第7話 2021年4月4日 世界席巻

 状況は逼迫している。世界は心の奥底で望んでいたかの様に、いきなりの終幕を迎える、そう為す術もなくに。終末とは思いの外静かに終えるものらしい。それは一人一人が失落した故に、もう希望さえ見出せないが故だろう。その気持ちは痛烈な程分かる。

 まさか、病症の合併癖の強い新型コロノウイルス感染症が、あの誰もが知るインフルエンザ複数種と合併し、もう取り止めの無い世界規模での第四波が巻き起こっているからである。それを回避する手段は現時点では全く無い。ウルトラワクチンの接種は順調に進み各国押し並べて95%の±3%を推移しているに関わらず、熱病の果てに死に至る。

 そう俺達に出来る事は、只管安静と、国連会議で合致した、全世界のロックダウン2ヶ月の正式名称:世界完全封鎖の遵守だけだった。


 現在この日本国は非常事態のままに、暫定内閣で体面を取り持っている。しかし歴史上初めての世界完全封鎖の施行に及び、責任の所在が曖昧になっては、日本国の信頼は更に失墜するであろうと、国連から丁重な提案を受けて、新生内閣発足の運びになった。

 新生内閣の席次指名は、暫定内閣府主席参事上原讃徒の一存と人事院の補助で、正に現時点でのオールスター戦になった。

 とは言え、一般のマスコミはどうしても首都圏の情報しか入って来ないので、軒並み耳に入る内閣の人選には首を傾げるばかりで、勝手知ったるベテラン記者のレクチャーで漸く得心に至った。だが、これが田圃のぬかるみの先の光明を見つけるべく延々と進むとは、誰一人としていなかったのが二日前の事だ。


 本日2021年4月4日日曜日18時47分。

 総理官邸における新生内閣各担当大臣の会見は、傍目には延々も。昨日の最冒頭での、納得の行くまで会見を是非共行ないますので、必ずや最後迄お付き合い下さいから発し、陸上自衛隊検疫官主査を一旦公務停止し新官房長官に就任した辻本伊織女史の勇ましさだ。

 この言及に従った、SNS記者は軒並み初日、いや持って二日目の午前で気絶した。それは至極当たり前だ。睡眠時間無しの休憩時間はあって30分だから、過労でぶっ倒れるのは勿論になる。

 ただ俺達一般紙一同は、この白熱の成り行きから顔を見合わせ、かなりの持久戦と目配せをしては共闘し、新大臣を見知ったる記者に一任してはロビーで只管仮眠を貪った。当たり前だ、俺達は世の中の評判としては抜群の外連味のある若き総理大臣伊達一巡を温かくも厳しい視線で問い正さねばならないので、歯を食いしばっても完走せねばならないのだから。


 現在やっと次が最後の伊達総理会見とあり、束の間の休憩は自ら鞭打つ様に奮起している。と言うべきか、差し入れのエントランスの出店が評判過ぎて最後の食に有り付くべく殺到している。おにぎり・パン・珈琲の出店は有り難くもかきこんだ、どれも名店ガイドに乗ってもおかしくは無い。

 そんな光景を尻目に、一般紙朋友等は、丸ちゃん事丸富勇市は出店に張り付きだが、俺に、サギー事鷺崎一路に、コレさん事是方寿郎は、この第四波の惨劇とは何かを擦り合わせた。

 世界的権威の陽明寺亘流行病理学博士は第四波発生からの短期間で、その危険性を大いに知らしめた。新型コロノウイルス感染症正式名COVID-219の殺鼠剤効用は余りにも抜群で、全生物の耐用免疫の進化と見るやあっさり乗り越え、意志あるごとく死滅を導く、どうしても拭いきれない進化の化学式を備えているとの事。それは日々ウルトラワクチンも進化しているので一過性のものではの一般論は陽明寺亘流行博士に軽く払拭された。ウルトラワクチンは耐性を身に付けるもので、新型コロノウイルスを滅菌するものでは無いと。新型コロノウイルスのその強靭さは何を最終目的とするかは、禍根を乗り越えた新種生物による新たなコロニー繁殖の思想に相違ないと。たかが抜群の殺鼠剤効用がそこ迄に、生物体系に塁を及ぼすかになるが、そこは流行範囲がもはや尋常ではない事によって既に証明されている。

 第四波の発端は、フランスで瞬く間に炸裂し拡散した。これは界隈トピックを検証した結果だが、港湾都市ル・アーヴルで感染率の強い初期通称インフルエンザタイプコロノウイルス感染症が初見となり、そこから流通都市圏に波及しては、もっとも侵食してはいけない穀倉地帯に迄、2週間でフランスを完全制覇しフランスを軽く越境した。

 新型コロノウイルス感染症の通常の感染力は1.5倍に対してル・アーヴル型コロノウイルス感染症の感染力は12.1倍に当たる。何故に途方もないウイルスに進化したかは諸説あるが、陽明寺亘博士のベーシックな見解がもっともたるになる。過去のペストは何れも野鼠に宿生し席巻していった。ドブネズミならば都市圏止まりなるが、野鼠は只管貪欲で繁殖に拡散する。そう今回はまだ運が良いが、この先野鼠の活動圏が広まれば、インフルエンザの原因種どころか、何れはあのペストとの複合病種に転じる恐れがある為、強烈に駆逐せねばならないが提案となる。

 当然根拠はになるが、今となってはフランスを中心に西ヨーロッパ全土が死屍累々になっている。東ヨーロッパは早くも国境封鎖しているが、野鼠を遮断する術は無い為、右肩上がりに罹患者が増えている。そして港湾都市ル・アーヴルを発している為、当然世界にも波及している。

 もはや根拠など、どうにでもなれで、生き延びろの気合いしかない。本来なら通じる根性論も、アジア地域の常態国は世界地図から次々消える運びになる。

 韓国は瞬く間に500万人死亡で完全封鎖するも、世界で初のデフォルトに入る。ここで明日は我が身になる筈も、何れの国と市民は今日の物資を確保の為にそれどこではなかった。

 そうなれば隣接圏の北朝鮮も詳細は発表されないが、中国製のワクチンが不足し推定700万人が死亡し、苦渋の果てにアメリカ北朝鮮共同宣言しては、念願の朝鮮半島健全化が盛り込まれた。懸念の平和情勢でアメリカ合衆国は推定では年間50兆円が浮いた為、株式市場は人員不在のまま急カーブの上昇を描いている。

 そして中国全土一帯、ル・アーヴル型コロノウイルス感染症の蔓延が囁かれ、分断危機あれど肝いりの電子戦隊を投入し言論を完全統一し見た目は平常を保っている。ただそれも通信の極限統制と見なされ、ルートサーバー連盟から回線を根こそぎ切られて生活様式が旧態然に戻ってしまった。

 アジアの生活様式は思った以上に危ういもので、ル・アーヴル型コロノウイルス感染症発生国のヨーロッパより先に沈むのは、もう目に見えている。これもル・アーヴル型コロノウイルス感染症の検査体制が確立されていなかったからだ。

 主症状のインフルエンザが新型コロノウイルス感染症に完全に飲み込まれた為に、インフルエンザ検査試薬が機能せず、切実な対象方法が出来ないからだ。インフルエンザか、ル・アーヴル型コロノウイルス感染症か、新種の新型コロノウイルス感染症か。何れもここまでくれば徹底隔離しかなく、ここでまたしても国連会議主導の下で、ウルトラワクチンの耐性の進化を待つの決定事項に従うしかなかった。その世界完全封鎖の期間は4月9日から6月9日の2ヶ月間。かなりの運が悪ければ、世界は沈黙したまま全生物が死滅する。黙示録とは序説から本章に掛けてやたらに短いものらしい。

 発生から法令の施行迄が短期間である為、ありがちな陰謀論と擦り合いが始まった。その大きなトピックの一つはインドネシアのバイオテロ未遂だ。インドネシア政府に限らないがル・アーヴル型コロノウイルス感染症対策は術がまるでない為に、自主的完全封鎖の上位の戒厳令を敷いた為に、暴動が勃発し、有り得ないレジスタンス迄発生してしまった。どこをどう所持していたのか、第二次世界大戦下の擬似炭疽菌N503症例を政府軍に投入したらしい。だが然るべき運は回る。日本国ではマッドサイエンストの天蓋鶏頭が余生を送るべく、スマトラ島に移住していた為、いち早く看破出来た。ただ余りに対処が早かった為に、ル・アーヴル型コロノウイルス感染症の主犯とは天蓋鶏頭ではと、ゴシップ記事に踊ったが。それもあいつ榊志摩国連本部衛生司政官の熱烈指導によって、懲罰的な報道機関閉局に追い込まれては、敵に回しては行けない事も知らないのかと、決して海の向こうへ届かないが言いたくもなる。

 そしてあと5日で、人類史に残る世界完全封鎖が始まる。人類いや全生物はその2ヶ月間で耐性を持てるのだろうか。或いは陽明寺亘博士の予兆の様に野鼠発原から黒死病と新型コロノウイルス感染症が合併しては新たな脅威が待ってるやもしれない。実に皮肉な事だ。新型コロノウイルスの化学式である巣ごと抹殺出来る遅効性殺鼠剤に、順応した野鼠がその間に繁殖した事から、この時代にも蔓延する事になった。

 勿論全世界の殺鼠剤メーカーは最高速度でシンプルな殺鼠剤を製造ラインに乗せては駆逐に尽力してくれてる。主は人間か野鼠か、或いは有り得ない生物種にこの地上を委ねるのか。俺はただ人類が生き残るとしたら、生態系をあるべき姿に糺す事を誓いながら、皆の無事を祈るしか出来ないのが今もだ。


「と言う事はさ、俺達この世界完全封鎖期間に全滅するかもしれないじゃない。生命保険無事に降りるものなの」

「サギーも真面目だね、死亡保険金は多分いける筈、ここ鉄平どうなの」

「サギーも是さんも、俺が新型コロノウイルス感染症の分厚い本書いたからって、まあ分かる範囲なら。死亡保険金は確かに降りる、あとはオプションの流行病による死亡は、日々症例が移り変わるものだから、ベーシックな新型コロノウイルス感染症による死亡以外は審査入りだな。そもそもで言えば、世界完全封鎖で運悪く自宅で死亡したなら、原因不明で多少の減額が入るかもしれないな。万が一を考えたら第三者による感染の詳細手記は必要と思う。ただな、これを参考にするな、俺達は生きて生き抜いて、次世代の希望を繋がないとならないからな」

「おお、鉄平、さすが大ノンフィクション作家様だよ、やはり印税入ると余裕か」

「サギーもおちゃらけるな、鉄平の印税は東海快速新聞管理だから、エージェント手数料は抜かれるものさ。そもそも妻君黒川果林は大エッセイストだから、そう言う日々の配当には何ら関心もないさ」

「おい、俺を若い燕みたいに扱うな」


 この何気無い会話があるから、俺は救われる。陽気なサギー事鷺崎一路は大手町新聞勤務で東日本大震災でエルムスタイン深耕報道賞受賞した強靭者。固い是さん事是方寿郎は名星新聞勤務で、粘り強く野党政権時の民間補給物資船二船不正をスッパ抜き、ハンナリ海運の上場廃止へと追い込んだ正義感。何かしら仕事で運よく頭角を現せば有り得ない友好を育む事も出来る。後はうろついている丸ちゃん事丸富勇市は渡海新報新聞で経済界に強いパイプを持ち人事を完全掌握しているので、突撃取材の伝手になるのが頼もしい。


 これ迄コロノ禍根に追われて面と合わせての会合は幾度になったが、オンラインでは日々情報交換に終われる。まあそれも回線が入ってしまうと仕事と私事の境界が無くなっって四角四面の会話になるのが歯がゆく。いざ面を合わせるとこうもフランクに笑顔になるのはどうしてもだ。

 とは言え、現在は新生内閣の各大臣の新任会見で緊張感はある筈なのだが、各新大臣が懇切丁寧に話し込んでくれるおかげで宥和的な雰囲気を醸し出してるお陰もある。ただここも俺らベテランの記者程、高等過ぎる牛歩戦術でなし崩しに纏ろっている事に気づくのだが、敢えて渦中に飛び込むのもまま必要だ。その反面で若きSNS記者群は焦って聞き出そうと言葉尻がきつくなって会見場から連れ出される事から、最近の傾向である淘汰のエッセンスとしては捉えている。ここは俺達が報道携る者としての一日の長なのだろう



 そして淡々と昨日4月3日9時からの新生内閣の会見をやたらと振り返る。

 トップバッターは、40代前半の辻本伊織官房長官。陸上自衛隊検疫官主査を一旦公務停止し就任となった。抜擢の経緯はコロノ禍の第二波で北海道での対策士長の際に、当時伊達一巡北海道知事と遺恨無し盟友になったらしい。結束は実に切実な問題だ。辻本伊織官房長官はここでの言及で強固な結束次第で1.4倍の効果を上げるとの経験則を謳い、軒並み軽はずみな記者達の質問を沈黙させた。そう彼女のタフは時間経過と共にただ驚愕する事になる。全大臣の会見に常に立ち姿で寄り添い、一切の予断を許さなかった。俺は休憩時間に堪らず詰め寄った。


「あら、鉄平さん。勿論全部の会見にお付き合いするのが、新官房長官の弁えと存じます。それに休憩時間が20分もあったら仮眠は取れますよ。この瞬間にも医療現場は不眠不休で奮闘しているのに、私がそもそもここにいて良いかは、そこは皆に励まされて送り出されたからには、期待以上の結果は残してみせます。鉄平さんすいません、これ以上は仮眠に入りますので失礼します」


 そうやって辻本伊織官房長官は、使い込んでも丹念に磨き込んだ黒のローファーで踵を返しては、休息所に入っていった。俺はそこで漸く気付く。機能的なローファーのそれは防衛省官吏の身だしなみでは無く、彼女の意気込みのそれであると。


 続くは50代前半の四方真緒文科大臣。東京都議議長の手腕を買われて就任した。その適切な手綱捌きは、阿里邑早百合東京都知事の存在と合間って、東京都の議会を華やかにも恙無い。

 文科省の親睦宣言としては、世界完全封鎖ともなれば、指導面でのオンラインコーチが更なる課題になる。従来通りに週二日の通学で、教師講師教授がトータルケアが出来なくなるので、二ヶ月位はの休暇は日本国の学力向上をここぞと妨げるので、授業と同じ位に個別面談を遂行する事を掲げた。

 もっともだ、幾度もの波状でなし崩しに授業が体をなさず学級崩壊寸前以前の大問題だから、期待せざる得ない。


 続くは30代後半の東海林優一外務大臣。京都副知事での入り組んだ全派閥への徹底した根回しを断行し、若くしての相談回りの地位を地元京都で得ている。ただ新生内閣の大臣就任に関しては、平安全方位からどうしても引き止めはあるものの、日本国の大事からで辛くも送り出されている。故に平安統制の一抹の不安がある為、長期間の外務大臣就任は辞退する旨で入閣している。

 主な外交主旨は、周辺国の強調平和路線に尽きる。この世界完全封鎖の挟撃を突けば、進軍はどうしても容易いからだ。ここは国連で近日中に、日本国発の新外務省体制の意向として、検疫における国連平和憲章の完全付帯事項として深く織り込まれるらしい。

 いや東海林優一外務大臣ならではの実に真っ向対話で、早くものやり手がはっきり出て頼もしい限りだ。


 続くは50代後半の黒田包含経産大臣。軒並み死亡した国会議員も辛うじて回避し与党自友党重鎮から渋くも選出された。その絆は経済界とズブズブと深く、大汚職になると漏らさず嫌疑を掛けられるも、真の大悪党とは証拠を一切残さないのが戦国時代からの習いなのだが、現代人はそこが逸しており流石は黒田のおいちゃんに奉られる。当然勝手知ったる記者達は、やたら訝しげな質問しかしないので、大会見場はやや険悪な雰囲気に包まれる。ただそこは辻本伊織官房長官のたおやかな合いの手が入って爆笑に誘われる。

 黒田包含経産大臣が善人ぶりを醸し出す軽妙さで、経産省の日本国の経済底力方針を語る。無い袖は振れないので、各企業は内部留保で凌がせる代わりに、株式市場でのサーキットブレーカーは敷かないので各企業IR活動に善意の情報を開示し健全に稼ぐ様にの、臨時条例を世界完全封鎖期間に実施する事を確約した。暴騰もあれば暴落もあろうがそれは昭和の時代はそれであったし、この情報化時代に盲点を突く行為もなかろうから、日本国政府の予算枠を慮れば積極的な判断だろう。


 続くは30代後半の栗原美津留国交大臣。宮内庁懇意の習養院大学卒業後JRT東日本に入社しては名車掌で名を馳せ、ブルックリンニュースの世界の輝く女性100人に選ばれた才女。元国有鉄道の銘も流石にこのまま栗原美津留を肩書き無しではの寒心に走り名誉顧問として辞令を下した。ただそれも依然と旧体制の会社であることから、今回の入閣で体良く追い出せた事がJRT大役員の如実な笑顔で受け取れる。

 その栗原美津留国交大臣が打ち出した、国交省常態改善方針は、世界完全封鎖で通販の倍増に備えた運輸輸送業界の再構築ではなく意外な事であった。まずに検疫の徹底化で有りとあらゆる生活管への徹底的な殺鼠剤の無償配布を行うと言うもの。そう、まずは野鼠の往来を阻止し駆除した実績が明確でなければ第四波は永遠に終わらないからだ。

 栗原美津留国交大臣は、民間登用だからこその衛生面の徹底管理は生かされてると言う事になる。


 続くは初日大トリの60代前半の真田大全財務大臣。参議院議員の重鎮で、これ迄に三人の総理大臣に副総理大臣として支えては、とことん人あしらいに慣れた変人だ。その厳つい尊顔から出る言葉は何かと問題発言となるが、結果大正解になる。ここは卓越した勘か命令系統が尋常では無いかが二分するが、俺はその両方を持つと窺い知る。何故なら俺の娘の双葉のダンス素質を小学低学年の時点で、双葉ちゃんの踊りに物語があるねと褒めたからだ。その時はお座敷大好きの親父が何を言うかだったが、まあ今となっては大正解しかないのだが。

 その財務省の刷新財務基本方針は俺も合わせて皆の手が震えた。政府保有株式をこの高騰曲線描く株式市場で全て売却して売り抜けたからだ。ここで確保した108兆円全ては第四波の不足の事態にいつでも備えると言う英断だ。勿論このまま政府保有株式が市場にそのまま大混乱になるので、日本国の株式会社の何れにも無制限の第三者割当増資を認可する裁定を下した。ここで日本国の株式の放出にいち早く察知した中国の金融為替相場がパニック状態になり、地中国の仕手筋は結果大損する羽目になった。この激しい右ストレートで、中国をコロノ禍の世界混乱に乗じて世界の盟主になる事を阻止した事は、ただ総理官邸に大挙する蜜月国の特命全権大使の表敬訪問で十分に察するさ。

 勿論、真田大全財務大臣の食わせ者ぶりには、当然二回戦三回戦分の手札が有るに違いないが、俺達は無言の圧力でスクープは無しだに徹している。ただ、人物真田大全を知らぬSNS記者達はあれもこれもの質問攻めにしては、悉く返り討ちにあっている。真田大全財務大臣のこのアンリミテッド会見こそが最大の籠城戦になり、最長5時間25分に及び深夜3時をゆうに超えた。ここでSNS記者達の6/7は脱落し、記者待機会場となるエントランスで長過ぎる程の雑魚寝に沈んだ。俺達も新聞記者達もになろうが、そこはいつもの真田大全財務大臣の微笑ましいアイコンタクトで君達は出てなさいで、最後迄付き合う筈もないからだ。



 初日の会見は日を跨いだが、この時点で折り返しなのだから、SNS記者だけではなく、まるで要点を得ない情報に食いつくSNS中毒者一同も悉く脱落した筈だ。部外者の退場は大いに越した事は無い。世界完全封鎖の衝撃で世界は揺さぶられている。それを平常化に持ち込むには、一方的な報道官説明に落とし込む幾つもの国家同様に図らずも暴動が起きるに違いなく。この日本国を始めとした大きく揺さぶる心理戦有りきの会見で、国民を興味本位な関心から脱落させるのが極めて理性的だろう。


 そして、やや定例の30分休憩にしては長い2時間強の休憩を経て、二日目の会見が驚愕の早朝5時半から幕を開けた。当然SNS記者達はペース配分守れずただ深い眠りに入ったままだ。まあ俺達でも、やや眠いが臨戦態勢に入っている。それ以上に臨戦態勢なのは出店一同だ。出し抜けの早朝会見は然るべき筋で聞いているのか、早朝の軽食に一杯は待機時間一切無しで配布され、俺達は名店の味と共に給仕等の笑顔で一気にフルテンに入った。


 二日目も超強力打線は、30代前半の安寧寺塔子厚生大臣兼務副総理が切り込む。このコロノ禍で厚生大臣兼務副総理の会見を聞かずに何をどう成すかと、粗忽者に俺ならば無条件に一喝しかないが、そんな優しさは残念ながら俺達一般紙諸兄にそんな余裕はまるで無い。

 安寧寺塔子は若くして病理学教授で全てに精通にする。風雪義塾大学病院時代には、識者コメンテーターにして、3つの新書文庫を手堅く発表し医大生ならばマストアイテムになっている、時代の寵児だ。そう、このコロノ禍に招集せずして誰を推挙になる。

 厚生省重点方針はただまさかが走り抜けた。あの副作用が強過ぎるかどうかの正確な判定が下っていないウルトラワクチンの2回目接種を断行するとの事だ。その副作用効果を愛する家族で思い知ってる俺は堪らず俺は立ち上がった。俺は激しい怒りで一声を放つ前に、サギーが先じて質問に食い込んだ。危険なウルトラワクチンをもう一度打つと言う事は、そこ迄人類は追い詰められるのかと。安寧寺塔子厚生大臣兼務副総理は熱く語る。既に終末で有り、全生物が生業を果たすならば、どうしても密接感染が起こり、人類はおろか生物は熱死に至るでしょう。世界完全封鎖は、取り急ぎの感染源生物の駆除に至りますが、それが全世界に叶うとは到底禁じえません。それならば、総生産態勢で常温保管で備蓄されているウルトラワクチンの配布をすべきと副総理厳命を発令しました。接種は、順次ウルトラワクチン接種キットを発送しますので手順に従って各自太腿に深く打って下さい。副作用に関しては、一度ウルトラワクチンを接種しているならば既に馴染んで拒絶反応が出る恐れは99.9999%有りません。人類を救うのならば必ずや接種をお願い致します。

 当然、強烈な質問が理性的な範囲内で飛び交う。ただそれも安寧寺塔子厚生大臣兼務副総理が全てを想定しており、分かりにくいルーチンに関してはパネルを展開して会見場を納得させて見せた。そして俺達の視線は幾度も合う。この若き副総理は決してお飾りでは無いと。


 続くは50代前半の浅野賢司総務大臣。北海道旭川市で3期目の市長を勤め、一時休職中の伊達一巡北海道知事とは盟友になる。伊達一巡北海道知事就任初っ端の全北海道会議を開催した時、その派閥は多岐に渡って、若造何者をの雰囲気を、北海道に若き血を入れてくれて有難うの開催スピーチから、全北海道を一つにまとめ上げた中立役だ。もっとも、浅野賢司総務大臣は普段から寡黙で、話してくれただけで一気に雪崩れ込む雰囲気はあるとの事だが、是さん曰く心からのスピーチと強く念押しされたらしい。そう考えると、北海道知事がその首長選挙で伊達一巡以外だったら、その手腕の空振りはそれは恐ろしいものだっただろう。

 総務省の改正方針は本当にその短期間で出来るのかだった。世界完全封鎖で通信が飽和状態になるのは早くも察された。それをワンセグ放送を停波し、グレードアップ規格5Gaとして回線増加するとの事だ。当然そんな規格聞いた事も無いの質問がされるが、浅野賢司総務大臣は有りますよの一言、暫し間を置いて淡々と、この新生内閣就任会見が終わったらスタートアップさせましょうかになった。あとは渋い声で改正方針原稿を読みながら、真の淡々さで終えた。

 皆がその改正方針に訝しんでいたが、是さんがこの浅野賢司総務大臣就任依頼が誰よりも早く、昨年の7月だったら十分可能であるだろうになった。まあ総務大臣か総理大臣かは聞き出す程野暮では無いのが俺達一般紙一同だ。


 続くは50代前半の倉本大樹法務大臣。行政長どころか全議員迄引き抜いてきたせいで、与野党大連立の影が薄くなっているが、新生内閣成立はまずノーサイドの掛け声から始まっている。その野党急進役にしてこの倉本大樹法務大臣はどうしても外せない。政党の序列ではしじま党は第4位の位置にあるが、第5位の大阪真髄の会が自滅した今、もし参議院衆議院の総選挙があればここを侵食して第3位の野党清和党を確実に追い抜き野党連合のイニシアチブを確実に握るとの下馬評だ。その倉本大樹法務大臣は咀嚼しての対案作りが絶妙で役職は折々に違えど相談役に名を連ねる。代表的な所では対案補正の派遣会社段階的総量規制で中間搾取を圧縮した。仕事の多様化を損ねるが世論の筈が、ここは派遣会社界隈の提灯記事だと丸ちゃんが一面スクープして木っ端微塵にした。思わずその日の早朝の朝刊を読んで大爆笑したのは、やや近所迷惑だったかもしれない。 

 法務省の法整備遵守網の何よりは、世界完全封鎖に伴う人権遵守緊急法令可決整備だった。やたら固い法令だが、SNSの第5認証迄の義務化だ。当然5段階もあれば出自は確定される。これで暇に任せたガセもデマも煽りも無くなる。ここで一頃流行ったnotax運動の牽制では無いかの質疑も、倉本大樹法務大臣は豪快にも、この新生内閣ならば倍の税金を払ってでも身の回りを守って貰えるから、良い事どんどん書いて下さいよから、ただ会見場は懇話会の場に変わった。

 世界はこのコロノ禍で、左党のリベラルなど結局危機意識が欠如しているの掌返しに入ったが、それでも筋金入りの人材を決して邪険に扱えぬ事を知るべきだ。


 続くは30代後半の一色菜穂子農水大臣。そのまさかの登壇に同年代とやや上の男子と女子は息を飲む。そう平成通じて変わらぬスタイルなのだから。先日迄は仙台市議で先鋒を務めるが、その前職は東京のファッション雑誌の名うての編集者で表舞台と裏方もその才媛で恙無く勤め上げた。一色菜穂子農水大臣の最初の出会いはとうに昔の平成での会食の場で、俺のフルネームを存じてごく馴染みの笑顔でただどんな話題でも弾んだ。俺はそれを自慢気に話すと、それが彼女の普段だからと、妻の果林に悋気もされず微笑まれたのは、どうやら彼女のファンが多いのを悟らざる得なかった。

 農水省は雇用対策の三重点を打ち出す。その一つアフターコロノにも備えて食糧生産従事者の健全推進し、食料自給による配給定期便の完全施行を遂行するとの事だ。世界完全封鎖のそもそもは、貿易の港湾都市ル・アーヴルから発したル・アーヴル型コロノウイルス感染症対策だ。貿易による食料輸出入をしては、ただ災禍が永遠に終わる筈もなく、世界完全封鎖の主旨は準鎖国をも指している事になる。第二次世界大戦の乏しい配給制度で大きく窮したのに、また世界完全封鎖で二の轍を踏むかの世論になりそうは、農水省の最低限の配給を得られるのであれば、生存確率が3割上がると強く訴える。一体、新生内閣はいつどこの時点で、政策策定していたというのだ。

 とは言え、一色菜穂子農水大臣の終始朗らかなの声明で、本当に頭に入ってるのかと朋友軒並みに肘打ちして行くが、ただ怪訝な顔でそれどころじゃ無いと私的に一瞥される。お前等と来たらも、この直後の質問挙手は総理官邸新築以来最大のものになったのは、まあ気持ちだけは深く理解しよう。


 この一色菜穂子農水大臣の就任会見の最後に、お昼の1時間半の休憩に入りますと、辻本伊織官房長官が厳しくもアナウンスがされた。会見場は長めの仮眠に入れるかの安堵の溜め息が続いたが、ここで察したのは俺達だ。何故あからさまに辻本伊織官房長官は表情を作るかのかは、ただ深く警戒した。

 その警戒は早くも、弩級の展開を見せる。上原讃徒内閣最高顧問が休息只中のエントランスを陽気に巡回する。その肩書き内閣最高顧問も、法整備上の現状は亡き御子柴総理から首班指名された実質総理大臣は上原讃徒と知る者は限られている為、より多くの者はただ知らずに陽気に談笑を重ねて行く。

 そして、俺達の群れに立ち寄った時に、俺は率直に上原讃徒内閣最高顧問聞いた。上原さんこそがオールスター内閣のその地位に相応しいのに、何故若造の伊達一巡に権力を握らすのだと。翁は気さくに語る。現場監督は若い方が、こいつの為に頑張ろうかの一踏ん張りが出ます。名誉監督制度は、東西のプロ野球の盟主で既に定着していますから、鉄平くんは何を目くじらを立てますかと。これ以上はどうしても長くなるので、それもそうですと会釈で終わらせた。

 上原讃徒内閣最高顧問は、このエントランスだけではなく、全メディア全国民の動向を窺っては、旧大蔵省官僚ならではの算盤ずくを垣間見てる事だろう。当然、クライマックスに向けての粗相が無いように、知己に釘を刺しに来たのは配慮が出来る方だからだ。お手柔らかにか、そこは2/3だけは受け取る事にした。


 そして出店から、唐突に怒声が飛んだ。何故ソルトナッツミックスが完売なんだと。何処かで、無節操な苛立ちが炸裂するかと思ったが今ここの追い込みかとうんざり顔に入ろうかも、一瞬で強烈に床を叩く音が聞こえた。皆の視点はただ一点に集まった。それ出店:絶賛珈琲の長身美形の四方春希に一心へと。決まった合気道の護身術を衒いもなく微笑で讃えながら、束ねた髪の髪飾りを確認する振る舞いは何から何迄達人だ。

 だから言った事ではないは、俺の心の声だ。四方春希は四方真緒文科大臣の長女で、その系譜を知らない輩は調子に乗るだろうが、想定の範囲内だった。群衆の半分は然もありなんと半分は竦む限り。俺は近づき間を繋ぐべく、お怪我有りませんかの社交辞令に入った。彼女は苦笑いしながらも。私ってどうしても絡まれ易いのですかね、長身からの視線、言葉じり、いや何処かで母譲りの強い雰囲気醸し出しての誘いがこれですかね。俺は得てして才媛とはそう言うものです、合気道の嗜みは四方真緒文科大臣の慧眼と言えるでしょうと。彼女は、そこにはやや不思議な表情を浮かべながら、俺に景気付けのカフェオレを差し出す。俺は、御自分を美女とお分かりにならないのですかをぐっと飲み込んだが、四方春希は察したのか作り立て美女の笑みで返した。俺も微笑みで返したが、この跳ね馬を誰が射留めるのかただ先々が楽しみで仕方なかった。

 エントランスの雰囲気は、不躾な記者の速やかな強制退場からやや間をおいていつものゆったりした雰囲気に入った。そして午後の就任会見の幕がまた開かれた。


 再開は50代半ばの綿貫豊和防衛大臣。体制刷新による海自幕僚長を5年前に退官し、その秘めたる大きな手腕を買われ民間からの登用に至った。5年前の春、何故防衛省が突如として体制刷新に入ったは理由がある。それは実しやかに聞かれる推定化学テロだ。

 推定化学テロのそれは川崎界隈で未然に2度防がれた。日本国のインテリジェンスが警戒する中で、新式の神経ガスが川崎駅と川崎リゾートタウンで放たれた。何れも私服警戒に当たっていた特殊部隊隊員が自ら体を張って民衆を誘導し、配布された中和剤を放つも、愚連隊の春の珍事かで事が表向きは済まされた。そこから噂では実行犯は確保したものの、詳細は一切不明に伏された。平和日本で如何なるテロも許されないが規定路線だ。

 何故日本でテロを起こすかは、推測の域を出ないが、何れかの国が斜陽の島国に落ちるのが遅すぎる故の社会不安を大きく募らせるが事情通の記者の見立てだ。そして、ぶら下がりで防衛省重鎮に追求するも預かり知れないと事を終え、体制刷新が或る日普通に発令された。俺はどうしても言われないのであれば、それも一歴史の暗幕と解釈する。だが痺れを切らした関係者が先々でテロ防止法が改正されないのであれば、どうにかして俺達界隈が切り込まなくてはいけないのかも知れない。

 そして防衛省真大綱として新型コロノウイルス感染症対策が最重点となった。流動的に現役自衛官3/4の18万人を検疫係に速やかなる移行。また保有輸送艦を災害派遣病院船に緊急改装後現場派遣発令となった。当然質疑は、防衛省は復興省になって仮想敵国から本当に守れるかのバリエーションに至った。綿貫豊和防衛大臣は至って柔和に語る。我々は一兵士の前に、日本国民に真っ向と対面出来る生命の重たさを承知しています。このコロノ禍に怠っては義務以前の信条が崩れ去ってしまいます。ここはどうか日本国民の皆様には気兼ねなく私達に隈なくお声を掛けて下されば、何事も再優先で対処させて貰いますと力強く終えた。


 続くは20代後半の出水雲雀労働大臣。政治畑で知らない輩がほぼほぼでクライマックスの場に誰だこいつの雰囲気になった。だが俺はBS放送のBSーDAVITの情報番組What's NEXTの不定期美人コメンテーターとして良く知っている。その守備範囲は世界市場で、コメントしたその3ヶ月後にはトレンドワードとして浮上して来る名うてだ。その経歴は知る限る帰国子女のキャリアのままに、折原二百二国策銀行に入行後早くもホールディングキャリアの折原シンクタンク総合統計室室長に数年で就任。少数精鋭のシンクタンクの室長なんて実質宣伝係長の声をそのまま聞くが、あの名前そのままの国策銀行のホールディングキャリアなんてエリート中のエリートだぞも。その皆の訝しい眼差しでも、美人の前では胡散霧消にしてしまうのが、彼女の食えぬ性分を表してると言うのに。

 その人柄は情報番組What's NEXTを見る限り機知に富む。どんな球でも打ち返す三冠王はいるが、それは経験有りきの為せる技だ。その敢えての当て振りの空振りも誘導と知らずにいるのがほぼだ。それを悟ったのは、草野球がとても熱い特集のリポーター出水雲雀の打撃構成にただ舌を巻いた。内角右下を開けた大きなスウィングを二度も行い、そこかとばかりに投手から必殺のカミソリシュートを放られても右中間に弾きヒットさせた。彼女は番組上二番打者なのにその定まっていない球種を知る筈も無く、確実に球の回転を悟った上で狙わせただ。リポーター出水雲雀は語った、若い女性程脇の固い人物はいませんよと。行動自体を隠喩とする御仁はこれ迄5度しか見た事無いの一人だ。

 その再分割程無い労働省の幸福指針を聞いて、皆の顔が砕け、もう一度ねじ込まれたのがこれだ。所定の手続きを行った日本国民へのベーシックインカムの定額導入。今や全人類が切望し、リベラル左派の甘い水の温床となっている制度が、驚天動地にして、この新生内閣就任会見で聞かれるとは、誰一人夢にも思わなかった。所定の手続きを行ったとしても年齢問わず一人7万円の大台は、到底信じ難かった。普通の三人家族ならば、このコロノ禍で働けずとも切り詰めれば無事生活出来る金額が何故に尽きる。

 但しは確かにあるが、まず企業組合通じての申請有りきで、組合加入条件が曖昧な派遣社員は持っての他で直ちに自社社員登用を行う事。またベーシックインカムの定額導入で年金制度は解体し厚生年金も同時の解体で、確実な原資を確保し分配すると。当然質疑はこれは正しい資本主義社会の在り方なのが飛び交う。出水雲雀労働大臣はブレが一切無く語った。資本主義社会は2年前に終わっています。全企業のステッパーが未だ20世紀の時点で、このままでは21世紀はこれで終えます。革新とは自らが発しての大きなうねりを生みますが、皆さんは有り勝ちな概念に一切疑問を持たず既存のデバイス依存しているのは大間違いです。私は切に望みます。この幸福指針で、正しき人材が多く育まれ、このどうしても閉塞した社会に大きな福音を齎す事をと、自ら丹念にクロスを切った。

 皆が厳かな雰囲気の中、俺は敢えて改めて質疑した。各新任大臣が新たな方針を打ち出しており、出水雲雀労働大臣のこの後半の会見から察するにベーシックインカムの定額導入こそが、新生内閣の本筋であると察してよろしいのですか。またこれによって親密国アメリカ合衆国が最大懸念する共産主義の傾倒と取られかねないのではないかと。

 出水雲雀労働大臣ははきと答える。そう順番が気になりますよね、私の出水雲雀労働大臣就任は3時間前に擦った揉んだの末に、私を含めた労働大臣候補会議で、そこまでベーシックインカムの定額導入に拘るならお前がやってみせろになりました。私は出来るからこそ、喜んでお受けしますと深々と挨拶しました。日本の長い会議はこの辺の大オチがド定番ですよねと。ここで会見場が拍手喝采を送った。そして発言は続く、どうしてもの大トリはヤンチャの伊達一巡総理大臣で有り、本筋も枝葉もそこで正しき日本国の今後が導かれるでしょう。それと共産主義の傾倒の一文は本意では有りませんので、紙面にはくれぐれも載せないようにお願いします。資本主義も共産主義もコロノ禍で何もかも飽和しており、現在の経済活動の体系的な名称が未だ定まっていませんので、しばしシンクタンク等の論文報告を持って評じる様に願います。とは言え、アメリカ合衆国の態度も気になりますよね。ここは仁義を切っており、何処かの国がどうしても順応したベーシックインカムを採択せざる得ないので、日本国が先陣を切ってくれるのは大歓迎だそうです。

 そう、日本国は如何なる時も試される運命にある。ただそれは屋台骨がしっかりしてる時にして欲しいが、それが時代の荒波と言うものだろう。


 続くは最後の閣僚の30代後半五十嵐一茶環境大臣。全くと言ってはいけないだろうが主要閣僚14人の内7人が女性閣僚なんて、世界標準をここに適用するのかは、どういう人事になっているか俺はどうしても知りたい。いやそれは後にして、五十嵐一茶は伊達一巡の中学高校大学の同級生になる。同級生を右腕に持って来るのは一見やれやれだが、五十嵐一茶は夕張ITバレーの起業家社長で株式会社健康日常総研を堅調に成長させた。会社の名前こそ怪しい健康食品メーカーだが、純然たるアプリの会社で、家族構成の身体測定と商品購入のレシートをスマートフォンに翳すと家族の健康状態と通知を行なってくれる懇切丁寧な会社だ。個人からの課金は一切取らずに、その健康状態データを解析し大手メーカーにコンサルタントする事で一気に飛躍した。各雑誌の五十嵐一茶の取り上げ方は、女性雑誌が嫌味たっぷりにつけた鉄の女子がそのまま横行している。宣材写真がもう少し柔ければと俺は思うが、俺の相棒の人の好き嫌いの多い東海快速新聞の協力社員報道カメラマン春山龍一が、それならば鉄平さんが単独インタビュー取ってくればポートレート付けますよと拍子抜けの返事をした。ただ相手は今やIT寵児の五十嵐一茶で独占インタビューは取れて2年先だ。切り札として止む得ず名カメラマン春山龍一の名を出したが、五十嵐一茶は律儀にもそれでも2年先との返答だ。龍一は朴訥に言う、素肌化粧の彼女が一端の別嬪さんになるならば2年は極めて妥当と。それが奇しくも今日の就任会見で2年越えだ。この記者会見前に小走りに五十嵐一茶環境大臣が小走りで走り寄っては、鉄平さん今日ならならばokですと、何よりも見違えて可愛らしい女子そのものだった。これ迄の新生内閣の就任会見の波の立ち方にむくれた龍一はずっとシュラフにぐっすりだったが、やっとその気になって写真機材のメンテに入った。お前の嗅覚に本当戦場カメラマンそのものだなと苦々しく言ったが、鉄平さん多分一番の売り上げでしょうから各部署に手配お願いしますと、かなりの本気は受け取った。

 環境省の環境改善声明は一見普通だが、いざそれを実現出来るかが深く過ぎった。定期ゴミは最小限に抑制し、除菌及び医療ごみの分別推進の分別表を提示した。確かに定期ゴミを数回減らせば汚染科挙ゴミの収集で数次感染は妨げられる。そう、いざ深く考えるとここが一番の肝で、コノロ禍では日々のルーチンに組み入れなければならない筈だ。この辺の質疑は凡庸に進んだが、真のIT起業家は入口と出口が一貫しているものかが、最後はただ深く感じ入った次第だ。一見お飾りの環境省でも果敢に新生内閣に意見を出し合う事にくたびれた襟を正さざる得なかった。

 そして、因縁浅からぬ女性記者がここぞとの質問をした、聞くか普通それを、今ここでだ。五十嵐一茶環境大臣と伊達一巡総理大臣との仲は何処迄進展されているのですかと、左手に盗み撮りした切り取りのツーショットのプリントアウトが見えた見えないかで、警備の者に迅速に連れ出された。五十嵐一茶環境大臣は呆れたので最後の質疑にしますと前置きした。写真はこの後幾度か三文雑誌に掲載されるでしょうが、何れも新生内閣での会合写真になります。とは言え、伊達との付き合いは本当長いですよね。何故に私を新生内閣に呼ぶのか、えらく自然と手っ取り早いですけど、やはり掘り下げられるとこうなりますよね、はあ。そう恋人の噂なんてとんでもないです、私がいつも火消し役で調停に関わってますから、込み入った内部情報があればきっちり説明します。これって役職手当つかないものですかねと、会場を新ネタで掴んでは爆笑で終えた。 


 この時点で18時10分。深夜に至る気構えだったが、辻本伊織官房長官の発声で伊達一巡総理大臣就任会見は同時中継も承認し19時00分開始に決まった。エントランスの壮観は、賑やかしのマスコミは次々脱落しては折に連れ強制退場と相成り、残ったのはどうしてもの一般紙朋友だった。特段結託した訳ではないが、大事件の記者クラブの長期戦ならば長らく慣れたものだった。夕食は眠気が襲わない程度に出店で詰め込み、それが済むと各所で閑談に入った。

 そこには、記者だけでは無く内閣府関係者も手応えを得るべく、積極的に輪に込み入って来た。そして俺の前に訪れたのは、初対面ながらも衒いも何も無い、そのまま社会人成り立てそこそこの純情そうな女性だった。俺の連れ達はあの厳つい鉄平に、この純情女性がかと苦笑に入ったが、それは瞬時に拭い去らわれた。そう名刺交換から、この女性は伊達一巡総理大臣の傍に寄り添う公設秘書で噂の妹の伊達來未子だった。俺は彼女の築いた伝説の数々を聞き及んでいる。

 北海道伊達家に入った養子縁組の伊達來未子の以前の姓名は井筒來未子。伊達一巡の実父にして歴代北海道知事の雄伊達武修の妾腹の娘になる。その生涯は函館市で母娘で慎ましく暮らして行く筈だった。だったは、成長伴いに耳に入れたくも無い事を聞いて、思いが大きく揺らいだに相違無い。彼女の無軌道の本格デビューは普通高校入学後の夏休みになる。暴走族:阿弥陀仏に加入してはそうであって欲しくは無いがめきめきと頭角を現し、高校2年生に上がると同時に実力で総長に登りつめた。そこで彼女が特筆すべきは、安易に道路交通法を無視するのでは無く、法定速度ギリギリの徒党を組んでは中型バイクで走破を繰り返した事。また暴走族特有の小競り合いも当然あるが、挑んでくる無頼漢は悉く蹴倒しての阿弥陀仏へ転向させては、函館市過去最大の愚連組織に至った。

 当然函館市警も何かと水を差したかったが、井筒來未子の出自を知り過ぎて、歴代北海道知事の雄伊達武修への配慮も有っては、どうしても野放しにせざる得なかった。

 ただそれも契機をどうしても迎える。その年の10月下旬、函館の初雪前の集団暴走納めに、腹違いの兄伊達一巡が一人で行く手を阻みに来た。いつ迄やんちゃしている、もう駄々を捏ねる年齢では無いだろうから発し、雄叫び声を上げては力任せの兄妹喧嘩に入った。互いに武道の習いは在るものの、それは去来する全ての思いを全てぶつけに行った身震いしかない決闘だった。井筒來未子は容易く腕挫十字固でマウントを奪いカウントを待つも、伊達一巡はバネのままにアスファルトを転がり続けては全力で解除した。そこで暴走族:阿弥陀仏が戦慄した。あの井筒來未子の固め技を解除出来るのかと。そして伊達一巡が体勢からの容赦ない背負い投げを、大きな受け身有りきで勝敗は決した。

 勝敗を決した伊達一巡の要求は純粋な兄としての願いだった。暴走族:阿弥陀仏を解散させる事、札幌の伊達家に直ちに養子縁組に入る事、人の為に役立つ資格を必ず一つ取得する事、そしてずっと俺の妹でいる事。そこで井筒來未子の思いを深く知る皆の涙腺が洪水のそれになった。

 札幌市に直ちに住まいを移した伊達來未子のとしての人生は、ただ普通に公爵家の令嬢の佇まいを齎らし、一生懸命に勉強しては大学で法学を学び弁護士の資格を有した。それでも弁護士にならず、伊達一巡代議士の小さな事務所に入ったのは、妹である事を切実に守ったからである。伊達一巡の言葉の情の重みは稀に順序を入れ替えてしまうのが、ここから読み取れる。

 そして、このコロノ禍に突入して伊達來未子の現場指揮が如何無く発揮される。その道産子史上最強の総長の一声でOB含めて3217人が医療ボランティアに駆け付け、緊急病院への搬送と従事に粉骨砕身投じた。そして当時伊達一巡北海道知事から、漏れ無く北海道民ボランティアクラブ3217人まとめてでは無く一人一人に丁寧に感謝状が送られたのは、妹も然る事ながら兄もの伊達家は栄えある血統かと賞賛しかなかった。もっとも北海道民ボランティアクラブの正式名称は道産子愛羅武優会であるも、北海道重鎮の実父伊達武修から厳つくもこの名称にしなさいと優しく叱咤された。それは長らく続く団体ならばそうであるべきだろう。

 そして、伊達來未子との立ち話は今日が本当に初めて位か弾んでつい聞いてしまった。北海道知事の座は伊達來未子が継承するのかと。彼女は真顔に戻らず微笑みを続けながらこうと。


「鉄平さん、そこは無いと思いますよ。お父さん曰く、お兄さんは何時迄も総理大臣の器では無いから、日本国の大事を繋いだら、続けて道産子の為に尽くすのが伊達家の本懐ですって。そこでお兄さんから私を擁立の話もつい促されますけど、お父さんは私がまともな結婚相手を探して来たら考えようかですって。ここついおかしいですよね、いざ私を手元に置いたら毎日本気の笑顔なのに、見合い相手は儂が探すにならないなんて、絶対いちゃもんつけて退屈そうな道議会議員の人生を潤そうとしてますよね。そうだ鉄平さんのオススメの方はいますか?」


 俺は本気で凍りついた。伊達家は本気の一家らしく、折にふれ伊達武修の会談で無礼があると、真贋付かぬ本身か模造刀を抜刀されては、厳冬の庭園に閉じ込められ凍傷になるらしい。そこへは成り行きで紹介元の俺も招集される事だろうから、仔細一切御免被る。俺は知らぬ素ぶりで、吉祥寺界隈歩いてたら運命の方に必ずや出会えると思いますにしておいた。まあ俺の強張りを見てか、伊達來未子が一層微笑んだ事から、直感的に長い付き合いになるかと予感より戦慄が走った。


 そして再開迄幾ばくか、ここに来ても元気のそのものの辻本伊織官房長官に一人残らず促されるまま、会見場に退場者以外の記者達が再び勢揃いした。その時に添えられた言葉は、伊達一巡政策総理大臣ですが、覚え難いので伊達一巡総理大臣に統一して下さいと。記者達の2/3はその配慮が漸く深く察したので、それもそうだろうになる。

 19時01分、見た目がロン毛で浮名の立つ辛うじてお兄さん分類の輩が挨拶も丁寧に登壇した。そこに流れるは臨戦体勢の本気と本気の覇気。ここからの同時中継の新就任会見で、日本から発した済し崩しの弱虫会見になろうものなら、世界完全封鎖は破綻し自由往来が尚もになる。会見場での如何なる視線の飛び交いは一切忖度しない、お構いなくの大一番になる。

 若過ぎる30代後半の伊達一巡総理大臣。その人生は、公務に付く清潔さとは一生無縁の人生を過ごして来てる。道議のキャリアから北海道知事を若くも世襲し、全道議から試されるも、その熱きバイタリティーから道議会を瞬く間に一つにした。その確固たる信念は早くも呈示された。悩ましいがやる時はやる性分らしい。

 軽妙な挨拶から、実行政府政策八策が発せられる。その全てが万全であった。

 大勢過ぎる遺体安置場になっている隔離区域御台場に、統合慰霊塔並びに御台場菩提霊園の大区画整備を行い、関係者に開園を厳守する事。

 猛暑と月日を経てミイラ化しつつある医療認定遺体の手厚い埋葬を開始し、その遺体袋の電子タグから生死が不透明になっている戸籍情報を一斉更新する事。

 改めて新型コロノウイルス感染症への感染如何を問わず、日本国が用意出来る弔意金の配布を30万円を目処に策定し、合わせて保険会社とも連動し速やかな保険金支払いを法令明文化する事。

 行き過ぎた脱法中古販売、特にSNS関連全会社の仮想店舗総量規制を永続的に施行し、日本国民及び周辺国国民の憂いを取り除く事。 

 また外交の垣根を超えて、世界総合企業体連合CRUEL五社への牽制。即ち威圧的な搾取とダンピング阻止を断行し、従事者全ての健全な保安を取り持つ事。

 世界完全封鎖でさも縮小かの懸念のある主軸業務の、医療従事者と食料供給従事者には手厚い給付金を行い、破綻を未然に防ぎ、万が一と平常化に戻った際の不安を拭い去る事。

 世界完全封鎖はお約束ではなく、世界をたった一つ救える義務であり、如何なる理由でも有事以外に外出し、脱法する者には、三権分離の逸脱と言われようと内閣関与司法特別命令を適用し容疑者として残らず訴追する事。

 世界完全封鎖明けの2021 Only TOKYO Olympicは現時点で断固として平和の祭典として開催厳守予定。予定とは言えその確度は97%であるのでどうか皆々様の更なるご尽力を貰いたい事。

 以上、伊達一巡の実行政府政策八策と言わず各新大臣からの方針は急務であるが、何れも日本国民に無理強いを要求している。緊急且つ重要である事を慮るが、いざ世界完全封鎖期間に突入したら、何処迄何を守れるか日本国民が不安に思うに違いない。沸々と沸き上がる。俺もやるしかあるまい、それは会見場の皆もだろうが、当然敢えての質疑は早くも熱を帯びる。

 一方、俺の心の中では、若造伊達一巡の清廉さとは何かが、幾重にも反芻する。


 それは2021年2月20日の習養院高校の卒業準備送迎会後の出来事だった。卒業準備送迎会はご時世から、3年生と家族と一部関係者が習養院ホールに集まり、後はオンライン参加だった。俺は2年の娘の双葉のダンス部披露とついでの取材許可で習養院ホールに立ち会った。双葉の左腕の筋肉は未だのものの、演舞はどんなに注視しても遜色は無かったので、感動の次に安堵がやっとだった。卒業準備送迎会は華々しく進み、最後の言葉として3年総代の二之宮鶴子様のフレンドリーの宣言から、卒業しても絆は変わりませんの切実さが一際皆の心に沁みた。そう時代が時代ならばでなくても、二之宮鶴子様は皇室二属家の御息女にあたり、恐れ多くて絆なんて滅相もないになるのだが、その心からの笑顔でただ目深く礼で応える以外方法は無かった。

 そして卒業準備送迎会は散開となり、二次会も無しに皆帰宅へとエントランスは感動の余韻の賑わいを見せた。そこで俺は長身細身の背筋の伸びた男性に恭しく声を掛けられた。男性は名刺を差し出し伊集院加寿と名乗った。そして肩書きは九州の勇名伊集院繊維織物社長と添えられたあった。その老舗と名前は確かに聞き及ぶが、何故に俺がだった。伊集院加寿は深いお話があると、習養院ホールの上席懇談室に導かれては、そこで俺は大きく憤慨する事になる。

 伊集院加寿は仁義を通す。娘双葉の親友に高校編入組である二年五組の写真部の島津若子がいる。その繋がりから、写真部の師弟関係に華族組の三年七組に尊い二之宮鶴子様がいる。その近しい御縁と、俺が阿里邑早百合東京都知事と懇意であるのは幾つも対談で拝見しているので、どうか絆を第一に心穏やかに聞いて欲しいと。私の妹伊集院美鈴と伊達一巡とはご縁が有り婚約に至りました。結婚は今年度中、披露宴はコロノ禍の様相を鑑みて規模を模索中です。一部の周辺は賑やかになるでしょうから、重々の配慮を貰いたいと。

 心地良いソファーなのに、何故汗がびっしょり出たのか不思議だが、その阿里邑早百合都知事の悲しみの眼差しが過ぎり、俺は拳が震えながら迸った。


「何故です、伊達一巡の恋人は、皆の慈悲があればこその掛け持ち5人は伏せられています。既出阿里邑早百合に、そう、元競泳メダリストに、料理研究家に、気鋭の下着デザイナーに。カーリーのシンガーソングライターの何れでもないとは、あなた方は一体どんな下衆の集まりなんですか、伊達家に伊集院家は。到底無事に円満解消したとはとても信じ難い。若造は、この名前の出せない5人は境遇を分かりつつも付き合っていたのだから、その愛情は深海に届く程に深い筈なのに、あいつは、ふざけるのも大概にして下さい。伊集院さん、敢えて言いましょう、伊達一巡が幸せにすべきなのは、慎ましやかな阿里邑早百合一人なのですよ、それを、」

「黒川さん、それもまた濃い絆が生まれれば、どうしても最優先されるべき事は有ります。或る方が仰います。美鈴さんと一巡さんを見ていると微笑ましいです、このままずっと見ていたいですと。私も悔しくもそう思う時が有ります」

「何かを分かり切ってる事を言わなくて結構です。横串の強い言葉のそれならば、伊集院さんも反対すべきです。そんな古めかし名家の繋がりで、他人、いや皆を律して不幸にすべきではないですよね」

「黒川さん、それはごもっともです。ですが、昔の慣いで言う勅命であれば如何ですか。改正皇位継承権実質5番目の二之宮鶴子様の御意向ならば、我々はただ深く額を床に合わせる以外有りません。ここをどうにか御理解貰いたいのです。象徴天皇制が根付いてしまったこの日本国で、この絆の倫理を深く理解出来る方は少なくなってしまいました。ですが、黒川さんならば、今日に至った絆の経緯を踏まえて御理解と根回しをして貰えるものと存じます」


 その恐れ多い目眩を何とか揺すり上げ、改めて伊集院加寿の話を深く聞く事になる。

 まず妹伊集院美鈴とはから始まる。方々と同じく習養院エスカレーター出身で、大学卒業後はニューヨーク修行経てフリーランスライターとなるも、これと言った記事は名家探報の実直な記事で日々ファン層を広げるも、キャリアに見合った仕事では無いのが、伊集院家は勿論島津本家の評判と。ここで先細りを心配した島津本家が、皇室二之宮鶴子様の守役のお話を打診しては快諾するしか無かった。守役である以上身の回り全般のお世話になるが、実質時間の融通の利くフリーライター妹伊集院美鈴にやや重きが置かれる様になるのは自然の流れだった。

 そして、自然派嗜好の強い皇室の影響で二之宮鶴子様のカメラ熱は成長と共に腕が上がり、習養院中学校に上がってからは随伴有りきでお忍び撮影旅行が解禁となった。


 その絆の始まりがここからになる。3年前よりの北海道道東での丹頂鶴の厳冬の写真撮影に及び、そのメンバーは名カメラマン二之宮鶴子様・当時鹿児島在住の御学友島津若子・守役伊集院美鈴・お忍び案内役伊達一巡の四人で、伊達一巡の最新の国産SUVに乗っては奮戦し、俺でもはっとする習養院展示会での写真パネルの幾つもを見たのはそう言う事情だったのかになる。

 この3年の期間に、伊達一巡が容姿端麗であろうの伊集院美鈴にちょっかいを出さないのが不思議に思ったが、そこは仮にも皇室の役目の守役に光源氏以外に誰が手を付けますかで、それはそうかになる。

 ただ、2020年冬のコロノ禍第一波が世界に波及し始めてから、丹頂鶴の厳冬の写真撮影はただの一度限りになってしまい、二之宮鶴子様純粋な思いが日に日に馳せてきたと。美鈴さんと一巡さんのお二人を見ているとほっこりします、お二人は寄り添うべきでは有りませんかが、宮城内の閑談のついの定番になったと。当然伊達一巡の無節操振りは、鶴子様の耳元には届かない様には万全の配慮がされている。但し、それも綻びを迎えようとしていた。5股発覚以前に、伊達一巡の新生内閣入りの噂が真実味を帯びてきたので身辺整理今こそになった。それならばと本腰を入れたのが宮城で、伊達一巡と伊集院美鈴の良縁今直ぐと華族界隈が賑やかに至ったと。

 俺は伊集院加寿に迫った、何故お断りをしなかったと。当然伊達一巡の不潔さはもっともも表向きそれを取り上げる訳にも行かず、伊集院美鈴はフリーランスライターと風采の上がらない事から、伊達家の家格にそぐわないとお断りは当然したと。だがそれも島津本家が介入して来ては、勅命をぞんざいにするとは不届き千万で島津一族が大いに割れては一騒動とも。その騒動に透かさず二之宮鶴子様が介入する。その二人の置きどころが自然で佇まいが豊かなのに、家格とは如何なる不作法かの、静やかな叱咤が大きな波紋を打ち、全華族から伊達一巡への一点打診で伊達一巡が全てを飲まざるを得なかったと。それでもはの小さな声は消えなかったが、それもこの先々の生死の定まらぬ世界の趨勢から、二之宮鶴子様の改正皇位継承権実質5番目が何処までも上がり兼ねない事を憂いえれば、やがて俺もただ深い沈黙で思考に明け暮れ、止む得ずを一次解として、その場を別れた。


 そして目の前の演壇には、若造らしからぬ洒脱さではきと答える伊達一巡が非常に忌々しく、俺は堪らず均衡崩し兼ねない質疑を空読みをした。当然強烈な圧力は入るだろう、左遷、解雇、フリーを考えざるないが、それで黒川家を養っていけるかどうかは、妻の果林ならば一巡なんなのでお好きにだろうが、双葉の方はまあその時になったら物分かり良く転校してくれる事だろうから。

 意を決して大振りに真上に手を挙げては、片眉の上がった辻本伊織官房長官から指名を受けた。


「東海快速新聞の黒川鉄平です。伊達一巡総理大臣もお尋ねします。つい小耳に挟んでしまったのですが、伊達一巡総理大臣は何でも婚約されており、そのお相手が相当な容姿端麗とお聞きしますが、これは深くお聞きして良いお話なのでしょうか」

「ああ、これは鉄平さんになるのか、いや、そう行ってこう行って突き当たりに辿り着くと、ああ成る程、御質問の私事の婚約ですが、無事2月11日の大安に終えました。婚約発表が遅れました事は、取り急ぎ新生内閣の準備も有りましたし、何より忙しすぎるし、御時世でブライダルの手配も綺麗さっぱりなので、婚約指輪でさえも間に合っていません。それでは何故婚約したかは、婚約者伊集院美鈴さん曰く桜が咲く散らないでは、その思い出しかないですよで、意を汲んで先んじて婚約させて貰いました。実に良いと思います。ああ、やっと名前かですよね。婚約者伊集院美鈴さん32歳、7歳差程は適度な距離感があって良いと皆が口々に言われます。彼女はフリーランスライターの生業を主に従事し、ある方の御世話を共に行っては、3年に渡る御縁から周りから押されての運びになります。趣味は剣道、ここ時間が合えば朝練を一緒にします。特技は英語、と本人は言いますがその笑顔を一度はで皆が幸せになります。と、何かハードルどんどん上がってるな、ああ2ショット写真があるので、これにしましょう」


 伊達一巡は懐から写真を取り出し掲げた。遠くてよく見えないが、雪原、二人、大はしゃぎは雰囲気で分かる。ここで察しよく入った辻本伊織官房長官と伊達一巡総理大臣が写真の取り合いになるが、辻本伊織官房長官が伊達一巡総理大臣のおでこを三度ピシャリしては写真を鮮やかに奪い取った。その2ショット写真は瞬息で正面脇のスクリーンに大きく投影された。

 それはどうしてもの北海道の雪原で、近距離で雪玉を無邪気に放り投げ合う二人が、伊達一巡と伊集院美鈴になる。まずい、これはまずい。実に等身大でいられる二人の関係は、若造が背伸びしたがる恋愛紛いのそれではない自然さだ。ただ直感のままに感じた。5股何れもの清算は半ばと思うが、この写真を見せられると、自ら終止符を打つ以外の無い仕儀になろう。肝心なのは、その類稀な2ショット写真の撮影者は二之宮鶴子様に他ならないであろう。その刹那の瞬きを写し取るなんて、二人の深い心情を知ればこそだ。掛け替えのない生涯の相方はどうしてもいる、その深く底で繋がっている赤い糸を、二之宮鶴子様その御年で窺い知り得るなんて、思っている以上に大きな器に違いない。そして俺はやっと気まずい思いが去来した。この俺は踏んではいけない虎の尾を踏んでしまったが、もはやだ。そこで手を差し伸べたのが、恐らく人事の何もかもを知ってる大参謀の辻本伊織官房長官だ。


「やれやれですよ。全く、黒川さんの質疑がなければ、折に触れて写真を見ては腑抜けになってる伊達一巡を、今日こそはと鞭を入れて気合を入れるところでした。さて、ここでご案内させて貰います。明々後日4月7日のスケジュールを差し込みます。同日14時00分に総理大臣公邸からのオンラインで、伊達一巡と伊集院美鈴の婚約会見を行います。そしてこの日迄に速やかに二人の居住まいの引っ越しを行い、お気に入りの婚約指輪も抜かりなく仕上げる所存です。ここに新生内閣の威信の術を投入する所存ですので、是非の御意見があれば私辻本伊織に熱い御提案お願い申し上げます」


 恐らく、この機微で俺の窮地は脱した。それにしてもの鮮明な2ショット写真をスクリーンでつい長く眺めてしまう。堪らず背後のカメラマン席の龍一に視線を送るが、龍一は渾身のサムズアップで返す。どうやらカメラマン二之宮鶴子様の前途はかなり有望らしい。


 不意にいつものスマートフォンの着信バイブに戦慄が走った。昨日から何百回も震えているが、一々相手にしてたら、俺の記事推敲時間が削られるので全て後回しにしていた。俺は恐る恐るこの抜群のタイミングで来た、着信の入ったスマートフォンを潔く左ポケットから抜いた。それは他ならぬ、いや潔い気持ちの切り替えのそれしかない阿里邑早百合都知事からだった。


『送信者:阿里邑早百合都知事』

『件名:阿里邑早百合を支える会を明日夜開催』

『内容:察しの良い鉄平さんなら、このタイミングのショートメールを必ずや読んで貰えると思います。この第四波到来の折に集って「阿里邑早百合を支える会」とは甚だ不謹慎では有りますが、私の一大事の前ではル・アーヴル型コロノウイルス感染症も素通りしてくれる事でしょう。会場はここしかない隠れ家のバー弓張月。開催日は明日4月6日。時間は大雑把に夜の集合次第。会費は3時間の税込3500円。参加者は少数精鋭で、支える会と明文化し比重を重くしている以上、どこをどう嗅ぎつけてかの励ます参加者は来ないと思われますので気兼ねなくご参加下さい。もっとも、私の取り扱いは本気の本気でお手柔らかにお願いしますね。』


 分かっている。阿里邑早百合都知事は普段の軽快さを装っているものの、これだけでは無い。もう今年に入ってからはしっかりパンツも履いて、女性らしいヒステリーもうっすら垣間見えた。俺はどうしても悲恋に傾かざる得ない伊達一巡との終焉も近いかと、全ての恋愛関係の一切の対話は避けてきた。

 阿里邑早百合都知事の変容は何かと、同期の咲坂湊芸能部課長に問い詰めたところ、5股の恋人とは不定期週特定曜日の会食はあるが逢瀬がぱたと止まったと。若造上がりも、とうとう中年で中折れになったかも。そうではなく得意の変装して会話の幾つか拾ったけど、会話が以前程弾まなくて大きな清算中でしょうねと。その時の俺は、悲恋であろうも一縷の望みで、最有力候補の阿里邑早百合に絞って、等しく操を立て始めたのだろうしかなかったが、湊の嗅覚はどうしても鋭敏だったらしい。急転直下のそれを兄伊集院加寿から妹伊集院美鈴との婚約を聞いたが、チャラいは男気のある伊達一巡なら、それでも深く繋がれた阿里邑早百合を選ぶとずっと思っていた。そう、俺のこの唐突な質疑は、どうしても伊達一巡はその何もかもを振り切り、阿里邑早百合を選ぶと宣言するかと思ったが、血筋御曹司はさておき、雪原の2ショット写真のナチュラルさを見たら、ただただ良縁の二人に深く同意せざる得なかった。結婚とはただ自然な程が、何かをきっかけに諍いになっても、深くは傷付けはしないのだから。

 ただおめでとうで湧いてる会見場であっても、俺は阿里邑早百合を支える会参加の返信のショートメールを考えている。差し障りが無いのは新生内閣徹夜二日会見で精魂尽き果てて行けそうに有りませんだが。明日の夜には回復してるでしょうのただタフの押し売りで言い含められる。ならば参加なのだが、添える言葉が十通り浮かぶが、それでは望むべくも無い励ます会の文言になってしまう。そしてこれしか無い一文を丹念に組み上げた。娘双葉が2021 Only TOKYO Olympic仕様のミサンガをリハビリで作っていますので、喜んでお持ちします。きっと言い事有りますよ。俺は困った時の家族をと、安易に使って良いかが過ぎったが、今の阿里邑早百合ならば喜ぶと思った。さて、新生内閣就任会見が終わったら、真っ先に家に帰ってリモートワークする前に、阿里邑早百合の分のミサンガを、双葉に頼み込むしかない。ああでも双葉への説明で、大人の世界を垣間見せて良いかどうかになるが、それを超えてこその愛がどうしてもあると、どうか切実に悟って貰いたものだ。

 そして不意に、野放しにしていたスマートフォンの画面に、妻果林の通知が踊り、何事かとショートメール開いた。そこには『絶対に見なさい』の短か過ぎる一文とSNSの動画URLだった。画面は娘双葉が必死にリリアンセットを編むサムネイルがそこに、まさか。

 俺は、居ても立っても居られず、厳つい眼力のままに辻本伊織官房長官に視線を送ると、どうしても届いて察せられた。


「皆さんお静かに、賑やかなパーティーはこれにて終了です。どうか時節を弁えて下さい。これにて伊達一巡総理大臣の就任記者会見を終了します。皆様の熱い声援は確かに届いており、今後もご愛顧のほどをお願い申し上げます。尚公開映像会見は伊達一巡総理大臣のみになりますが、これ迄の非公開の新任諸大臣の記事は、何卒記者様一同と擦り合わせて確認の上に掲載をお願い致します。皆様には長い御時間の拘束に深い謝辞を持って終わらせて頂きます」


 と同時に、スマートフォンのSNSの動画URLを居ても立っても居られないずタッチした。娘双葉が嬉々と、今では慣れた右手片手でリリアン棒を繰り出しながら微笑んでいる。


「…そう、お母さんから来るわよで聞いたよ。今、都合8度目の発注の2021 Only TOKYO Olympic仕様のミサンガね。小百合さんは公務多めだから、紅白の編み込みで良いよね。まあ大人って難しいよね。可愛そうとかどうとかではなくて、生きてると、別れも出会いはどうしてもあるよね。なんてね、お父さんの最近の、八方美人は本当ダメだからね。そういうの私は嫌いかな、そう嫌い。それじゃあ、照れずに帰って来てね。じゃあね、バイバイ、」


 おおおー。と俺の声は官邸会見場の隅々に響き、俺は仰け反っては机付きの記者席が横倒しになった。俺は俺に嘆いた、俺はいつから迎合した大人になっていやがったんだ。家族が出来ても、変わらないな鉄平はだったのに。ああ分かってる、この手の八方美人がこそが、多くの人間を傷つける、それを愛おしい娘双葉から諭されるなて、俺はだ、ただ恥ずかしく、嗚咽しか出ない。

 察した丸ちゃん事丸富勇市が、集まって来る皆を丁寧に宥めている。鉄平のこれは、家族からお仕事ご苦労様の通知見たようですから、俺達も早々に擦り合わせて家族も元に帰りましょう、もうひと頑張りですよで、万雷の拍手が起こった。

 ただ、倒れた俺のスマートフォンを鮮やかに奪って、感動の動画をリピートする顔が漸く涙のちょちょ切れた向こうから見えやがった。

 小生意気な若造伊達一巡がほざく。


「へえ、鉄平さん、これ凄く良いですよ、俺にも下さいよ」


 貴様、の言葉さえ出ずに俺の咆哮が唸った。俺は本気の本気で、若造ぶりを使い分ける貴様、伊達一巡が心底嫌いだ。


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