第39話 手渡しの

 会うつもりはなかった2人との遭遇にエイタは体が固まった。その必要はないが身がすくんでしまう。ルリもエイタの近くへ少しだけ近づいた。


「よかった。何も言わずにいなくなってしまったから何かあったのかと心配していたんだよ」


「あ、すみませんこの間は。勝手に帰ってしまって」


「あの日は何かあったのかい?せっかくサッカーボールも持ってきたのに」


「その……急用を思い出したというか……」


「まあ何も悪いことが無かったならよかったよ」


 ダイスケは初めに研究所に訪れたときと変わらない笑顔でエイタとルリに近づいた。


 何だってこんなタイミングで後ろからダイスケがやってきたのか。あと十分早くか遅く来ていたら出会わなくて済んだのにと後悔する。


「まあルリちゃんとエイタくんよかったわ無事で!」


 研究所から出てきたマサミは途中から走ってルリとエイタをいっぺんに両腕で抱きしめた。


「マサミさんやめて」


 ルリが隣で抵抗したが、マサミは力強く抱きしめていて離れられない。エイタも小学生以下の子供のような扱いを受けるのは恥ずかしかったが抵抗はしなかった。年上女性の化粧の香りが鼻につく。


「もういいじゃないちょっとくらい。私もしかしたら崖の下に落下でもしたんじゃないかしらって心配してたのよ。ここ山の上だから。ちょっとその辺を探しにも行ったんだから」


「分かったから話してください」


 マサミの手から抜けようとするルリの腕が自分の腕と擦れる。


「おや、それは何?」


 マサミと子供たちがじゃれる様子を見ていたダイスケがエイタの隣を指差す。その先にあるのはエイタが持ってきた手紙だった。


 ダイスケはビニール袋に入った手紙を拾い上げて、中身を観察する。


「手紙かい?僕に」


「そうなんです。お伝えしたいことがあって……それで、あのそれを届けに来ただけなんで今日はこれで失礼します」


 ここで、長くダイスケやマサミと接すればルリが嫌がると思ったエイタはこの場を離れようとした。


 話すときにエイタはマサミから解放されたがルリはまだ抱きしめられて金色の頭を撫でられている。


「もう帰るのかい?ゆっくりしていけばいいのに」


「そうよ。今日こそはここに泊っていきなさい」


「嫌です。今日もこれから予定が……」


 歓迎する大人たちから上手いこと逃れたかったが、言葉では無理そうだったのでルリを連れて走り出してしまおうかとも考えた。


 そのやり取りを見ている内に、ダイスケは手紙の封を開け始めた。封筒をビニール袋から取り出して中の紙を曇り空に透かしている。


 それはまずいとエイタは思った。ここで手紙の内容を声に出して読まれようものなら恥ずかしいし内容は重いし、ルリには教えていない内容がある……。


 ダイスケは紙を開くと笑顔を無くして、黙って読んだ……。ルリとマサミはそれに気付いているのかいないのか。エイタはただじっと手紙を読むダイスケの表情を眺めていた。短い時間が長く感じられる……読み終わったダイスケは何を語るのか。


「あの僕たち本当に帰ります。ごめんなさい。ルリ、行こう」


 怖くなったエイタはルリを連れて立ち去ろうとした。マサミも低い口調で言ったエイタの声でルリから手を離してくれる。


 ……ダイスケが手紙を読んで内容をどう読み取ったかは分からない。けれど、少し離れたエイタに対して呼ぶように放たれた言葉は意外なものだった。早く離れようとしていたエイタがすぐに戻って真偽を確かめるほど。


「死の病の治療法はね……。もう見つかっているよ」

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