第35話 治せない病気

「やっぱり……そうなんだ」


「うん。サトミちゃんは自殺じゃなかったの」


 これまでのルリの態度や話、それにショウゴの言葉を聞いていたエイタはなんとなくそうなんじゃないかとは思っていた。どういう死に方をしたかまでは分からないが少なくとも自殺ではないと。一番気になっていた部分でもある。


「突然だった……。誰でもそうだけど、突然自分の体の一部が金色になっているのを見つけてサトミちゃんも叫んだ。サトミちゃんは研究所で看病されることになって、私も嫌なんて言ってられる状況じゃなくなった。サトミちゃんには死んでほしくなかったから……」


「もう無理しなくていいよ」


 より話すのが辛そうになってきたので聞いているエイタも辛かった。事のいきさつは大体わかったのでこれ以上聞かなくてもいい。


「血を提供したり……恥ずかしい検査も付き合った。……サトミちゃんを助ける為に。それと同時にサトミちゃんも自分の感染した体を実験に捧げたの。2人で一緒だったから私も辛くなかったの。2人で生き残った人たちを救おうって弱っていくサトミちゃんは言ってた」


 ルリは話をやめなかった。


「ダイスケ先生にとっても今までの研究の成果を活かせる――助けられるかもしれない病人。疲れの見えていた目の色を変えて、極限まで集中してた。私にはよく分からないけど色んなことを試してた。……けど、何をしてもダメだった。サトミちゃんは五日後には死んだ。私はその瞬間を見ていないけど、ダイスケ先生が白衣を真っ黒にしてサトミちゃんの病室から出てきた」


 エイタは今まで見てきた人の死の瞬間を思い出してしまって気分が悪くなった。血生臭い匂いも鼻が勝手に思い出して、実際に香ってきているように感じる。


「マサミさんもその時は優しかったんだ。マサミちゃんを必死になって看病していたし、実験に協力的になった私にも優しかった。もともと面倒見が良くて子供は好きなんだと思う。けど目的の為に周りが見えなくなる人だと私には見える。サトミちゃんが死んだ日は私を抱きしめて頭を撫でてくれたけど……」


「……そっか。……そんなことが」


「ダイスケ先生はサトミちゃんの為にもいつか必ず病気を治す薬を作ってみせると言ってくれた。それから今日まであの研究所には行かなかった。……私は正直、先輩が死んでも病気に立ち向かおうとは思えなかった。……ダイスケ先生を見ていても何をしているのかさっぱりだったし。……だから、今のエイタを見ているのも自分と比べてしまう。もう、考えたくないの」


 ベッドから起き上がったルリの目はほのかに赤く潤んでいた。その目を細めて唇を結んでいる。

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