第21話 サトミ

 山の上の明かり?たしかに夜になると目立つ白い光が公民館から見えていた。あの光のところにも生き残った人達が暮らしているのだろうかと他人事に考えたことがある。


「私の知っている限りではその研究者は優秀な人。でも、ずっと研究を続けてるけどなかなか病気の原因は見つけられないみたい」


「あそこってそんな場所だったんだ。生き残ってる大人がいるの?そこって人手は足りてるの?」


「2人しかいない――けど、私手伝いに行くなんて嫌だよ。私たちじゃ何の手伝いもできないし」


 正に今の自分が求めているような環境が見つかったエイタはすぐにでもすぐにでもその場所へ行ってみたかった。しかし、エイタの思惑を察したルリは乗り気ではなかった。


「2人しかいないなら身の回りの世話とかでも力になれるかもじゃん。それに病気が進化してるってことは知ってるのかな?知らないんだったら情報を伝えたほうが良いと思う」


「1人が研究者でもう1人はその奥さん。身の回りの世話をしてるから身の回りの世話はいらないよ」


 大人の男2人かと思っていたが、夫婦で研究しているなら訪ねやすそうだ。エイタはこれからの道が決まったと思った。独学で勉強するのは自分でも無謀な気がしていたが、そこで研究者を手伝って病気を防ぐ方法を見つければ死という恐怖から解放されてルリと長い時間幸せに暮らすことができる。


「つーか何でそんなこと知ってるの?」


「それは……実は前に一度行ったことがあるの。ナナミちゃんと……サトミちゃんとね……」


 サトミの名前が出てから、ルリの言葉が詰まる――。サトミさん、2つ年上でショウゴ君と同い年だった。明確な日にちは覚えてないが1ヶ月以上前にどこかで首を吊って自殺したと聞いている。


 エイタにとってはいつの間にかいなくなっていたという印象の公民館のメンバーの1人で、ほとんど話したことはないがショウゴが何度か話しているのは見たことがあるという程度だった。


 ――そういえばショウゴ君と喧嘩になったときもその名前が出たがサトミさんはルリと親しい関係だったのだろうか?


「詳しくは言いたくないけど、とにかく私はあそこへ行くのは反対。こんなこと教えなきゃ良かった」


「行くだけ行ってみないか?ルリがいつ行ったのか分からないけど、もしかしたらもう病気のワクチンなんかができてるかもしれないし、ダメそうだったらすぐ帰ればいい」


「嫌だ」


「何で?」


「とにかく嫌だ。もうこの話はやめて」


 頑なに譲る気はない態度をとっているし、サトミの名前が出た時に言葉に詰まったことの背景にある闇を詮索しようと思えなかったのでエイタはこれ以上聞くことをやめた。この世界に生き残った者は誰にでも思い出したくない悲しい過去があるだろう。


「じゃあ、この話は一旦やめようか」


 だけど、エイタは山の上の研究所に行くことをあきらめてはいなかった。そのうちチャンスがあれば寄り道しよう、そのくらいに考えていた。

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