第37話 手紙

「もう一度だけ、あそこの研究所に行っちゃだめかな?」


 思索を続け積み上げた山が完成するというよりは気づいたという感じだった。見落としていた横に落ちている物に。


「え。……嫌だよ」


「そういえばさ。死の病にかかった人が一瞬で死ぬようになったかもしれないって伝えてないじゃん。……ショウゴ君が死んだこと。どういう風になったかとか」


「そんなこと……でも……」


「分かってる。中には入らないよ。手紙を書いて届けるだけ。たぶんダイスケ先生には必要な情報でしょ。……手紙を届けたらそのままどこか遠くに行こう」


「うん……。それなら」


「じゃあ、明日ね。朝から行こう。行きたい場所とか考えといて」


 そういえば、当初の目的の1つでもあったショウゴの死に方についてダイスケに伝えてないことを思い出して……ルリの了解を得たらエイタは部屋を出てすぐに手紙を書いた。ホテルの受付を漁って品質の良さそうな紙とペンと封筒を手に入れて文字を書く。研究所に行ってから二日目の夜だった。


 手紙でショウゴの死の内容を伝えるだけじゃ、何の解決にもならない。むしろ新たな脅威をダイスケが知ったら喜びはしない。


 けれど、手紙を届けることにしたのには理由があった。ダイスケと連絡が取れるようになりたかった。聞きたいことがあったのだ……結局、死の病は治せるものなのかどうか。


 向かうホテル1階の机にはパソコンが置いてあった。パソコンを起動したエイタは検索サイトにログインする。まだ自身のスマホを持ったこともなかったが家にあったパソコンは使ったことがあってIDとパスワードは覚えていた。覚えていたことが正しいか確認してメールアドレスが表示されると、それを手紙に書き写す。


 手紙に書いたメールアドレスに間違いが無いかをチェックした後は質問を書いた。「聞きたいことがあるんですが、死の病は治せそうなんですか?できれば、メールで送ってほしいです」。直接的で生意気に感じ取られるかもしれないと思ったが大人の言葉は分からないのでそのままにした。


 要は人に任せることにしたのだ。自分以外の誰かに自分の悩みを解決してほしかった。ひょっとしたらダイスケの研究はもう良いところまで進んでいて死の病を克服できそうなのかもしれない。数日前に研究所に行ったときは余裕がありそうだったし、ルリの話では必ず治せるようにすると約束している。


 ずっと部屋の中で考えていても仕方ないし、動いてみることにした。ダイスケ以外にも死の病の研究をしているかもしれないとか、何か自分にもできる死の病の治療法がふと見つかるかもしれないとか雲を掴むような話もエイタは考えていた。


 当初の目的だったルリと2人で何もかも忘れられるくらい楽しく生きることになるのも悪くない。


 「この前は勝手に帰ってすみません」から始まる手紙を書き終えると封筒に目立つように赤ペンを使った。それが終わると部屋に帰って眠りにつく……。

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