情報収集はクエストの基本、古事記にも書いてある


 颯爽と飛び出したはいいけど、どうすればナントカ盗賊団に会えるのだろうか?


 そこらへんを聞いてくるのを忘れてた。


 前の狼の時みたいに闇雲に森の中を探し回ってもなぁ。人相手ならば痕跡とか消されて、さらに時間がかかるかもしれない。


「どうしたものかな」


「お困りのようだなラティくん」


 あとから追いかけて来たジークさんがカッコつけた感じで聞いてくる。


「困ってますね。ジークさんってパーティメンバーがちょっと遅くて……」


「イマここにいるよね!?がんばって追いかけてきたよね!?」


「パーティとして親睦を深めるためのジョークですよ。本当はナントカ盗賊団ってどこにいるのかな?って考えてたんです。」


「あんまりイジメないでね?」


 両手を合わせて上目遣いにお願いしてくるおっさん。きっつい。

 次パーティー組むなら絶対に女の子と組もう。


 渋面を作るぼくに満足したように笑うと、にこやかに解決策を教えてくれた。


「こういう討伐対象の情報はギルドで聞いてみるのが定番じゃないかな?」


 なるほど、ギルドか。


「情報有りそうですね、聞きに行きましょう」



_______________________


 ギルドのガヤガヤとした雰囲気はこの町でも健在なようで、カウンターでやり取りをするNPCもいた。


 それらを尻目にギルドの異邦人プレイヤー用の受付を目指して歩く。


 が、ガチャガチャと鳴るばかりでノブが回らない。


「あれ?」


「どうした、ラティくん?壊した?」


「いや、開かないんですよ。おっかしーな。」


 こんなことは今までなかったから少し焦る。またバグやエラーかと身構えるぼくたちに声がかかる。


「すみません、そちらの窓口は係の者が今は休憩中ですのでコチラでご要件をお伺いします。」


 見やると眼鏡の受付さんがおずおずと手を上げて呼んでいる。


 レジスタさん達NPCに休憩なんてないと思う。これは、こういうイベントなのだろうか。


「お!よかった、対応してもらおうじゃないの」


 軽い調子で返すジークさんに頷き、眼鏡さんにお話を聞いてみることにした。

 通された窓口で情報を聞こうとする。


「バ、バル……なんとか盗賊団の情報が欲しいんです。」


 ぼくが名前を思い出せないでいると、ジークさんが助け舟を出してくれた。


「『バルバロッサ盗賊団』ね。どこら辺に出没するかとか何でもいいから情報をくれないかな?」


 盗賊団についての事を尋ねると深刻そうな顔をされた。

 そうして声を潜めるように、シッと指を立てられた。


「その名をどこで……あまり大きな声で言わないでください。ギルドにある情報はお話しますので。」


 なんでも、この盗賊団は過去二回も町の兵士による討伐隊が組まれているがどちらも退けてしまったそうだ。

 死傷者も多く、その名をこの街で出すのは兵士にとって屈辱的な大敗を思い起こさせるものだ。


 今は大きな街の兵士を借り受ける為に町長が東奔西走しているところらしい。


 アジトの場所などもおおよその目星はついているようで、襲いに行きたいと言うと快く教えてくれた。


「話が早くて助かりますね」


「そうだね、だけど。アジトの位置が分かってるのに倒せないなんてよほど強いのか……」


 神妙な顔をしながら、そっとギルドの出口へジークさんは歩き出す、


「よし!そんな悪い盗賊達は急いで倒さないとだな!」


 まるで盗塁を狙うかのように不自然に出口へ向かっていたが、一気に駆け出した。


「急がないといけないのに、今度はラティくんが遅くておじさん困るかもなぁ!わっはっは!」


 さっきの意趣返しのつもり!?

 子供かよ?!


 遠くから聞こえる「お先にー!」の声。

 あのこどもおじさんの仲間だと思われたくないなぁ……


 まぁ、ジークさんはほっとくとして。


「どんな感じで街の兵士がやられたか、どんな人が盗賊団の被害にあったか、教えてくれませんか?」


 ぼくは眼鏡さんに向き直り、質問を続けた。真面目に情報収集しますかね。


「さっきまでのバーサクっぷりはどうしたの?」


「?エルは何を言ってるんだ?ぼくはいつも理性的だよ?」


「変なボケやめて、理性の定義壊れる」


 なんかエルが言ってるけど、その後眼鏡さんからいくつか面白い情報を聴くことが出来た。

 ジークさんからはだいぶ出遅れたけど。


「ぼくの分の敵って、パーティー組んでたら取られたりするのかな……取られたら腹いせにジークさんを殺そう。」


「……理性とは?」


 少し急いで、ジークさんの後を追うことにした。



_______________________


 大きな街道から少し外れた森の中、古い炭鉱。

 そこの周囲は森に人の手が入っていて、潜伏するには都合がいい。『バルバロッサ盗賊団』のアジトのある可能性が高いと、眼鏡の受付嬢さんは言っていた。


「やっぱりここらへんっぽいな」


 森の中では異彩を放つ鎧の男がつぶやく。足元には草で隠された、鳴子と呼ばれる警報装置があった。


 ひょいと跨ぎ、その先も注意深く観察しながら進む。


「スニーキングミッションって、いっつも見つかって力押ししてたなぁ……」


 ずんずんと前へ前へと進む男は、鳴子に気を付けているものの足取りに迷いはなく。『バレても別に構わない』という態度。


 白を基調にした勇者のような鎧は森では、やたらと目立つ格好を隠していないことからも明らかだ。


 街の中で装備していた目立たない外套マントは、赤地に金の刺繍ししゅうの入った物とえられている。ちなみに特別な効果は無い。カッコイイ事と切れにくく、燃えにくい生地なのが取り柄だ。


「ラティくん遅いなぁ……」


『ワレら、ハヤい。オソいの、ワルい。』


 魔剣の声が頭に響く。早い者勝ちとして最初の攻撃はもらうつもりだった。

 しかし、取りすぎると怒られるかもしれない。いや、怒るだろう。

 あれほどウキウキしてたのだから、なるべくは残しておかないと。


 鳴子の多くある方へと進んでいく。


 遠目に洞窟のようなものが見えてきた。例の炭鉱跡か。

 分かりやすく見張りのようなヤツラが気怠けだるそうに駄弁っている。


 左右を見渡し、逡巡する。


「ラティくんには悪いけど、宣言通りに……」


 シャラリと鞘から黒水晶のような刀身を持つ魔剣が抜かれる。


「先にっちゃおうかな?」


 さっきまで覇気のなかなった顔に仄暗い笑みが浮かぶ間際。


 ドンッと大きな音が森の木々を揺らす。ジークの上をが通り過ぎた。


「お努めご苦労さまァァァぁあ!!!!」


 唐突に空から降ってきた


 グシャリと黒い異形の腕が、虫でも潰すかのような躊躇ためらいの無さで振り下ろされた!


 駄弁っていた相方の盗賊は、あまりに突然な仲間の死に呆然としている。


「やったな、キミもこれで労働とオサラバだぜっ!!!」


 にこやかに、繰り出される槍の刺突が呆然と開かれていた口へと差し込まれる。刺突は延髄を正確かつ、乱雑にぶち抜く。盛大な出血と凄惨な絵面の割に、静かに盗賊は息絶えた。


「ふぅっ……一番乗りかな?ジークさんが遅いのが悪いし、先にいこう!」


「……待とうよ!」


 先に行く宣言をしたはずだが、男は律儀な性格をした大人だった。


「え?」


 振り返る少年はテラテラと血でぬめる腕を笑顔で見ながら言い放つ。


獲物おいしいものは待ってくれないんです。すぐに誰かの口の中なのです。」


 後からやってきた少年は、もっと幼い子供のような無邪気さで返してきた。


「……それ、グ○メレースだろ?なんで今の子が知ってるの?」


「面白いネタがあれば多少古くても吸収するんです、温故知新ですね。」


「さいですか」


 抜いた剣を握りしめ直して男は笑う。


「じゃあレースしようじゃないの、エアライドで鍛え上げたおじさんの速さ魅せてやるぜ」


 その笑みは、子供クソガキのようだった。

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