第14話 デート

 朝に目が覚めた時からエイタはその気で振舞った。まずは普段起きる時間になっても布団の中から出ずに両手で頭を抱えて体調不良をアピールした。


「おい、エイタ。早く起きろよ」


「エイちゃん。朝だよー」


 布団を畳みながら声をかけてくるショウゴとタイシ。2人は基本的に早起きで、わざと起きなくてもいつもエイタが一番朝に弱かった。


「んー」


「朝飯まであと15分な――」


 その後もエイタは布団の中で頭を抱えたままじっとしていた。


「おい!そろそろ起きろよ!」


 ショウゴに布団を剥がされてもエイタは動かなかった。本当に熱があると思い込んで行動することに徹した。


「……ショウゴ君。俺なんか熱ありそうです」


「は?うそだろ」


「いや……ほんとに今日は頭痛いです」


 目を見て嘘をつく自信がないエイタは目を手で覆ったまま掠れた声で言った。ついでに咳払いもつけて。


「マジで。大丈夫か。なんか昨日の夜も体調悪そうだったもんな」


「すみません。農作業をサボりたい訳じゃないんですけど……」


「お前畑仕事好きだもんな。じゃあ朝はとりあえず寝とくか?」


 ショウゴの反応を伺って、エイタは勝ったと思った。心の中では踊っているが顔に出さないようにしなければいけない。


「……はい。そうさせてください」


「おっけー。ナナミさんにも言っとくわ」


「エイちゃん、マジで体調不良?」


 着替えていたタイシも様子を見に歩いてくる。まだ目を開けていないが、足音が隣まで来た。


「なんか今日はマジっぽいぞ。なんとなく」


「確かになんか顔も赤いし、風邪かなんかですかね……それとも」


「おい!縁起でもない事言うなよ」


「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど」


 今の世界で病気と言えばあれを思い出してしまうのは仕方ない。エイタは重くなった空気を感じ取り少しだけ申し訳なく思った。


「まあ、帰りにまた何か体に良さそうなもん持って帰って来るわ」


「うん。エイちゃんゆっくり寝てなよ」


 最後は元気な声をエイタにかけてショウゴとタイシは遊び部屋から出て行った。ドアが閉まり、足音が離れていく音を聞くとエイタは布団から出て伸びをした。


 昔、学校を仮病で休んだ日のことを思い出す。作戦が成功したときの気分は最高だ。今日はどんな楽しいことが待っているだろうか。



 さらに40分ほど部屋で待機して、おそらく公民館から皆出て行ってしまっただろうと思える時間になったらエイタはルリを迎えに廊下へ出た。すると、ルリは既にルリの部屋のドアの前に立っていて「おはよう」と一言挨拶すればすぐに一緒に外へ出た。


「なんか楽しいね。皆の目を盗んでどっか行くのって」


「本当?俺もすげえ楽しい。ナナミさんはどうだった。すぐに休むの許してくれた?」


「うーん。割と戦ったかな」


「戦った?」


「気合い入れて起きなさいって言われたけど私がぐずって、最後は体温計で体温計られたんだけど、頑張って脇の下熱くしたら37度越えてくれたんだ」


 今日は晴れていないが、暖かく感じるアスファルトの上をビルが多く見える街に向かって歩いた。サボった日というのは何でこうも気分が上がるのだろう。


 余所行き用に見える長袖のワンピースを着ているルリは今日も世界で一番かわいい。


「歩いていくのはちょっと遠いよねショッピングモール」


「そうだね。前にショウゴ君達と行ったときは自転車で行ったかな。自転車で行く?」


「私……自転車乗れない」


「そうなの。じゃあ、どうしよっか。歩いても行けない距離ではないし……でも、午前中の間に帰ってこないといけないから……」


「思ってたよりは外出るのも遅くなっちゃったよね」


 時間は既に9時を過ぎていた。農作業は昼には終わるのでそれまでに帰らないと面倒なことになる。しかし、エイタはいっそ今日で2人の関係を明かしてもいいと思っていた。こうして隠したままでは行動範囲が狭くなるしいずれはバレる。


「とりあえず街のほうまで行って、時間無さそうだったらその辺で遊ぼうか」


「うん。それがいい」


 いい加減な計画をして始まったデート。お金が無くても途中で予定が変わっても、どこに行ってどの建物に入るのも思うがまま。今この広い世界は自分たちのものなのだ。


 しかし、そんな自由なデートをまた黒色が邪魔をした。

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