魔勇同パ
おっさん改め『Zeke』さんと共に教会を後にした。
別に示し合わせたわけではないけれど、街を出てからの進路が同じだ。
何故なら二人共、掌に導きの紋章を出しているから。
とっさに人目を避けて教会を飛び出した。しかし、闇雲に逃げるよりもせっかくだからクエストも進めたい。
恐らく同じ考えに至ってるから、同じ進路なのだろう。
「追われてる人と逃げると余計めだっちゃうじゃないですか。イベント
「おまっ!そういうラティくんこそ、別方向行きたまえよ!
というか、気絶させられた間に優勝者にされたのなんで?!
おじさんに詳しく状況教えてよ!
負けたと思ってたのに次、目が覚めたら優勝扱いされてて訳が分かんないから!」
あ、そういえば
んで、ぼくが自分の勝負に茶々いれられたことにキレて優勝するのやめたから、ジークさんには何が何だか分かんないのか。
しかも、撮影用っぽかったオブジェクトに叩き付けて壊したりしたし。
「色々あって降参した感じです、ユウシャサマツヨーイって」
「棒読みやめろよ!煽ってんの?!」
「よくわかりましたね!」
「ひどいっ?!」
さめざめと泣き真似をする勇者(笑)を無視して導きに従って走る。
泣き真似をやめてすぐに併走してきた。
チッ 置いていけると思ったのに。
_______________________
『導き』に従って進んだ先は、町の端っこのボロ……趣深い家だった。
ジークさんより先にクエストを受けてしまおうとドアをくぐったときにソレは起きた。
「じゃ、先に受けちゃいますね」
今までの流れから、このドアもレジスタさんやメイカさんのとこのような空間だと思う。
前のチュリムス村がそうだったように、きっとクエストは個々人でやる事を想定してる気がする。
ドアが閉まってしまえば、次はすぐにジークさんも受けれるはずだ。
が、その閉じるドアに手がかかった。
「ちょっと、おじさんをおいてかないでよー」
ぼくが開けてくぐったドアをそのままジークさんがひょいと通ってきた。
現実なら別になんてことはない事だけど、ココはゲームの世界だ。
本来なら個人のエリアにドアを隔てて分かれる場面なのに、乱入された形になってしまった。
……これどうなるの?
クエストの依頼人と思われる揺り椅子に腰掛けたおじいちゃんのNPCが、ぼくとジークさんの間で視線を行ったり来たりさせてる。それはもう、行ったり来たり……
……だんだんと速度が上がってきた!?
首がもげそうな速度でぼくとジークさんに視線を往復させる様ははっきり言ってホラーだ。
明らかにバグってる……
「ちょっとタイム!」
バサリと白衣を翻しながら、アンドレイがバァンッと奥の扉から出てきた。
おじいちゃんNPCは時間が止まったように停止している。
「個々のプレイヤーとして行動するなら、入室の順番を守って下さい!」
ジークさんに指をビシッ指して注意する姿はコミカルで『創造神』を名乗るあっちのアンドレイとは別物の方だと分かる。
「パーティ組んでるなら、同じクエストを同時に受けれるように処理出来るがね!
全くの意識外の人間が同時にドアくぐると
珍しく、まくしたてるように話す。
もっと余裕のあるキャラをしてる筈なのにイレギュラーに弱いのかな?
「ほんとやめて!」
『ぷんすこ』という感じで注意を促す。
これにはジークさんも困り顔で頭を下げる。
「いや、ごめんなさい。ちょっとラティくんへの競争心から追いかけちゃいました……」
「夢を利用してるこの
健康被害とか出して発売禁止とか喰らいたくないの!切実に!」
すごい真面目な理由だった。行政にはマッドサイエンティストも勝てないのか……
「どうしよっかなー、もう……巻き戻して再処理し直すか……二人分の処理を分けてから……」
ぶつぶつと解決方法を模索するアンドレイにジークさんが提案する。
「ならラティくんと自分をパーティにして処理すればいいんじゃないですか?
それなら同時処理出来るんですよね?」
処理としてはなんの問題も無いのかな?戦力としては申し分ないだろうし組んでも悪くはないと思う。
が、口では文句を言っとこう。ジークさんだし。
「えー、ジークさんと?」
「お願いしますよー」
両手を合わせて、横から顔を出すように『お願い』のポーズをキメてくる。
そういうあざといポーズは美少女がやるから意味があるんだぞ!
「まぁ、ソロにこだわりがあるわけでもないし……
アンドレイ、クエストの報酬が少なくなるとか何かデメリットはないかな?」
「ストーリークエスト用のクリア報酬はプレイヤー全員分にあるから進行上のデメリットはないよ。」
ならいっかな。
「いいですよ、パーティ組みましょう」
「ありがとう!」
「私からも礼を言おう、それなら簡単な処理で済む」
『システムメッセージ:『Zeke』とパーティを組みました』
ほんとにすぐに処理したみたいだ。
ここに前回会ったときは戦っていたぼく達のパーティが結成された。
魔物っぽいプレイヤーのぼくと勇者っぽいジークさん、呉越同舟ならぬ魔勇同パとでもいうべきだろうか。
「これで、時間停止が解除されたらストーリークエストのおじいさんがクエストを二人に対して出してくれるから。ま、後はテキトーに頑張ってくれたまえ」
現れたときの唐突さのまま、裏口のドアからアンドレイは退出した。
息を吹き返すようにおじいちゃんのNPCが動き出し、ぼく達二人を落ち着いて見てきてこう言った。
「邪神の使徒様とお見受け致します。どうか、導きのままに私の願いを聞き入れて頂けないでしょうか?」
『【メインクエスト02 邪神の使徒】を発見しました。』
おぉー、このおじいちゃんのお願いを聞いてあげるのか。
ジークさんと顔を見合わせ、頷く。
「はい、二人でその願いを叶えてあげたいと思います。」
ジークさんが代表して、クエスト受領の意思の乗った言葉が紡がれる。
おじいちゃんは目を見開き、感涙にむせぶ。
「おぉ!邪神の使徒様!ありがとうございます……」
そうして、揺り椅子からヨロヨロと立ち上がると戸棚から古い小さな箱を2つ取り出した。
横にザラザラした質感のある引き出しできる紙の箱……あ、マッチ箱だ。
「これは『追憶の灯し火』と呼ばれるモノになります。これを使うことで使徒様たちの『導きの書』に追憶が刻まれると、先祖より言い伝えられております。」
スッと見せるだけ見せて懐に『追憶の灯し火』をしまい込んだ。
「今回の願いを叶えて下されば差し上げましょう。」
なるほど、メインクエって『導きの書』の導きに従うだけじゃ不完全で『追憶の灯し火』でアップデートを繰り返して物語を知りながら神殺しを頑張るストーリーなのか。
それはさておき、どんな依頼をされるのかな。
前が討伐だから今度はお使いとかかな?ストーリーも02と序盤だ「息子の、息子の仇を討ってくださいっ!」し……おっと、討伐か。
どんなモンスターか「息子の仇、『バルバロッサ盗賊団』に地獄を見せてくださいっ!」な……なるほど、そういう
さっきまでの揺り椅子に座って穏やかな様子だったおじいちゃんはもういなかった。
椅子の肘置きを爪が割れんばかりに握りしめ、目を血走らせる復讐の鬼がいた。
涙のあとが残る瞳は狂気を宿し、
「息子は行商人で。この町、『ウィザーム』と『コルチェストゥス』を行き来しながら町と街の間にある村落へと物を売っていました。
仕事ぶりも真面目で、ぼったくることもなく常に適正価格をモットーにするような馬鹿正直者で。商売人としてはともかく、人としては間違いなく自慢の息子でした……」
語りながらそっと窓辺に視線を動かす、その先には『小太りだけど純朴そうなおじちゃん』と目の前のおじいちゃんが並んで写る写真があった。
荷馬車が写っているから商人になった日とか、何か記念で撮ったものなのかもしれない。
これは、かわいそうだ。
ジークさんが何か言い出す前に、ぼくはおじいちゃんの手を取り応える。
「その願い、必ず叶えますね!一片の慈悲も容赦も無く、その仇どもに地獄を見せてあげます!」
安心させるため微笑みかけた後、ぼくは颯爽とボロ屋を飛び出した。
_______________________
ひょんな事からパーティを組むことになった因縁の相手は、クエスト受領後に飛び出していってしまった。
バタンとドアの閉じた音でジークは我に返った。
「お、おいラティくん置いてかないでよ!」
ドタドタと後を追う為に走りながら、さっきの笑顔を思い浮かべる。
あれは、あの笑顔はまるで……
「壊していい砂場の城を見つけた、無邪気で遠慮容赦のないクソガキの笑顔だったな」
置き去りにした自分の言葉によって、背筋に冷たいものが流れた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます