電脳幻影都市
電脳幻影都市サイヴ。隠された大精霊『電脳乙女(ミライ)』の庇護の下、人間と機械が対等に存在出来る電脳網上の都市。人間がこの都市を訪れるには、専用の装置で脳と電脳網を繋ぐか、個人用端末等の媒体を通して入都する必要がある。しかし、機械は例外だ。彼等は『電脳乙女』の加護があるため、いつでも自由に入都出来る。
「あっハイドラじゃんメズラしー」
「げっテンペスタだ最悪……」
蛍光色、極彩色、どこもかしこも目に痛い色の洪水を纏っている男に絡まれたのは緑青一色の少年。
「なぁなぁハイドラのゴシュジンサマってイマどこにいるの?」
「答える訳ないだろ、常識で物を言えよ」
「オレのゴシュジンサマがサガしてるんだけど」
「尚更答える訳ないだろ、お前は馬鹿か」
緑青のハイドラは嫌そうな表情でそう吐き捨てるが、極彩色のテンペスタは全く気にしていない風だ。羽織っている七色の外套をばさばさとはためかせながら、ハイドラの周りで反復横飛びを繰り返す。
「バカじゃねーし! バカってイったヤツがバカなんだぜ!」
「お前が馬鹿じゃなかったら世の中賢者だらけだな」
「オレも!? オレもケンジャ!? カシコい!?」
「お前は馬鹿だけど」
「ンナー!!」
膝から崩れ落ちたテンペスタの形が更に崩れ、外界での姿――漆黒の翼竜を模した輸送型飛行乗機(ヴィーヴィル)に変わる。サイヴでは、外見の急激な変化など当たり前だ。
「またバカってイった!! ハイドラキラい!! ウソ!! スき!!」
「お前に好かれても困る」
「コマらないで!! オレがハイドラのことスきなのとオナじくらいスきってイって!!」
「端的に言って無理」
「ギー!!」
じたばたと暴れる機体の隙を縫い、立ち去ろうとするハイドラ。それに気づいたテンペスタは、ハイドラの裾を噛んで止める。転びそうになったハイドラは心底嫌そうな表情でテンペスタを見下ろす。
「あっちにフェンリルがいるだろ、そっちに構えよ」
「フェンリルとハナしてたらケルベロスがオコるもん!!」
「お前が会う度にフェンリルを虐めてるからな」
「イジめてねぇし!! ナカヨし!!」
「お前の中ではそうなんだろうな……」
人の姿を模している時にテンペスタの翼で囲い込まれてしまえば、攻撃するしか脱出する方法がない。しかし、攻撃すれば間もなくケルベロスが走って来るだろう。ケルベロスに見つかるのは、ハイドラにとって非常に良くないことだ。
「ンモー!!」
「牛か、離せ」
「ヤダー!!」
「やだじゃねぇよ」
それはそれとして、本当に解放してほしい。ハイドラはそう思いつつ、外界での姿に変わる。テンペスタと比べれば、とても小さな蛇型の機体。身をくねらせれば、翼の間から抜け出せる。
「アー!!」
テンペスタの声を背中に、そのままサイヴを脱け出す。ふ、と意識が戻った先は、「ゴシュジンサマ」の寝床の中だ。涎を垂らして腹も胸も丸出しで寝ている姿は人間の女性としてどうかと思うが、仕方ないなとも思う。
なるべく彼女を起こさないように、出来る限り首を長く伸ばして、ハイドラは毛布の端を噛む。そのまま彼女の体を隠すようにかぶせて、その上でとぐろを巻いて重石の代わりになる。明日彼女が起きたら、拠点を変えるよう進言しようかと悩みつつ、ハイドラもまた眠りに落ちた。
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