第19話 ショッピングモール

 正面の一番大きな入口からショッピングモールの中に入り、最初に見つけたベンチに座った。茶色のベンチは色合いが公民館のロビーに置いてあるものと似ている。


 腰を落ち着けると、まず思考が固まり頭が空っぽになった。呆然と閉まったシャッターを眺め――そして蘇る、体が真っ白になっていくショウゴのあの表情、一瞬で弱まり消える体。


 あれは夢ではない。夢ではないとしたら去ったと思われていた死の病はやはり帰って来ていて……しかもそれは……体を蝕む速度を上昇させて再び人類を攻撃し始めたのか。今この時も安全ではなく次の瞬間自分も黒色になってしまう可能性があるのだろうか。


 それに……そう……小さい頃から最も近しい先輩だったショウゴがついさっき死んだのだ――


 ルリと2人で公民館から離れて落ち着ける場所を目指すことを最優先に考えて、直視していなかった問題が頭を襲う。足に肘を置いてゴクリと唾を飲み込んだ。今ここで、ルリの前で弱いところを見せてはいけない――。


「大丈夫?」


 それはルリの口から出た言葉だった。


「だ、大丈夫だよ。俺は大丈夫…………でもちょっとビックリしたよな。さっきのは……」


「無理しなくていいよ。私もちょっと落ち着いたから……そりゃ辛いよね。いつも一緒にいた人だもん」


 エイタは何も言えなくなってしまった。正直に恐怖や悲しみを語るのも、嘘をついて強がるのも正解だとは思えない。言ってしまったほうが楽だろうか――いやそれでもやっぱりルリにかっこ悪いと思われたくない。


 エイタは溢れ出しそうな頭の中の嫌な記憶に蓋をした。


「本当に大丈夫だよ。もとから公民館を出て行って二度と戻らないつもりだったんだ。そしたらどっちにしろ二度と会うことはなかった……」


 自分で言った二度と会うことはないという言葉が胸に刺さり、ジャージのポケットに手を入れてグッと握る。嘘を悟られたくないのでルリのほうを見れないが、少し待ってもルリから続く言葉はなかった――。


「だからもう忘れよう。これからどうするか考えよう。残りどれだけ時間があるか分からないし――」


 ハッとした。今、死の病が進化したという話をするのは不安が深まるのでまずい。自分で言った言葉をすぐに後悔する。


「歩きながら話そうか。せっかくショッピングモールにいるんだし」


 立ち上がり、歩き始める。数歩進んで振り返ると、ルリも立ってついてきてくれた。


 ショッピングモール内にある映画館を目指して進む。あそこに行けば好きな映画を流してあげてきっと楽しませてあげられる。あのデカい画面を2人だけで見られるなんて最高だ。


 ショッピングモール内の店は世界が変わる前と同じで明るいものやシャッターが閉まっている店、荒らされているものもある。エイタはその中から本屋を見つけた。


「本屋には行かなくていい?一冊も持ってきてないよね」


「行かなくていい」


「服はまたあとでいいか……お腹は空いてないよね?」


「空いてない」


「ねえ、無理しなくていいよ……」


 映画館を目前にしたときルリがその場で止まって言った。


「私たちは大丈夫だよ……私たちは絶対に死なない……」

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