第26話 話し合い
すぐには開かなかった。中の様子を探るため耳を澄まして待っていても反応が無かったのでもう一度ドアをノックする。
「おは――」
呼ぶようにエイタが声を出すと、言葉に食い気味に扉が開いてガチャリという音にかき消された。
「おはよう」
「おはよう」
「入っていい?」
「うん」
白い……ルリも着替えが終わっていて昨日とは違う格好だった。長袖で白一色のワンピース。そして口元を手で隠していた。
たった一晩寝ていただけだがルリの部屋だ。あまり色んなところを見ると変に思われるかもしれないから欲を抑えてまっすぐベッドの横のソファに向かって腰を下ろす。
ベッドの上には服が3着ほど並べられていて――その横には開けっ放しの饅頭の箱があった。半分以上減っていたのでそこに視線を止めてしまう――。
するとそこに饅頭の箱の蓋を閉めながら遠ざけてルリが座った。
「昨日はよく眠れた?」
「うーん、そこそこかな。いつもと変わらなかったよ」
「良かった。俺も思いのほかよく眠れちゃってさ」
大きなふかふかのベッドに座り真っ白な服を着ているルリにどこか他の世界のお姫様という印象を抱いた。真面目な話をしに来たんだと言う自分の中の自分がそんな想像を蹴飛ばす。
「昨日は……ありがとね。ちゃんと言えてなかったから。その…………俺と一緒に来てくれてありがとう……」
緊張で背中から首や肩が固まってしまう。ルリは唇をキュッと閉じて無言で首を横に振ってくれた。
「俺あの時、君の手を握って公民館を出た時、何もかも嫌になっちゃってさ。何が起きたか理解するのも……あの場に残ったらどうなるか……想像するのもめんどくさくって全部投げ出してしまおうって思ったんだ」
研究所に行きたいということとその理由を伝える為にまずはありのままのいきさつを話した。
「でも昨日の夜、病気のことやショウゴ君が死んだという事実というよりもショウゴ君がいなくなってしまったということを考えた時、やっぱり俺は立ち向かわなくちゃいけないと思ったんだ。ただ考えないようにするだけじゃ前に進めない。…………それで、だから……俺、ルリが言ってた研究所に行ってみたい」
「そっかぁ……。私は昨日も言ったけどハッキリ言って嫌だよ……。あそこには行きたくない。私が絶対に賛成しなければどうするの?」
「俺一人で行ってみるよ。……君と2人でどこかに行くのをあきらめるわけじゃない。ここにでも住んで研究所に通うって形にする」
難しい質問だったがこんな展開になると思っていたのでエイタは迷わず答えることができた。ルリが研究所に行くのが無理ならこうするのが一番良いと思う。
「どうしても?」
「行ってみたい……」
「私はエイタが1人で行くのも嫌でも?」
「……君と楽しく暮らすためでもある。病気のことが気になってちゃ落ち着けない」
ルリは黙ってしまった。昨日も言いたくなさそうだったので何で行きたくないかは聞かなかった。ほどなくして思考が固まったのか口を開く。
「じゃあ私も一緒に行くよ。でも1つだけ私のお願いを聞いて……私が帰りたいと言ったらすぐに一緒に帰るの。それを約束して」
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