第27話 山の上の研究所
「分かった。約束するよ」
話が終わった後もルリは浮かない顔をしていた――
行くと決まったら、エイタとルリは各々準備をして30分後にはホテルを出た。ホテルのロビーで待っていると階段から降りてきたルリは黒いトップスを着ていた。黒と白の対照的なファッションに金髪のルリはコスプレをしているようにも見える。
外に出るとまた積もることはないほどの雪が降っていて、その中を2人乗りの自転車で山を目指した。
「ちょっとそこのコンビニ寄らせて」
エイタは朝ご飯を食べていなかったので、コンビニに置いてあったブロックタイプの栄養補給バランス食品をペットボトル入りのお茶と一緒に飲み込んだ。口の中いっぱいの何とも言えない味のものをゆっくり飲み込みながら外に出て、また自転車に乗る。
ルリはコンビニの中にも入ってこず、道路のほうを眺めていた――山の上の研究所をこんなに嫌がる理由は何なんだろうか。世界を救うための研究をずっと続けているなんて悪い人ではないだろうし、やっぱりサトミさんと何かあったんだろうか――。
悩んでいる様子のルリとは裏腹にエイタはやる気に満ちていた。ちょっとした坂なら踏ん張って登り切り、山の上と言っても見える範囲の距離なので、思っていたよりもすぐに山のふもとまで着いた。
「本当に大丈夫?ルリがあそこへ行くのが辛いなら俺一人で行ってくるよ。絶対今日中に帰るって約束するし」
「ううん。私も行く。帰るタイミングは私が決めるの忘れないでね」
「その……先生ってどんな人なの?」
「優しい人だよ」
自転車は両端が緑の上り坂の下に止めて、歩いて山を登った。こんなところに研究所なんてあるのかと思える山の、それを越える為だけにあるような荒いアスファルトの道。右にも左にも木しかない道を進むと場違いに立派な建物が見えてきた。
白い学校の校舎のような建物は1つだけと遠くからの見え方では思っていたが、坂を上りきると同じものが2つ並んでいた。大きさもちょうど学校の校舎くらいで二階建て、1人で使うには相当な大きさだ。
表の門には「衛生研究所」と書かれていた。開かれていた門を通り抜けると、木の匂いの中に初めて匂う香りがした。知らない薬品の香りだろうか。
ずけずけと勝手に入っていいのか分からないが、ルリも何も言ってこないので門からまっすぐ進んだ先に見えるドアを目指して進む。
「ここで研究している先生はどこにいるの?」
「前と同じ場所ならこの建物の二階の真ん中あたり」
重たいガラス扉を開いて、ルリと一緒に中に入る。内部は病院のような印象を受けた。並ぶドアの窓は半透明になっていて中が見えない。階段の下に置いてある謎の機械は赤や黄色のランプが付いていてジーと小さな音が鳴っていた。
なんとなく2人とも足音を小さくして歩いてしまった。廃病院のような雰囲気で急に大きな音が鳴ればビックリしてしまいそうだった。
「誰?」
階段の踊り場で次の階段に足を乗せた時、上から女性の声がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます