第24話 風呂の中なら

 ルリは明るくなった階段の先を目を細めてじっと見ていた。


「どうかした?」


「いや、ただ電気がついていくのを見てただけ」


「そっか。じゃあ上がろう」


 案内板を見なくても部屋の数字をたどって行けば拝借したカードキーのナンバーと同じ303と304の部屋はすぐに見つけられた。


「じゃあこれ」


 大きな袋をルリに渡す。ルリも本とブックカバーとカードキー、そしてお茶のペットボトルに12個入りの饅頭を1箱持っているので荷物が多い。


「これからどうするかゆっくり話すのは明日にしようか」


「それがいい。私のことは本当に大丈夫だからゆっくり休んでね」


「ルリもゆっくり休んでね。おやすみ」


「おやすみ」


 ほんの一握りだけ一緒の部屋がいいなんて言われることを期待していたが、ルリはするりとエイタが持ってあげていた受け取ると304の扉の中に消えていった。後悔や残念という気持ちは全くない。ゆっくり休んでと言われたこと、おやすみを言えたことが嬉しかった。


 それよりも自分にはやることがある。エイタは303の扉を開けて中に入った。


 手に持っているものを大きなベッドに投げて、ジャージのファスナーを下ろしながら足でズボンを脱ぐ。ホテルの部屋に着くとまず最初に風呂に入ると決めていた。


 パンツを床にそのまま放置して、流しやバスルームに続いているであろう室内に唯一あるドアを開く。流しの横に置いてあったタオル達を一旦ドアの外に優しく投げて、そのまま浴槽に入り温度を40手前に合わせてシャワーからお湯を出した。


 勢いよく出るシャワーを頭から全身に浴びると、頭を両手で鷲掴みするように洗った…………出しっぱなしのシャワーのお湯を受けながらボディソープをボディタオルに出して20秒ほどだけで体もさっさと洗う…………そして浴槽の中に座り込んだ。


 わずかに溜まった水の上でシャワーから降り注ぐものが作る雑音だけが響き渡る。


 髪から流れてきた水と共に涙がエイタの頬を伝って、音もなく下へ溶けて混ざり合った。


 そうだよな……あのショウゴ君が死んだんだよな……。


 こらえていた部分もあるしピンと来ていなかったというか泣ける状況じゃなかったというのもある。悲観的な考え方は浮かんできたものからどこかへ投げ捨てて置いた。


 真顔のまま涙だけが流れていっているエイタの顔は浴槽に水が溜まっていくと共に歪んでいった。目がしらは熱くなり、涙腺からどんどん水が出てくる。


 正直、最近は嫌いだった。自分を子供扱いしたり、ルリを嫌っていたところ。結局、喧嘩別れになってしまったけど、あの喧嘩の始まりもショウゴが自分を思う気持ちがあったからだ――。自分の為に熱さまシートを持ってきたり自分とゲームをやりたがっていた。タイシも…………あいつは今頃何をしているだろうか…………。


 そんなことを考えていたら泣くつもりなんてなかったのにどんどん涙は勢いを増した。


 呼吸まで難しくなったきたので落ち着くように自分をコントロールしようとする――。シャワーを止めて浴槽の中、親指と人差し指で目頭をつまむ。途切れ途切れになってしまう呼吸で大きく息を吸って大きく息を吐いた…………。


 やっぱりやるしかない。


 立ち向かうしかない。とりあえず本で勉強してチャンスがあればなんて言ってる場合じゃない――。明日、山の上の研究所に行こう。

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