第40話 施錠

「本当ですか!あの病気を治せるんですか!」


「ああ……。本当さ。必要な試験はクリアしていて、実験段階では治療に成功している」


「……そんな。……すごい。すごいですね先生!」


 エイタは思わずダイスケに手の届く距離まで歩み寄ってしまった。もう少し親しい関係だったら抱き着いて喜んでいた。とにかく嬉しい知らせだった。死の病に怯えなくてもよくなれば先が見えなかった未来が一気に明るくなる。


 まさか……まさか、そんな言葉が聞けるなんて。


「ねえルリ。聞いたよね?死の病はもう治せるんだって!」


「…………」


「ねえ。すごいよね」


 ルリにもありのままの気持ちで喜びを示した。両手でガッツポーズをして語り掛ける。しかし、ルリは少し離れた場所で何も言わずに立ち尽くしていた……。


「……うん」


 近寄ってみたらようやく喉だけで小さく同意するルリ。視線は死の病が治せると言ったダイスケを見たまま、表情が固まっている。とにかく驚いているという様子だった。


 喜んでいないようにも見えるルリの表情が気になったエイタが我に返って周りを見渡すと、舞い上がって喜んでいたのは自分だけで頬に熱が集まるのを感じた。


「実験段階では成功しただけで、まだこうして人に言える状態ではないんだけどね」


「きっと人間でも成功するわよ。大丈夫」


「そうかい?」


「そうよ。信じてるわ」


 ダイスケとマサミは仲睦まじい様子で話していた。


「……それで、もう本当に行っちゃうのかい?せっかく来てくれたのに」


「あ、いえ」


「僕としては今日こそ泊まっていってくれたら嬉しいな。実は研究も後は経過を見るだけで暇なんだ。だから遊び相手が欲しくてね」


「そうよ。帰るなんて言わずに泊っていきなさい2人とも。今日もおいしい料理つくってあげるわよ」


 エイタはルリの反応を伺った。ルリはまだじっと大人たちを珍しいものでも見るかのように観察している。


「ね。ルリ泊っていこうよ。こういう話ならいいよね」


「泊まっていってくれたら詳しい話も教えてあげるし、精いっぱいもてなすよ」


 ルリに黙って、手紙に加筆していたことも忘れて大人と一緒にルリを説得しようとする。


「……分かった。いいよ」


 しばらく黙った後ルリは頷いた。その間もルリの表情は固まったままだった……。


 そうして、再び研究所の敷地内へ入ったときにエイタはなぜルリがそれほど喜んでいないかを考えたが、手紙の内容を知らない状態で急に思いもよらぬ言葉を聞いたらこんなものかとすぐに納得した。


 談笑しながら前を歩く大人たちに続いて研究所の内部に入る。エイタはすがすがしい気持ちだった。これから死の病の恐怖が無くなった広い世界でルリと末永く幸せに暮らしていくのだ。


 マサミさんが両開きの扉を開いたままにしてエイタとルリを迎え入れてくれる。その開かれた思いドアが音を立てて閉まると同時に後ろで鍵をかける音もする。

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