第2話 2020年7月21日 ウルトラワクチン 

 その一週間前より国会記者会館は、会う度に信憑性が掴めない噂が飛び交っていた。新型コロノウイルスのワクチン及び治療薬が出来たとかである。

 俺の頭をただ過ぎったのは告発文の万能殺鼠剤の化学式のあれなのかであるが、どうもそれでは無く。見識のある科学者若しくは大手化学研究所の製造らしかった。効能は幾つか流通している製薬よりは分があるのみであったが、この明日も見えない状況では縋りたくなるのが情であろう。


 そして目の前の、ここ総理官邸の記者会見場の御子柴大綱総理大臣が定例会見で誇らしげに切り出す。会見場の感嘆は二度も漏らす。


「ここは大切な所なので、もう一度言いましょう。新型コロノウイルス感染症正式名COVID-219のワクチンが、三船栄一郎有効財団病理学研究所名誉所長枚田照明によって恐るべきスピードで精査開発され、全世界の製薬プラントを第一優先にしては生産しております。このCOVID-219 Anti-vaccine type H02 通称ウルトラワクチンは、まずは手始めとして日本国の健康保険に加入している全日本国人全てに無償でワクチンを接種して頂き、再感染再々感染の徹底阻止に到りたい所存です。これでスペイン風邪の様な波状流行は妨げる筈です。皆さん大変お待たせ致しました。これで新型コロノウイルス感染症に徹底勝利出来ます」


 そして、お決まりの御子柴総理大臣への15分質問が始まる。ここで先陣を切る一番手は俺のいる東海快速新聞である。御子柴総理大臣に対する徹底忠義は無いが、発言する解答がいつも空回りなので、補筆していたらお気に入りにされてしまった様だ。ここは善意に甘えさせて貰う。


「御子柴総理大臣、ウルトラワクチンの接種は非常に有り難いのですが、副作用は無いのでしょうか」

「東海快速新聞の黒川さん、非常に適切な質問です。ウルトラワクチンの検体は勿論、人体への浸潤は大手IT企業の量子コンピュータのAIを用いて推計をしましたが、老若男女妊婦に何ら変体も副作用も齎らしませんでした。これは人類の願って止まなかった福音と言えます」


 俺は思ったが言えなかった。そんな医学の天才がいるなら、何故今日ここ迄手こずってしまったのだろうと。また過ぎったのは告発文で読んだ万能殺鼠剤の効能だ。そのウルトラワクチンすらも凌駕するのが人類1/5まで推定感染した新型コロノウイルスでは無いのかと。


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