第4話 2020年9月20日 日常

 週末日曜の午前、これは確かな日常。公共民放放送連の懸命の努力で繋ぐテレビは過去のアーカイブそっちのけで、我が社が正確とばかりに目まぐるしくデスカウンターが空回りして行く。それを見て尚も急性循環不全で救急車で搬送されるも処置がどうしても遅れお亡くなりになると言うのに最低な状況だ。この状況に慣れてゆく視聴者もどうかしてるが、実質無政府状態な現状ではある日いきなり誰かが手助けしてくれるやも知れぬの告知がある為に、テレビはどこかしら付けている状況だ。そう戦争紛争混乱独裁を済し崩しに容認して来た国連に、まさか世界中が一縷の望みを掛けるとは。いや今日は仕事日ではない心を落ち着けたい。


 妻黒川果林は甲斐甲斐しく、毎週日曜の娘の友達等の訪問に応えて昼の食事会の準備中、サフランの香りがやや漂って来るのは果林のパエリアが何よりも好評でついリクエストNo. 1になるからである。そこは自他共に認めざるを得ない、足繁く地元江東区の名店に通ってはコツを貰ってくるので自ら店を開いてもやっていけるのではは素人考えか。そう果林は東海快速新聞の元同僚記者を経てエッセイストに転じたかなりのやり手だ。入社以来江東区住民で江東区とはを悉くを知る果林故のかなりニッチに絞ったエッセイ「江東区オーディナリーライフカタログ」は名店を漏れなく記載している事から発し、戦略的に男子ワールドカップアジア最終予選期前にシーズン発行されスポーツカフェにバーは超満員に至っては江東区を大いに盛り上げている。2005/2009/2013/2017年の更新発行と右肩上がりに売り上げを上げては、ついに東海快速新聞を卒業してエッセイストの仲間入りになった。その恩恵たるは現住居のこの江東区東雲の新築分譲の江東ハイクオリティマンション1101号室の最上階4LDKを深くは知らない果林の印税の入った銀行預金で一括購入。いや買うなら一軒家にしないかも、メンテナンスに気を使うのも何でしょうし気に入らないなら都合二回は売買しても十分懐は暖かいわよの豪気ぷり。俺が東海快速新聞の役職そこそこで後先返り見ず自由に書き殴れるのも、辣腕果林がいればこそだ。そして娘にも恵まれるなんて、俺の若かりし頃に言ってやりたい。仕事に夢中になってないで早く果林と結婚して幸せにすべきだと。


 そして娘黒川双葉は元気だ。顔以外俺の厳つさを引き継ぎモデルスタイルで幼い頃よりダンスに励む。夢はブロードウェイと言い張るも果林にニューヨークにただ行きたいだけでしょう、それだったら勉強しなさいと口酸っぱくがただ微笑ましい。双葉はどうしても勉強嫌いも話を聞ける程の要領が良いのか、皇室指名学校の習養院高校にふわりと合格し果林を歓喜させた。何故習養院かは、まあお友達も習養院に行くって言うしそう言う絆って大人になっても宝だよねと。この熱さは思い起こす度に潤んでしまう。


 俺達家族は日本にただ溢れる幸せな家族であった。どうして過去形になるのは、新型コロノウイルスに唯一対応出来るウルトラワクチンを本当に接種するかの家族会議から発する。俺は懐疑的、果林も懐疑的、双葉は肯定的で意外な票割れとなる。だって人生長いんでしょう私は少しでも長く生きて、いつか完全封鎖から解放されているブロードウェイに立ってみせるよと。双葉の幼い頃の夢に推された俺達は満場一致で黒川家のウルトラワクチンを早期素早く接種する事になった。

 日本中がウルトラワクチンを接種かの逡巡する中、7月22日初接種日からの予約行使日の7月24日に、都内のセントラル病院に指定された病棟が完全分離されている新宿の牛込女子大学病院に家族三人で接種に赴いた。接種会場はさぞ行列かと思いきや時間通りに行列もなく、普通のワクチン接種の様に難なく済ましては帰宅した。

 ただ、その接種日の晩より娘の双葉が高熱を発し左腕が軋むと脂汗を垂らしリビングで倒れた。119と救急車は何故か手慣れたもので、救護員は完全防護では無い簡易医療服で対応し、接種したセントラル病院牛込女子大学病院に直行搬送された。

 対応したのは今も主治医の総合診療科教授楠瀬一樹。俺はこれはどういう事かと恫喝しては、冷静にお聞き下さいこれは増えつつあるウルトラワクチンの副作用ですと宣う。これこそ新型コロノウイルスでは無いかと疑うも、レクチャーではPCR簡易検査キット使おうにもウルトラワクチン接種後では軒並み陽性になるので適切な問診を願いますの事務的な説明に終始されたと、そして肝には命じていたが接種後に副作用でここまで搬送されて来るとは思わず24時間対応に追われているとの事だ。重要なのはこのまま双葉が死ぬかどうかだ。接種日から逆算しての新型コロノウイルスとの判別トリアージに入っているが、左腕が軋むこの状態のままでは各部特に内臓に転移しては死を待つしか有りませんは余りにも無慈悲過ぎた。御子柴総理大臣は確かに宣言した副作用は無いと、それでもこの廊下迄並ぶストレッチャーは何だ、何故マスコミは報道しない、いや何故医師は訴えないのだと声を振り絞った。楠瀬教授は切に訴えた、この接種開始から間も無く新型コロノウイルスが日本全国民が嬉しさに浮かれては第三波が怒涛の様に起こり、日本国民が生き延びるには接種するか接種せずの運良く新型コロノウイルスに感染せずの究極に二択しかないのです、現に第三波では推定新型コロノ感染者を漏れなく全医療機関に搬送しようも受け入れ場所が無く、いやこれまで以上に重症度の高い感染者が増加の一途では、日本に医療従事者が消えて日本国民が全滅します、どうかここをお汲み下さい、御覧の状況下ですからこそこの先もウルトラワクチンに全てを賭けるしかなかったのです。俺は縋った、対応薬は無いのか、どうにか娘双葉を助ける術は無いかと。連絡網で鎮静剤はどれも効かないとのアドバイスです、掛かる医師が副作用臨床例で軋む部位を切断しましたが、それでも転移してしまう臨床例が有り逆に体力回復状態を損なってしまったので、私は双葉さんの左腕の切断は出来ませんと宣告された。衝撃に次ぐ衝撃でそこから俺は慟哭して一切覚えていない。果林は気丈にも楠瀬教授に双葉のお命を預けますと深くお願いし、双葉はそれより三日三晩生理食塩水を点滴され左腕のアイシングを徹底的に施された。その迎えた朝、朝陽が眩しく、熱も炎症も引いた双葉は目覚めた。牛丼食べたい。日本国中のテイクアウトが完全閉店し始めてるなどその時は夢にも思っていなかっただろ。俺は泣いた果林も泣いた、ただその場にいた楠瀬教授と看護師達は爆笑混じりに泣いていたのは御愛嬌だ。

 その後双葉は政府調達の同じ新宿のリハビリテーションホテルに収容された。軋んだ左腕の細胞は高熱で痩せ細り、痺れ痙攣痛みは無いものの満足に動かせずにいたからである。当時のリハビリテーションホテルで担当してもらったのが柴田亜沙美牛込女子大学病院リハビリテーション科婦長自らである。双葉が未だ目を見開いて未だ鬼と言うのはリハビリテーションが想像を絶する過酷さであったからである。収容人数の兼ね合いと、腱が収縮しない様に左腕を折れない程度迄に寝る以外兎に角動かし続けるというリハビリテーションは、もはや決死の命令だったからである。双葉いや人間はあそこまで大汗が出るのだと初めて知った。親とは何も出来ない存在と知ったのも、双葉が生きていればこそなのだろう。


 このリビングで目の前にいるのは過酷な状況で生存出来た紛れもない双葉。友人若草優花ちゃんと一緒にリハビリストレッチに楽しむ様は見る程に痛々しく、搬送された日より左腕にゆっくりと筋肉は付いてきているが、未だに満足に動かせずにいる。ただ痛みと触れる感覚は戻ってきているレアなケースとして、この自宅に態々楠瀬教授と柴田婦長が交互に訪れ経過観察の状況を聞いて得心する。何でも双葉の場合は本当に特別でここ迄回復するのかの速度が速いらしい。他所はどうしてもそのまま自宅ベッドに入って更に全身が衰弱して行くらしい。双葉は恵まれている、先祖伝来の頑丈さを受け継いで良かったとしか日々感謝する以外無いが、柴田婦長がこそっと教えてくれる、主に愛されているからですよ、ただ本人に言わないで下さい、無茶したら左腕砕け散りますからねと。俺が想像でまた気を失うので言える筈も無い。そしてつい言葉に出てしまいそうなのは双葉の先々だ。果林は双葉が自室に戻って寝る頃を見計らって泣き通す、幾つもあった普遍の日常の可能性。俺は禁忌も知り得たあの忌々しい国連本部衛生司政官榊志摩のウルトラワクチンの真実をいつも飲み込む。それでも助かる運とはなんだ。関与第三波のクラスターで東京都の地域の学校丸ごと253校が軒並み消失した悲しみが余りの現実離れで遠くの彼方にあるが、いや実に不謹慎だが双葉の一命はこうして救われた。今の営みこそが正解だ、そして双葉はどうなっても双葉だ、双葉は一言も弱音を言わないがその不意に思い出す悲しみの側にいつもいよう、双葉が死を迎える前に俺達は決して死んではならないと。ただそこで果林のいつもロックのお代わりが入る、何で早く結婚しなかったのと。大変申し訳ございませんが常だ。


 つい油断した途端に、双葉から手にしたタブレットを取り上げられた。

「お父さんはね、テレワークも推敲も日曜日は一切禁止だよ、発売前で内容は決して口は割らないけど、辛気臭いハードカバーとかの書いてたら、家中がどんよりだよ」

「そうそ、おじさん、また筆入れした以外のゲラプリント捨てられたいの、その量4/5なら印刷で満足してるのだよね、そうだね、タブレットでもばきって折っちゃうよ、」

「あっと、そこもだよ、慣れないタブレット持ち歩くから、落として何個買い換えたと思ってるの、膨大なコロノ禍の資料持ち歩けないからって、お母さんについ決済されちゃうけど、この二ヶ月で3個おじゃんははひどいものだよ、全く仕事で浮かれ過ぎだよ、そう言う暇あるなら、お祈りでもしてよ、私に白馬の王子様来るようにね、」

「ああ、白馬のそこは聖書にお願いしない方が良いかな、凄い戦士来ちゃうから、双葉はね、こつこつ見つけなよ」

「それ良いね、ニューヨーク5番街で仲良く手繋いで、グーサインとか」

「双葉は気が速いね、ニューヨーク中は完全閉鎖中、あと5年はリモートが関の山だね、まあそう言う気概なら、午後は振り付けこなさないとね、防護慰問の為の覚える振り、余波の傾向無しでどんどん増えて行ってるからね、」

「優花、了解です」

 双葉の右腕と優花の右腕で肘ファイブタッチが確かに。


 原稿と資料が入ったタブレットも取り上げられた俺だが、今度刊行される初著作「弔い」が只々気が気で無い、今も思いは巡る

 俺が憤りの筆致そのままの東海快速新聞の記事は、刷る程に膨大なものとなっていった。東京都及び都市圏の現地と警戒区域を含めた取材記事は関与第三波の悲劇を深く知る歴史的資料として、一部の識者の評判と東海快速新聞役員会の判断で出版を命ずるに至った。しかし断った、まだ何も終わっていないと。ここでいつも宥めに入るのが、フットワークの軽すぎる東海快速新聞主筆今川毅次郎だ。創業者一族も現場叩き上げに放り込まれた為全社員に細心の注意を払っている。鉄平君、この状況で気持ちが定まらないのが分かる、しかし人口激減で各新聞社の経営の先行きが非常に暗い、ここで確実に版数を重ねられるドキュメンタリーは必要なのだよ、納得がいかない出来になるのは承知している、それならば連作しても構わない、私が何としても押し通すからまずは初作を書き上げてくれと。今川主筆には今までの小競り合いの仲立ちの義理もある、何より東海快速新聞いや新聞及び出版業界の見通しが暗いとなると、社員を路頭に迷わせる事は出来ない。締め切りは思いの外ゆったり設けられた以上改めて奮起する以外無い。

 東海快速新聞から下った命は、ハードカバー発売日10月15日木曜日に電子書籍10月16日金曜日の厳守発売のみ。主文厳命もページ数指定も無い事から、俺への期待そのものだと受け取った。構成は同僚且つ上司比留間善幸デスクと相談し決まった。


 初著作のタイトルはこれ以外無かった俺の推した「弔い」。構成は小見出しもつけつつ各章に。


 第1章 発端

 第2章 ウルトラワクチン

 第3章 緊急事態宣言全分類

 第4章 弔い

 第5章 愛


 事の成り行きの半分を知る比留間デスクは、俺に全権委任してくれた。ただ監修してくれる博士連はこの関与第三波の御時世だから兼任で忙しく社内の記者の伝手を辿っても難しいだろうと。そこは日常の記事執筆より覚悟していたので、俺は禁断の手を使うつもりだ。ただ比留間デスクには改めて知り合いを頼ってみるので心配するなと表面笑顔で返しておいた。そして第5章の愛とは何かになるが、双葉の事情を知っている比留間デスクは号泣しながらも、分かってる言うなで空白のプロット部でも受理してくれた。俺の泣かせる文章など数えるしか無いが非常に有難い。


 そして「弔い」に名を連ねてくれる監修の御歴々だが、俺は真っ先に隔離区域御台場の国連トラディショナルセンターの国連本部衛生司政官榊志摩へと怒鳴り込んだ。

 榊衛生司政官はにべもなく言い放つ。出版のお噂は予々、私を頼って正解ですよ、お互い命が狙われない程度に手を携えましょうかの挙党一致は成立した。榊衛生司政官の指名したのは二人。そんなまさだろうの国連本部衛生司政官榊志摩本人と、まさかの死に体政権官房長官竹中頑鉄。確かにこの二人で事は成す。だが俺は申し入れした、双葉の主治医牛込女子大学病院総合診療科教授楠瀬一樹の先見性は外せないと。榊衛生司政官はこくりと頷き、保健学会の確かな新鋭ですが少々手順が入りますで、その場で携帯電話を取り上げ口頭辞令を発した。楠瀬教授を国連地域限定感染観察指定医に任命しほぼ徴用に近い兼任を行なった。俺は当然訝しむが、国連地域限定感染観察指定医の地位はWHOへの訓告も行えるので第一人者には持って来いでしょうとこともなげに言う。楠瀬教授の担当は総合診療科教授だぞ感染症は流石にだろう詰め寄るも、新型コロノウイルス感染症正式名COVID-219のそもそもはお分かりでしょう、臨床医の直感が無いとどう変異するか分かったものじゃ無いでしょう、鉄平さんが見込むなら喜んで私達の御味方にしますよと。こいつはと歯噛みするが、世界脅威に対応するなら手段を選ばないのが、この女榊志摩なのだと拳を何度も握りしめた。


 榊志摩の豪腕振りで、知り得なかった事実と新たな気づきで「弔い」は恐るべきドキュメンタリーに変貌していった。俺は興奮と悩ましさで筆が幾重に進み、出来上がりはかなり分厚いハードカバーの出来上がりになる予定だ。価格調整は役員会とグループ会社の東海文庫で上限無しに至った。当然だろ、国連隠密裏の特別秘密はマスキングをしているが、作業は大詰め90%の特筆内容で世界が驚愕するのは間違い無い。感想は比留間デスクがぶるいながらの、これは予言書なのかが妥当な線だろ。

 上梓「弔い」の為に遮二無二に監修してくれた内閣官房長官竹中頑鉄・牛込女子大学病院総合診療科教授楠瀬一樹・国連本部衛生司政官榊志摩の三人には、経緯はあれど深い感謝しかない。今目を閉じながらも、ここ一ヶ月の思いが駆け巡って行く。


 内閣官房長官竹中頑鉄。岐阜県選出で祖先は軍師竹中半兵衛ともなればどうしても一目置かれ見合った人物として大いに育つ。そして懇意の幹事長と官房長官時代から幾度も発揮されて来た辣腕はまたも生かされた。関与第三波で頓死した愉快な御子柴大綱総理大臣の後処理全てを引き継ぎ、2020年8月7日に苦渋の判断で日本政府政務不履行宣言を自ら発した。詰まる所デフォルトと呼ばれがちになるが、政府予算は惜しみなく地方各自治体に投下され都市圏の激震地以外は今も一般生活を営んでいる。掲示板とSNSでは何かと竹中官房長官を責める声が絶えないが、そこは毅然と対応しては国会議員及び丸の内官僚の実に2/3が死んだ無政府政権の次の展望を見据えている。

 相談は不気味に静まり返る総理官邸で都度進む。コロノ禍に対応した過程動向表が大会議室一面に大きく広げられ、その都度の特筆コメントが各色ペンで注釈されては見る程に埋まって行く。

 竹中官房長官は俺から遅れて榊衛生司政官より国連の思惑を除けた事の成り行きを聞いていた。何か出来たかの悔恨など一切なく、鋭利な現実主義者はただ前へと進む。現無政府政権に説明をすべき義務はあるだろうが、日本国民が1254万人迄死なれては告白したところで賠償問題が数限りなく上がるのは目に見えている。ただその問題も司法の世界も多くの司法関係者が死亡した為、非接触の一審書面判決で淡々と判決の責務が果たされている。この無政府状態で賠償問題しようにも、放り込まれる多くの事例から被疑者不在で不起訴になるのが関の山なのだが、今もその時間の余裕があるのはただ呆れるしかない。

 2月の第一波・5月の第二波・7月の関与第三波を経て、その時の日本国政府を竹中官房長官より確かに聞いた。日本国民は全体主義を否定するのに、運用金欲しさにベーシックインカムを求める状況は矛盾している、それならば与党いや野党さえも飲んだ感染者追跡の為の日本国民総監視法案を国会で押し通すべきでしたが、退かざる得なかったのは最左派令文新聞のスクープ内諾打診でした、何処から漏れたが分かりませんが群遊の野党ではと伺い知れますと。この時点で日本国は保身で滅びる国の仲間入りしたのである、非常に愚直であったと。竹中官房長官は悩ましげに語る、ただ主軸になるべき個人端末の単独数が8900万人余りでは片手落ちになるので、法案取り下げは妥当の声でしたが、私はそれでも感染者を低減出来た筈と誓って言えます、日本国はこうして今日も何度も形を変えて来ました、それも日本国民の生命を守る為であり止むに止む得なかった歴史事実なのです、現在無政府状態となっていますが全日本国民の信頼を再び得られる様に精進しています、黒川さんに協力を依頼されているのに忍びないのですが、この政府を窮状を包み隠さず報道して貰えれば国会議事堂関係者の励みになりますともと。そう総監視を肯定するかの声もあろうが、世界中の人々がインターネットにひたすら繋がろうとしているのであれば、幾ばくかでも統制社会を受け入れざる得ないのだが、日本国及び世界はそれを矛盾すら思おうとしないのは、滅びの道をひた進むしか無かったのは道理でもある。

 竹中官房長官の展望としては幾つも聞いたが、現在日本国再生事務局長として動いており日本国としての再建を願っていると。その一つが現在の各自治体からの有力議会議員の招集であり、国会議員選出の選挙資金もままならない今状況ならば、どうにか説得納得してでも国会議事堂に何としてでも駆けつけて貰う所存との大望である。暫定政府となる生き残った1/3の国会議員に、駆け付けて来た議会議員の気勢で国会議事堂は徐々にだがきっと活況を呈し始めるだろう。日本は確かに再生への道を歩み始めている。


 牛込女子大学病院総合診療科教授及び国連地域限定感染観察指定医楠瀬一樹。牛込女子大学病院は女子大付属の大学病院の為の、生え抜きの軽薄な風雪義塾大学病院よりの歴任となる。各医学の造詣から風雪義塾大学病院に戻って来てくれのラブコールもあるらしいがそこは牛込女子大学病院の居心地の良さから断っているらしい。まあ美丈夫そのままもマイペースの楠瀬教授を誰もが放っておけないだろう、ぶっちゃけそういう事だが本人に自覚は全く無い。そして双葉の未だ主治医も、榊衛生司政官による国連地域限定感染観察指定医に指定された為、頻繁に飛び交う新型コロノウイルス全論文を判読する為外来をははずれ、現在は検証の為の往診のみになるらしい。また榊衛生司政官より国連の思惑を除けた以外の仔細を知る為実質日本国での新型コロノウイルス感染症の大権威者ともなる。因みに竹中官房長官の談話によると、関与第三波で飛び抜けて多くの命を救った為、医師会に推挙されては11月の叙勲の候補者に選定中らしい、日本国は体をなしていないが極めて理性的な評価かと思う。

 双葉も対象者だが、楠瀬教授の往診は極めて朗らかで、普段の生活に変わりないから週一通学の学校とオンライン授業の退屈さも、そうそうと一回り年上の兄の様に接し毎度花が咲く。俺が楠瀬教授の次の往診予約の気を使って腕時計をポンポン叩くがお構いなしは、流石は女性の花園牛込女子大学病院での日常業務があればこそか。往診は一週間に二名による二度体制。柴田婦長の往診及びリハビリテーションに、楠瀬教授は往診と検体採集となる。これには重要な意味がある。

 往診と共に監修に応じてくれた楠瀬教授は家族ぐるみの付き合いになるが、俺との相談はほぼほぼ唯一の些細な趣味である真っ赤なスポーツカーホンダS660フルカスタムでの次への往診を兼ねたドライブ中でのやりとりになる。盗み聞きを恐れたそれでは無いが、半ば廃都と化した東京都内をドライブしては、俺達チームの重さを思い知る為だ。どうしても通いがちになるのは完全封鎖された立入禁止板橋区外周、急ごしらえの鋭利な鉄線群に危険物標識が隈なく配備されたそれは世界史に残すべきであろう。それはウルトラワクチン接種日程発表で仲村駿也板橋区長が、そんな迅速認可されたワクチンなど信じられない、それに重症度の割合が低いから板橋区は様子を見てからの接種会場設営にします、決してパニックなってはいけませんよと。この日頃の能天気政務から、板橋全区民は正常バイアスに陥り、関与第三波でクラスターの渦に落とし込まれての関与第三波早期にほぼ全区民58万人が息絶えた。何か出来ただろうはその状態で防疫の為のウルトラワクチンを投入しても医療従事者を巻き込むだけで、まだ体をなしていた日本国政府は警察消防を投入し新型コロノ広大拡散防止の為に正当防衛付きの警備に付かせたがそれはもはやだった。新型コロノウイルスの濃度は究極に達し境界線に跨いだ住民は皆無だったからである。警備全員が目を腫らしながら職務に就いたらしいがそこは信じる以外ないだろう。指導者の怠慢で死ぬ、そんな悲劇を再び起こさない自戒で、全遺体は隔離区域御台場に丁重に送られても楠瀬教授と俺はついこの外周を駆け抜ける。

 車内での話題の多くはハイゲストワクチンの進捗だ。

 縋るしかないウルトラワクチンと新型コロノウイルスは、その抗体でやや相殺し、現状では警戒しつつのコロノ禍以前の日常の通常会話に迄戻っている。改めて関与第三波とは、新型コロノウイルスとウルトラワクチン薬害で死傷に至った線引き判定出来ない故に関与が付くことになった。言える事は新型コロノウイルスの進化特性を上手く抜いたウルトラワクチンの特性上、この瞬間も指数関数的にその宿った身体に新たな抗体を構築し続ける。ただ薬害は付きまとうが、新型コロノウイルスを排除する為に猛然とウルトラワクチンが滅殺に入るのでどうしても飲まざる得ない。中には双葉の様に燃焼過多になり身体に障りを持つことになる。この掛かる困難の中で、早々に研究に邁進する楠瀬教授がある発見をした、共に双葉の様に生存し障りのある青年の定期往診と検体採集した細胞に見られたある特徴、体組織細胞にある筈のない強膜が展開していると。幾つも検証の結果、ウルトラワクチンから派生した防護壁では無いかの結論に落ち着いたらしい。新たな希望ではないかと柄にも無く俺は舞い上がった。確かに強膜の成分を分離し培養し続ければ新たなワクチンになる筈ですが、体組織の構成上問題無いも、そのウルトラワクチンそのものの高品質と齟齬を発生するやもしれませんと振り出しに戻る。折角の発見活用が勿体無いではありませんかも、ただ活路は有ります、強膜は日々減衰しており短期活動型を見つけて培養及び精製出来れば、かかる第四波予測の際に併用し防疫は完璧に近づくかもしれません、それならばウルトラワクチンとの進化を緩めず齟齬も生まれ難い筈です、強膜由来は通称ハイゲストワクチンですと楠瀬教授は言う。俺は高鳴りを消せなかったが楠瀬教授は心冷静に続ける。ハイゲストワクチンはあくまで希望を待つ新ワクチンで有り、基盤となる強膜は三ヶ月間の減衰が望ましいので、自然治験中の31人中でも傾向の強い12人の少年少女らに希望を託すしか有りません、その中には実は双葉さんがいるのですよ、主は度し難い試練を与えますがそれ以上に福音をもたらします、私は願っています、ハイゲストワクチンの誕生とその後に必ず訪れる双葉さんの左腕の回復をと。

 何をほざくと言われるかもしれないが、双葉が生まれた時俺は天使に間違いないと涙ながらにこぼした、その後も天真爛漫に育った天使は現世で何か施すのであろうと。そしてそれは先々に体現される、主は確かにいらっしゃって大いなる確信を知らしめるであろうと。俺は十字を切ってはきつくきつく両手を組んだ。


 そして最後の三人目は語るもうんざりな国連本部衛生司政官榊志摩が巡るのだが、しでかすのが奴の性分なのだろうか。そもそもこの「弔い」が発刊されるかどうかの際どい成り立ちを見事にお膳立てしてくれましたと、やや丁寧に言っておく。

「弔い」のあるであろうの横槍を全て挫いた、2020年9月1日日本時間23時45分プノンペン21時45分にクリフハンガー作戦は発動された。俺と果林はいつもの晩酌でもうお開きかの時に、榊衛生司政官からの電話がこの携帯から出る音なのかばかりにけたましく鳴った。決定的瞬間を見せるわよから、サイトの長いURLと18桁のIDと24桁のパスワードを酔っ払いながらも何とか開いた。そのメイン画面と分割五点画面には、どこかしらの軍隊が怒号激しく見た目豪邸も武装屋敷に突入し隈なくしばき倒していた。俺にUSAのゲリラ掃討戦見せてどうするも榊衛生司政官は事務的に、この一個小隊は国連特殊東南アジア監視団で破綻警報地域カンボジアの首都プノンペンで曹端人事若松憲司の捕縛の始終よと。俺はプノンペンの華僑をまさか令状なしで突入してないだろうと声を荒げるも、曹端人事若松憲司は新型コロノウイルスを作成した早々に感染で死んだ筈の主幹研究員よ、そんな輩に令状無くてもどこの誰かがいちゃもんつけてくるかしらと。俺は一気に酔いがさめた。モニターの向こうの宴の真っ最中の極悪犯罪人は直ちに捕縛され、手にした拳銃と腰のナイフは勿論身包みはがされタンクトップとブリーフのぼったくりバーに放り出されたサラリーマンのそれになっていた。公用語英語が飛び交う中オフィス機器が少な過ぎるで、榊衛生司政官の遠隔指示の声も響きIoT家電も残らず回収してと瞬く間に展開して行く。そこからは怒濤だ、世界中の引越し屋が真似しようも出来ないスピードでPCと全書類と中身を一瞬で放り出されたIoT家電が豪邸の庭へと集められ、一個小隊の51名の面々が次々と降り立つUH-60ブラックホーク兵員輸送へりに証拠物件を手際よく詰め込んでいった。そうして荒事の作戦開始から15分も経たずにUH-60ブラックホーク7機は飛び立っていった。

 俺は、だからこれは何だと榊衛生司政官に食って掛かる。榊衛生司政官曰く極悪人若松憲司は中国政府の計らいで書類上死亡となり整形手術も施され中国人華僑曹端人として新たな戸籍を経たのよ、何故かはコロノ禍に至る遠因も何れ露見し、彼の国が免責を逃れる為と変えがたい何かの施策が動いている筈故の戸籍変更のそれではないかしらと。当然いつから知っていたかの言及になる。榊衛生司政官はおくびもなく、隔離区域御台場の国連トラディショナルセンターでの世界中の報道映像と報道写真のサムネール中にチェッカーAIが一次網膜一致の警告を発し、ここ二週間前の内定に入ったのだけど、ここは私が最初から仕組んだは無しよ、まあ信じないなら同じオフィスの小石川ハリソン国連事務検疫官に聞いて見なさいよ、私より熱血記者黒川鉄平の肩を持つからそこは信じてねと。

 後日、国連トラディショナルセンターの榊衛生司政官の執務室で小石川ハリソン国連事務検疫官とビデオ通話で話す機会が出来た。榊衛生司政官の説明通りクリフハンガー作戦に向けては最近の内定であり、中国国連大使サイドに漏れる前に私もプノンペンに内定に入りました、榊衛生司政官はあの通りの方ですが各国の内情に忖度する方では無いと。信じ難い内容だが石川ハリソン国連事務検疫官のその肌の激しい日焼け具合の実直性から、上司榊衛生司政官は謹んで信じるしかなかった。

 そして曹端人事若松憲司が、全てを吐いた事を七日後に榊衛生司政官に呼び出され聞いた。まあ弁護人を呼ぼうにも南シナ海から太平洋に抜けた第七艦隊旗艦空母母艦ロナルド・レーガンの取調室にどの弁護士も乗り込める訳も無い。モニターに映し出される自供のダイジェスト映像は、最初は同情するも怒りに震える事もなる。

 きつい取り調べは進む。関連文書は既に七年に及ぶも仕入れは各国の華僑同士の仕入れで実際に物資が動いた形跡は無く、プリントアウトの年代測定もごく最近に印刷されたもので信憑性すら無いと。またPC及び電子機器及びIoT家電は残らず分解し物理ハッキングしたが、残らず特定のバックドアはあるものの中国政府と直接やり取りした形跡は無いものの、監視カメラのハードディスクから意図的削除された箇所をサルベージしたら中国大使館の協力職員が往来しており口頭伝達した可能性大と。曹端人事若松憲司は意気揚々と薄い訛りの広東語で返すもしらばっくれる、俺も成り上がりで引き継いだから与り知らない書類等の出鱈目なんて言われても困る、何より買い叩いたこんなちんけな商会の経営状態ではこのままでは蓄財も底をつくから母国中国大使館職員に相談して当然だろうとほざく。国連特殊東南アジア監視団の仏の顔はそこまだった人権無視のさも拷問が始まる。いきなり曹端人事若松憲司を全身拘束してはロナルド・レーガン内のMRIに放り込み全身映像を丁寧に撮った。推定万能殺鼠剤を作り上げた化学者が手元に何も置かない筈も無いとの事で隈なく調べ上げた。その形跡は出てきた。体内に埋め込んだ4つマイクロカプセルチップは、右手甲は認証IDで必要に応じて引き出せる人物が5つ、左手甲は鍵付きのアーカイブデータで勿論5秒で突破しては万能殺鼠剤の一部始終が網羅されていた、ここで完全にグレーになった、グレーは知らない内に施工されたの虚言のそれだからだ。そして残りの右鎖骨と左鎖骨にある空のカプセルが不明だった。だが榊衛生司政官の遠隔指示が飛んだ、それは新たな万能殺鼠剤が入った真空カプセルだから気を付けてと抜群の感で空気が固まった。次に曹端人が運ばれたのは艦内手術室だった。完全防護の医師と看護師と立会人が口上を述べる。マイクロカプセルチップを取り出すが万が一の接点爆発を回避して恐らく五体を悉く切り刻む事になるがここは飲んでくれと。曹端人は悲鳴と共に全身強張ってそのまま垂れ流し失神した。ごつい仕置人が当然張り手を二度三度喰らわして強引に叩き起こす。接点爆発は無いなの確認後、曹端人は激しく首を縦に振って同意した後麻酔マスクを取り付けられて、無事に4つマイクロカプセルチップは取り出された。

 簡易手術後の曹端人事若松憲司の取り調べは憔悴しながらも全部を吐いた。この世界上に逃げ場が無い事に気付くのが遅過ぎる。エリート主幹研究員若松憲司の一字一句はただ俯くところだが、俺は怒りに震えた。若松憲司は頼りなくつい日本語で語る、己の才能活かすには日本国のどの研究所に有りもしなかった、日本の土壌は既に化学剤で覆われ新たな駆除剤など必要もなかった、それ見透かされた中国本土のエージェントから、より安全で大陸繁栄出来る駆除剤を開発してくれないかの手厚い接待で心も体も中国大陸に挑んだ、各地の国立研究所を転任しその土地の駆除剤を開発した中で、満を持して生成されたのが万能殺鼠剤だった、その効果たるや小投資で弱毒性を発しても食物連鎖の頂点迄駆除出来る理想の駆除剤で大陸繁栄を約束出来るものだった、しかし臨床レポートが上がる度に感染力が指数関数的に上がる為に止む得ず開発と生成は中止した、ただ一つの過ちはその弱毒性故に研究員が安心して、検体をぞんざいに扱った事から悲劇は起こった、日々研究員が謎の発熱と咳を起こしパンデミック発症を上層部に訴えたもの弱毒性故に現場で任されたままになった、そしてご存知の世界への拡散、しかも同一生物で変異が起きるなどと理論値では有り得ない事だった、これは事故なんだよ、と叫ぶと同時に若松憲司は壁に吹き飛ばされる。それではそれではあの二つの真空カプセルは何だになる。青あざだらけ若松憲司は我を得たりと、それはアジアとアフリカで農作物を食い散らかす新型の万能バッタ駆除剤だ、効能は上限と下限ををバッタに設定して獰猛群体そのものを壊滅させる。構造式を理解した上でアジア型とアフリカ型を用意した、人体へ本当に害が無いかこのカプセルを潰しどう拡散するか、破綻警報地域カンボジアとフィリピンで試すところだった、万能殺鼠剤の二の舞いは決して踏まないと。ドヤ顔になったところでまたも若松憲司は壁に吹き飛ばされる。最後に榊衛生司政官の遠隔諮問が入る、死んだバッタが地に帰るとしたら世界の大地の土壌はどうなるのかしら。若松憲司は無邪気さをそのままに、実にいい質問です恐らく害が無いでしょうが、私を一刻も早く中国に戻してフィルドワークに出ないといけないさあ早く、で映像はばっさり途切れた。俺は敢えて聞いた、おい殺したの結末かは。榊衛生司政官はほざく、歯が欠けても会話は出来るでしょう紛争地域渡り歩いていたらざらの手当てよ。俺はただ呆れ果てる。

 榊衛生司政官でもこの取り調べ映像で虫酸が走るのかは具だ。これで確定万能殺鼠剤の証拠が揃った以上、黒川さんの「弔い」は横槍入る事なく無事に発刊出来ますよ、頑張ったハリソンにはサイン献本お願いしますねと。そういう私事を最後には結局やんわり言うのか、こいつ若松憲司をどう告発するんだに関しては。榊衛生司政官がまじまじと大きな瞳で見つめながら、国際司法裁判所に良く調べてから移送して9月下旬には調整して審理にも入れる筈よ、ただきっと一日本人研究者として純粋に可哀想振りの発生国に見放されるでしょうし、経緯を度外視されて賠償を日本国に求められるのは癪だから、審理の流れは国際取扱危険物感染処理法の遵守になるでしょうと。俺は言い放つ、この地隔離区域御台場に深く眠る全御遺体に報告出来る事なのかも素早く返された。ここに至る世界の歴史で手厚く埋葬された遺体のほぼは国連の行政手腕があればこそ、ここは統率を乱さない様にしましょう、そしてこれは常任理事国のお歴々に忖度してる訳では無いので悪しからずと悪びれずも言い終える。在り来たりの常識人であれば理解する以外ないが、俺は膨れっ面で返しておくも奴は爆笑して宣う。何そのチャーミング。その後はある事ある事で堰を切っては毎度の深い疲労感で終える事になる。くれぐれも言っておくがこいつ榊衛生司政官とは決して仲良しでは無い、愛犬ワッツに牛の爪をお土産を持参してもだ、この先もだ。


 限定の人物に向っ腹立つも、常々思っていたのだが、俺は周囲の人間に恵まれているのでは無いかと。そんな思いが交錯しながらまたしても瞳が潤む。不意にチャイムがなっては照れ隠しに俺が玄関へと向かう。扉を開いた先には、髪を無造作に伸ばした同じ長身の見知る程の男。俺の東海快速新聞のキャップそこそこの地位で強引に引っ張ってしまった、東海快速新聞の協力社員報道カメラマン春山龍一である。


「鉄平さん、ちょっと早いですよね、でも今日は双葉ちゃんがボランティア披露会のスチールの打ち合わせしたいとの事で、前倒しにしました、ついでにお昼もお邪魔して良いですよね、」


 俺は毎度になるが大歓待のままに中へと促す。お邪魔も何も寄り道が多くて昼も書き込んでくるから俺が二人前食べる羽目になるんだよと、わちゃわちゃしながらも、リビングは龍一を見るややや黄色い悲鳴が可愛く上がる。

 見たまま優男いや後家殺しのそれなのだが、こいつ春山龍一はそんな玉じゃない。中東周辺におけるフリーカメラマンを長らく歴任している強者だ。フリーカメラマンで長らく生業を立ててると言う事は相当な鉄火場を渡り歩いてで報酬を得ている事になる。2018年春、そんな春山龍一が在アフガニスタン日本国大使館の大使と大揉めしてパスポートを取り上げられては日本に強制送還するとあって、各マスコミで争奪戦が勃発した。上限は都内マンション借り上げ実質契約金のそれ、えぐい所はさる新興のお嬢さんとの婚約の内諾が進んだとか。しかし龍一は東海快速新聞を何故か選んで、今も職務に励んでいる。龍一は朗らかに語る、そこは今川主筆の懇談でグループ所有の9つの福利厚生施設のペンションの紹介映像見たら絵になる訳ですよ、そう言う景観フレームを抜き得るのも俺の財産かなって、磐田ムーディアスペンション最高ですよね。お前は東海快速新聞何十年来の社員だよ、磐田の日差しの柔らかさは家族持ちになって気付くなんてなんだが、春日龍一の瞬きは本物のそれだ。

 そして春山龍一の東海快速新聞帰属を聞きつけてもっぱらポートフォリオの数枚目的に龍一を指名して来る御仁は数多いたが気分次第とそっぽ向かれると、有象無象らは戦略を変えて東海快速新聞来社に持ち込んだ。まあ撮って貰ったのは数人だがそれは長い期間を経てブレイクになる。それは龍一の鮮やかに抜かれた青写真の相貌になる為にだ。龍一にどう狙って撮れるのかも、さあ人生って肩が24度位下がった方が自然な笑顔になるんじゃないですか、その過程含めての生業カメラマンではないですかねと高説を貰う。お前は何度死線を潜ってるは決して言わない、それを数えると人間は走ってしまうのが性だからだ、龍一は協力社員でも定年迎える迄このままでいろと常にその眼差しだ、それで通じる合えるのが俺達の朋友故だ。

 しかし俺は関与第三波の取材に龍一を巻き込んでしまった。その凄惨を超えた黙示録の風景に龍一の瞳の奥を悲しみで曇らせないか、俺は事あるごとに励ますが龍一は気遣い無用で死臭の燻る関東圏を一緒に同行してくれた。一端のカメラマンなら只管そのミイラ化して行く写真でさもスクープ写真あれで抜くだろうが、龍一の俯瞰絡めた写真は俺の生原稿3枚分の輪郭をきっちり描き、俺はその分筆を進める事が出来た。「弔い」の全写真は歴史的カメラマン春山龍一の全てが垣間見える。当然歴史的写真を世に残すために龍一に出版オファーは行った。ただ龍一は、全体構成は黒川キャップしか分かりませんからただの報道写真の羅列では凡作の評判で終わりますと、そこで話は一切途切れた。


 龍一は優花ちゃんの差し入れた実家老舗和菓子店草活のわらび餅をますます啄ばむも、双葉と優花ちゃんに手を引かれてはリビングダンスエリアの目張り迄招かれる。


「ねえねえ龍一さん、本番衣装は午後のリモート練習で着るけど、踊りはそのままだから、シャッタースピードを確認してね」

「ああ、それと私達に何ら気兼ねしなく良いからね、ウルトラワクチンの青年の後遺症はまま見るから、お願いだから慣れてよね」

「優花ちゃん、いや双葉ちゃんもか、俺の眼差しは戦場カメラマンの職業由来だよ、未だ戦場になる中東の彼の地は、軒並み爆撃で四肢は吹き飛ぶし、地雷のそれで義足になるのは、押し並べてどの年齢層もだよ、だけど俺だって人間、若い子のその未来を考えると戦争の愚かさをどうしても伝えなくちゃいけない、その気負いがこのコロノ禍で被るのは許してくれないか、」

「いや、許さんよ龍一さん、私は私、この左腕がどうであろうと、且つコロノ禍であろうと、変わらない夢も叶えたいし、どんな未来でもきっちり生き抜くよ、そう言う希望って一人でも多い方が世界は変わって行くんでしょう、だから切ない目で見ないでね、」

「そうそう、それをダンスで表現するのが私達、凄いと思うでしょう、ねえ、」

 龍一、親指で涙を拭っては朗らかに

「そうだね、君達にはそれを伝える責務がある、それが重いなら俺達がきっちり支える、」デジタル一眼を徐に構える

 双葉が得心しては朗らかにも

「ハイ、セシル、Michael JacksonのHeal The Worldの三回リピートお願い」


 双葉のトークでスマートスピーカーからMichael JacksonのHeal The Worldのイントロが流れる。双葉は右手に黄色いロングスカーフ、優花ちゃんは左手に黄色いロングスカーフを持ち、その空いた手同士は双葉の融通の効かない手をさも自然に掲げ晴れやかな演舞へと繋がる。垣間見える全体フォーメーションはきっと他にも障りのある少女達を伺い優しく支えたものだろう。油断すると二人の自然優雅なダンスに見えるが、双葉には障りがある。それを隠そうとではなくこの先も手を添えて行く様にのそれは、俺は瞳が潤みすぎて何も見えなくなる。俺は涙も何もかも必死に拭いどの瞬間も胸に刻みつけたい。この深い心愛の繋がりこそが、この終末の入り口に立つ世界を癒して行く。俺は確信せずいられない、このコロノ禍はきっと乗り越えられる、それは真摯に向き合った人間達から発し全世界に伝搬する筈だ。双葉、いや優花ちゃん、いや世界の全ての子らよ、愛を有り難う、俺達はまた今日も生きる希望をこの胸でしかと受け止める。

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