おまけ1改造人間マチルダ・マザー5
帰宅してもうこのまま、今日は私が夕飯の準備もしたかったのだけど、頑なに車輪さんはその担当を譲らない。
まぁ、他の家事はさせてくれるからいいのかもしれないのだが、微妙に釈然としない思いなのよね。
食事をしている時に、やけにこちらをジッと見て来るなと思って、心を見透かされたように気まずく感じていたら、こう指摘されたのでドキッとする。
「・・・・・・何かありましたか、空さん。少しいつもと挙動が違うようです」
やはり鋭い所があります、この女史。
どう言ったものか。
「えと、それがですね――」
一応私の力で説明出来る限りの、彼女との遭遇イベントにおける、一方的な会話について話したのだけども。
「――――フム、なるほど。NPGへの報告にあった通りだという訳ですか。あまり観測されることのない現象と言えばいいのか、それとも確固とした存在なのか・・・・・・。ですが近いパターンは過去より観測されているのも事実です」
というと、虚実機関で彼女に出逢った人も幾らかはいる、と?
「そのイニュエンドゥという者かどうかは分かりませんが、原理の使者という単語は古くから伝わっているようです。――そして、フム。魔眼の特性ですか・・・・・・」
魔眼の危険性というか特殊性?
なんか凄く珍しいタイプの魔だって言われた気がしたのだけど。
「ええ。仮に貴方が〝疾走〟と呼んでいる強化付与タイプをスキル1としましょうか。そして〝崩壊〟を2と。スキル1は、恐らくその体内の細胞を崩壊するほどのスピードで活性化させていると思うのです」
そ、それって寿命が縮んじゃうのかな。別にそんなに実感がないので、よく分かってないんだよなぁ。
「ええ。まぁ、細胞を早くに老化させてしまうのは事実だと思っておいた方が無難でしょう。ですから、反転現象に転じてしまえば、確かに貴方自身が非常に危険な存在になるのも本当です。しかし、それは翻せば他者へも付与させられる効果を持つ、運用に気を配り適切に使いこなせれば、反転せずに強力な世界への貢献者になり得るというのを意味します」
そっか。連携がどうこうと、この間言ってたのは、そこに繋がるんだ。色々な物をそうやって強化させたり、または別の用途に使う方法もある、と。
そして反転、ね。
「しかし問題は貴方のその魔眼の特性に、自分以外の対象は崩壊へ導くように、魔眼の自己作用なのか、貴方の自意識にも自然とそうインプットされていることです。ですから――」
一呼吸置いて、車輪さんはこう告げる。
「反転しないように精神状態を保つことを優先し、魔力の運用をもう少し改善することですね。それから空間認識の魔術と操作に加えて、そのスキル1を対象に付加させる技術も確立したい所です。初めは物の強度の強化や投擲武器のスピード向上などですね」
「あの・・・・・・。それは分かったんですけど、そのイニュエンドゥについては、何も調査とかしなくていいんですか?」
「それも私がNPGに報告と対策を仰ぎましょう。ですが、今は不確定要素でもありますし、こちらから出来ることは何もはないでしょう。〝世界〟という単語を持ち出されましても、どういう定義でそれを使っているか、未だ不明確です」
世界というのは、確かに漠然とした言葉だよね。
宇宙的意志とか存在を内包する空間とも定義出来るかもしれないけど、それとも少し違う意味合いでも彼女は使っている節もあったし。
「それに恐らく、あれはこちらから何の対処も出来ない代物です。そのディストーションとやらに認定されれば、もうその人間は消去されるしかないのでしょう。鉛筆で描いた落書きが消しゴムで消されるように」
うーん、ウイルス駆除装置と考えるべきってことなのか。
でもそれにしては、かなりルーズで自由に遊んでる感じで、あの子自体は気楽なんですよねぇ。
「ええ。意志は確立されていると見た方がいいかもしれません。だからこそ、自らの使命を自覚出来るとも言えます。ですから、今私達がすべきは、未だ未成熟な能力者である貴方の育成なのですよ、フィアレス」
あ、またそのコードネーム。食事中なんだし、普通にさっきみたいに空さんって呼んでくれていいのに。
「・・・・・・失礼。どうも偽装時の生活というのにまだ私が慣れていないようですね。以後気をつけます」
「ううん。そんな肩肘張らなくても、自然に出来るように、これからちょっとずつ慣れてくれればいいですよ。突然こっちに来て、まだ勝手も分からないだろうし、戸惑いもあると思うんで」
フルフルと首を振る車輪さん。何か自分で許せない規律があるかのように。
「いえ、それではいけません。機関のエージェントたるもの、どこでも適応しなくては、いつ不要と判断されて処分されるか分かりませんから」
――――そうか。
改造人間だと、それくらいシビアな世界に生きなくちゃいけないのよね。
っていうか、私もそういうポジションに、今はもういるのじゃないかしら。
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