おまけ

おまけ1改造人間マチルダ・マザー1

「へー・・・・・・。それでその女の人と一緒に暮らしてるってワケなんだ?」


 場所は喫茶店〈メガ・ムーン〉。私はついに指導役の改造人間と共同生活をする旨を、ユーリに報告するのと、久しぶりに会いたかった為に、ここで待ち合わせしたのだけど。

 ちなみにあの後、少しして連絡先が郵送で書かれて手紙と共にウチに届いたのだ。


「いいんじゃない。綺麗な女の人がソラは好きなんでしょうし」


 何か気に入らない所があったみたいだ。

 私は別に何もないし、そんな余裕もないからそうやって反論を試みる。

 大体、どこで私のことをそんな風に認識していたのか。


「いやいや、これは浮気とかそんなんじゃないわよ。大体、指導役に来たんであって、それに車輪しゃりんさんは指導に専念してるからさ、ロマンスなんて生まれる隙なんてないんだって」

「車輪さんって言うんだ。へー」

「や。だからね、ユーリ。ホントにこの頃、私かなりしんどい訓練も受けてるんだよ? 魔眼のコントロールももっと上手く使えるようにさせられてるし、〝疾走〟を使ってどれだけ戦闘行動がやれるかとか」

「・・・・・・それは知ってるわよ。魔力の流れは遠くからでも感じてるから。ソラがそんな簡単に、誰かを好きにならない朴念仁の女の子だってこともね。ええ、わたしがある意味特殊だったのよ。恵まれてたわね」


 静かにそう語られると、どういう反応か判断しづらいなぁ。

 困った。最後の恵まれてるっていうのは、誰がだろう?


「でもね。相手がソラに惚れ込むことは、恐らく過去幾らでもあったと思うの」


 それこそ、そんな訳ないでしょうに。こんな空虚な人間を好きになるのなんて、ユーリみたいな物好きだけだと思うわよ。


「そういう物好きを引き寄せる素質があるって言ってるの。ソラはニッチな需要がある上に、その属性の人を集める才能があるはずだとわたしは睨んでるんだから」


 そんなオカルトみたいな話を得意気にされても。

 えー、と苦笑する私にユーリはいい?と指を真上に立ててから、解説者のように語り始める。


「身近なだけで、話を聞いてる限りは、育て親のキミエに、その姉であるカナメ。それから、わたし。これだけじゃなく学校の友達にもかなり隠れファンはいると見てもいいわ」


 高く見積もりすぎじゃないかしら。それに先生を何故カウントするのか。

 後、隠れファンってなに。どこぞの人気アイドルじゃないんだから。


「それに第一、暴虐の赤に気に入られるなんて相当のモノよ? キミエだって親バカ的に貴方のことは、相当秘蔵っ子のように気に入ってたはずだし」


 ああ、そういう意味で。

 そりゃあ確かに成果は期待出来るだろうって、皆言うものね。


「多分、その魔眼がある種の人間を魅了するのよ。それはわたしの目と同じ」

「えーと。それは、ユーリと魔力パスで同期したから?」


 良く分かっていない私がそう聞くと、ユーリは、寧ろそれが心配だとでもいうように首を横に振る。


「いいえ。その魔眼の特性ね。危うい魔力を秘めているから、そういうタイプの人間を集めるの。一つ目の効果の方にその威力は関係していると思うのだけど」


 〝疾走〟、か。

 ユーリが言うには、鼓動を速めてしまうほど、意識を攪乱する働きに近い効果を、私が無意識に他人に掛けているんだとか。


 ああ、だから私に責任あるみたいな批難の目を向けてたんだ。・・・・・・完全に濡れ衣だと思うな。


「で、その女性はどんなタイプ?」


 えと、車輪さんの話に戻ったんだよね。

 どんなタイプって。好きな女性のタイプは?って質問じゃないんだから。


 それに、うーむ。あの人のことは微妙にどう言えばいいのか。


「あー、車輪さんのこと? 桃ノもものき車輪さんっていって、能力の詳細は教えてはくれなかったわよ。当然だけどさ。うーん。どう言えばいいかなぁ」

「なに? 言いにくいこと?」

「そうじゃないわよ。ただ生真面目なんだけど、先生みたいなタイプじゃなくて、我は強くて意見は通すのに、どこか一歩引いたみたいな感じっていうか。自分が部下の立場であるのは譲らないし」

「へー。じゃあ、それからの経過を色々と聞かせて貰いましょうか。ソクラテスみたいに雄弁に弁明をしてくれて構わないわよ」


 やっぱり濡れ衣じゃないの、それ。比喩としてはあまり適していないと思うわよ。

 というか、ユーリが裁判官なのかしら。


 それじゃあ、その裁判官の裁量に全て委ねるしかないか。聞いて貰えばある程度は分かるだろうし。


 とまぁ、そんな感じでユーリに説明する為に、ここ数日の出来事を順番に思い出していったのだった。



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