第20話 大丈夫
それは今まで聞いたルリの言葉の中で一番大きな声だった。私たちは絶対に死なない、透き通っているようで力強い声がショッピングモール内に響く。
「私にあんまり気をつかわなくてもいいよ」
金髪の少女が胸の前で拳を握ってエイタに伝える。
エイタはそれを自分の気持ちを察しての励ましだと思った。そして、自分のことを思って勇気づけてくれているルリのことが愛おしく感じる――。
「分かった……ありがとう。やっぱりゆっくり話そうか」
「――今日はとりあえずここから近いホテルにでも入って寝ようと思ってるんだけど、それでいいよね?」
「うん」
映画館の受付にあったベンチに座って話し始めた。
「近いうちに住む場所も決めないといけないよな。すっげえ高級なホテルとかにするか」
「もう公民館は嫌だね」
少し笑った後2人は黙って沈黙が流れる。エイタは下唇を噛んだ後、空気を多く含んだ声であまり話したくない話題に切り替える。
「ショウゴ君が死んだのは夢じゃないんだよね……しかもあんな一瞬で……」
「あの病気まだ終わってなかったんだ。それに……まだ若いのに……」
「今頃あの公民館はどうなってんのかな…………あっ」
エイタの頭の中に今日の日中、橋の下で見た黒色が通り過ぎる。
「今日の昼に見たあれも……もしかしてあそこを通りかかった誰かが急にああなったってことか…………だとすると…………」
「大丈夫だよ。私たちなら……信じて。いや、信じよう………」
ルリのほうを見ると綺麗な瞳と目が合って吸い込まれそうになった。その目をより鮮明に捉える為に自分の瞳孔が開いていくのを感じる。そのまま数秒黙って見つめてしまったことに気づくと反射的に自分の足を見つめる形に戻った。
「信じたい。いや、信じるけどさ……あの病気の原因を知りたいよな……安心するためにさ。まあ知る方法なんてたぶんないんだけど」
「そうだね。あの病気は私たち子供がどうにかできるものじゃないよ」
「誰も解決できなかったから世界がこうなっちゃったんだもんな……」
重い空気が2人を包む。こういう時は僅かな電化製品の音や時計の秒針が動く音がやけに強く耳を叩く。このジーという音はポップコーンマシンから聞こえているんだろうか。
「決めた……俺、勉強するよ。俺が死の病に効く薬を作る」
前から少し考えていたことだ。勉強は嫌いだが苦手じゃない。大人になれば死んでしまうかも知れない、それは生き残った年齢の低いもの達が抱える共通の悩みだった。子供の自分に大人の医者が誰も解明する前に死んでしまった答えを見つけ出せるわけがないと、エイタも誰も彼もと同じように逃げていたことに挑戦する決意をした。ルリとのこの先の為に。
「無理だよ」
エイタの決心はあっけなく否定された。
「勉強なんてしてもたぶん」
「何でそんなこと分かるの?やってみなきゃ分からないだろ」
少し傷ついて、ルリのほうを見て問い詰める。
「だって、ずっと勉強してた人でもダメだったんだから、現実的じゃないよ。もう病気のことは考えずにこれからどうしていくか話そうよ」
「俺は君の為に勉強するって思ったのに。ルリが嫌でも俺、やるだけやってみるから」
「うーん…………実はね、ちょっと知ってることあるの」
「知ってること?」
「……あの病気について調べてるところがあるの。山の中に。公民館からも見えてる山の上の明かりがあるでしょ。そこで研究してる人がいるの」
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