第11話 再会

「向こうの河川敷のほうでも歩かない?」


 エイタがそう言うとコンビニから出て散歩が始まった。緑が多いほうへ向かって軽い足取りで。手は繋いでいないが手が触れそうな距離感で歩いた。


 やはりルリと一緒にいれば、ほとんどの人がいなくなった寂しい無色の世界がどんどん色付く。世界のあらゆる問題が何もかも青空へ消えてしまったように見えた。気持ち次第で見える風景や考え方は大きく変わるものだ。


「私ここに寄りたい――」


 河川敷へ向かう途中、ルリの希望で脇道にある本屋に立ち寄った。商店街にあるような小さなサイズで、入ればすぐ横にレジがあり本棚も大きなものが5列ほどしかなく、雑誌や漫画の品揃えはかなり悪そうだった。


「いつもどんな本読んでるの?」


「ただの文庫本だよ。読書――好きだから」


 ルリが本棚を見たまま何かを探しながら答える。ルリは公民館の隣の公園にいる時もよく本を読んでいるし、廊下ですれ違う時は白いブックカバーの本を持っていることが多い。本を探すときに邪魔なのか、前髪を分けて耳にかけたルリの横顔にエイタは見とれた。


「ふーん、俺は読書なんてまったくしないな」


「公民館にも図書館があるのは知ってる?私よくそこで本読んでるの」


「知らない。どこにあるの?」


「2階だよ。図書館って言ってもここと同じで小さいけどね――あ、あった」


 ルリが探し物がが見つかり嬉しそうに1冊の本を手に取る。大きな本を持った少年が表紙に描かれている本だった。


「ここにはないと思ってたけどあって良かった」


「すごく隅っこに置いてある本だね。マイナーなの?」


「うーん。どうだろう。私は好きな人がいっぱいると思ってるけど」


「ふーん」


 エイタは読書に全く興味がないので本の内容を聞こうとも思わなかった。


 ルリはついでにブックカバーらしきものをレジの横の棚から取って、本と一緒にビニール袋に入れる。その手際の良さは何度もやっているようで、さながら店員のように見えた。


「じゃあ。行こっか」


 そう言って本を抱くように持ったルリとまた河川敷のほうへ歩き出せば、目的地の河川敷にはすぐに着いた。


 走り出したくなるような心地よい風と光を浴びる両脇に木々が並ぶ散歩道の風景。下には緑と茶色の葉っぱがまばらに落ちていた。サッカーグラウンドがあり、昔何度か練習試合で来たことがある河川敷には綺麗に整備された散歩道があることを知っていたエイタはここを今日のデートのメインに先程決めた。


「ここさ、前から歩いて見たかったんだ」


「良いところだね」


「もうちょっと歩くと面白いというかオシャレな公園があるんだ。そこまで行こう」


 ルリの反応も悪くない。このまま歩いて公園まで行ってルリと2人でベンチに座り、もっと色んな話が聞ければ――。


 しかし、昼下がりの包み込むような陽気の中の楽しい散歩は橋の下に差し掛かった時に終わってしまった……。


 黒色――――


 橋の下には壁に向かって何度か黒色の何かが投げつけられたような形跡があった。そしてそれは紛れもなく、ここで誰かが死の病によって倒れたことによって付いたものであると分かる。


 死ぬときには黒い血だけが残る死の病。この世界に生き残った者達にとってはうんざりするほど見せられた常識だった。


 2人は十秒ほど呆然と立ち尽くす……。我に返ったエイタはルリの顔を覆うように抱きしめた。

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