲しいものはある?」
「えっと……」
大きな紙袋に所狭しとおもちゃが入れられているが、どれも中学生が好むものではなく、小学生が喜びそうなものばかりだった。それも小学校低学年、もしかしたら幼稚園児が対象年齢のようなカラフルパッケージが揃っていてエイタは困る。
「そんなのいらないですよ。幼稚園児が好きそうなのばっかじゃないですか」
ルリがずばりと断ってくれた。
「あらそうなの。お人形さん遊び好きじゃないの?」
「私たち中学生の年齢ですよ」
「あ、じゃあこれは。トランプでも皆でやろっか」
「えー」
紙袋の中からトランプを見つけたマサミが取り出してルリに見せる。そのトランプも絵本のようなテイストでかわいらしく動物たちが描かれたものだった。
「ほう。トランプか。俺も久しぶりにやりたいな」
ダイスケが横からマサミに乗っかってきた。
「ね。やりましょうよ。エイタ君はいいでしょ?」
「はい」
早く死の病の治療法のことや、研究についての話を聞いてみたかったがエイタもマサミさんの誘いに乗った。
帰るときに薬をもらったり、死の病にかかってしまったときに助けてもらうつもりなら、ダイスケとマサミと親しくなっておいたほうがいい。トランプなんて丁度いい親睦を深める道具だと思った。
「よし。おりこうさんね。じゃあやりましょ。何のゲームにしようか。初めはやっぱりババ抜き?」
「そうだね。ババ抜きでいいんじゃない」
マサミはトランプの封を開けてカードをシャッフルした。
「ババ抜きはルリちゃんとエイタ君も分かるわよね」
「はい」
ルリは返事をしなかったが、マサミはルリの分もカードを配って、なんだかんだ4人でババ抜きが始まった。
それぞれ、初めの手札で既に数字が揃っているカードをテーブルの真ん中に出す。
「じゃあ、じゃんけんしよっか。勝った人から右回りの順番ね――」
大人たちとのババ抜きは笑いが絶えないムードで進んだ。エイタやルリよりもなぜだかマサミとダイスケが楽しそうで……ゲームに進展があるたびに声に出して一喜一憂していた。
「うわあ。私とエイタ君が残っちゃったか」
ドべ争いになったのはエイタとマサミだった。2択でカードを引き合うたびに相手に見えないように2枚のカードをシャッフルする。マサミが入念にシャッフルするのでエイタもそうした。
想像以上に長引いたエイタとマサミのドベ争いは最終的にエイタがハートの4とスペードの4を揃えて勝利した。
「負けちゃったあ。悔しい。もう1回やりましょ」
4人でのトランプはその後も、ババ抜きが終わると大富豪や7並べをやって長く続いた。さらに、トランプが終わると人生ゲームやオセロなんかもマサミが取り出してきて遊んだ。
エイタは2人と仲良くなるなんてことを目標に最初は遊んでいたが、途中からはそんなことを忘れて純粋にゲームに取り組んでいた。自然と優しい大人たちに打ち解けてきて一番を狙って頭を働かせた。
昼にはマサミがまたおいしい昼食を作ってくれて、4人でテーブルを囲んで食べた。
昼食後には再び、テーブルゲームが始まる。マサミは負けず嫌いなようで自身が4位で負けるたびに「もう1回」とねだっていた。
そんな具合で仲良く過ぎていった日中は、エイタにとってはあっという間に感じられた。トランプや人生ゲームなんて久しくやっていなかったがたまにやると面白い。
ルリもあまり笑ってはいなかったが楽しんでいたとは思う。トランプではよく悩んでから出すカードを決めているようだったし、運が良かったというのもあるだろうが1位になった回数はルリが1番多かった。1位になる度に唇を結んでいて、エイタはそれが笑顔になるのをこらえているように見えた。
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