第22話 まだ中学生

「どうしよっか?もう必要なもの持ってホテルに移動しようか」


「そうだね。もう夜も遅くなってきたし」


 時間は今21時を過ぎたぐらいだろうか。立ち上がるときに足へ疲れがやってきた。思えば昨日もよく寝れてない中、今日は色んなことがあったし動きっぱなしだ。腕を天井に向けて伸ばせば大きなあくびが出そうだったが、だらけた行動ができる雰囲気じゃないので我慢する。


 休日には人でいっぱいになっていた3階建てで県最大規模のショッピングモールを2人だけで歩き、衣服なら何でも取り揃えている大衆向けでコスパが良いブランド店の前に着いて、エイタはそこを親指で差した。


「とりあえずここで着替えもらおうか?」


 ルリは眉間にしわを寄せて何も言わずこちらを見る。


「ここは嫌だった?どこでもいいでしょ」


「別にいいけど……」


 眉間にしわを寄せたまま、今度はほっぺたを膨らますルリ。よく分からないが何か失礼なことがあったんだろうか。エイタは高い服を選び放題になった今でも服は着やすさ重視で、見つけた店はエイタのお気に入りだった。


「じゃあ俺、向こうの男もののほうでサクッと取ってくるから」


 うーん、これとこれと、あとはパンツと靴下があればいいか。サイズも気にせず、ぱっと目についたものを広げてみて問題なさそうであればそのまま手に掴んだ。


 オシャレなものは分からないが一応ダサいものぐらいは理解できているつもりなので、奇抜なものは避けて無難に単色で白いシャツと好きな色の赤とオレンジの間ぐらいなカーディガン。そして、ほんとはこのままジャージが良いが動きやすそうなものでベージュのズボンを選んだ。


 このまま全部手に持っていくのも不格好なので、店のレジでブランドのロゴが描かれた中くらいのナイロン袋を2枚とって、自分の分を1つの袋に押し込む。


 ここからでは何重にもならんだ棚が邪魔でルリの姿が見えないが、もう選び終わっただろうか。


 一度ショッピングモールの通路側に出て、女ものが置いてあるほうへ行き、1つずつ棚と棚の間を確認する――。一番奥にルリがいて、手には白、黒、青、赤……様々な色の布を持っていた。


「どう?選び終わった?」


「え、そっちはもう選び終わったの?」


「うん」


 手に持っている袋を前に出してルリに見せる。


「はやっ。ちょっと待ってよ」


「ああ、ゆっくり選んでいいよ……ってそれ全部上に着るやつじゃん。それ全部持ってくの?」


「そうだよ。ここにもなかなか良いのあるね」


「そうなんだ……じゃあこの袋じゃ全部入んないな」


「もう、そっちが早すぎるんだよ」


 そう小声で言いながらルリはハンガーにかけて並んでいる服を1つずつ吟味し続けた――。


 そういう経験はないが、こういう時は優しく女の子が服を選ぶのを待ってあげたほうが良いのだろう。エイタはルリを急かすことはせずレジに戻り、中くらいの袋を大きな袋と交換してから店の前のベンチに座った。


 ルリと色々話したからだろうか。少し気持ちは落ち着いた。肩の力が抜けて、溜まっていた感情が息に変わり吐き出される。やっぱり昨日眠れてないのでいつもは寝るような時間ではないが眠くなってきた。もっと詳しく考えるのは1度寝てからにしよう。そんな心境で、高い天井でもボーっと眺めながらルリを待った。


「終わったよ」


 少し目をつぶってしまったときに両手で色とりどりを持ってルリが店を出てきた。


「ああ。おつかれ」


 大きな袋を開いてあげて、ルリが持っているものをそこに器用に流し込む。


「俺が持つよ」


 パンパンになった袋に伸ばしたルリの手から袋を遠ざけた。


「ありがと」


「次は本屋行こうか」


「うん」


 思っていたよりは早く選び終わった。自分の分とルリの分の大きな袋を一緒に片手で持つと少し重いが、エイタはなるべくカッコつけたいので涼しい顔を貫いた。



 本屋はエスカレーターを下ればすぐそこで、エイタも欲しい本がある。昼に行った本屋よりもずっと広い店内に入ると、ルリは金色の髪をふわりとさせて小走りで店の奥に消えていった――。


 エイタはそれを追わず、「参考書」という看板を見つけて今まで行ったことのないスペースに向かう。視界に入っただけで不快になる勉強のための本たちと真剣に向き合い、学のない自分にちょうど良い難易度の本を探した。


 「漫画で分かる感染症入門」……やってやる。最初はこんな本からでいい。いつか俺がこの世界を救う。本を手に取ってそう誓えば、体から力が湧いてきた。

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