第8章ラヴァーズ・エンド3

 廃工場の方にやはり濃い気配が密集しているらしい、というレベルではないのではないかってくらい、空中に雨雲よりも酷い黒い渦が。

 あんなに術式がどす黒く展開されているなら、早く何とかしないと恐ろしいことになってしまう。急がないと。


「ええ。あれが完全にこちらに流れ込めば、この町は住民諸ともあの渦に呑み込まれてしまう。いいえ、世界中があれに書き換えられてしまうかも」


 ユーリが移動しながらこちらに頷く。今日ばかりは呑気にしていられないので、私達は走っている。目でアイコンタクトよ。


 廃工場に辿り着くと、そこには黒い修道女が一人立っていた。舞先輩・・・・・・。


「空さん、ユーリ。あなた達があれを止めるというのなら、一時的に我々は協力関係に入ってもいいでしょう。しかし、ああなった以上、こちらもなり振り構わず、概念武装を使わなくてはなりません。それは承知して頂けますよう」


 端的に冷たく告げる先輩。しかし私は口を挟んで抗議をする。


「ちょ、ちょっと待って下さい先輩。ユーリの能力を使えば、あれを解除っていうか消去出来るかもしれないんです。舞先輩が何しようとしてるのか知らないけど、周囲を危険に巻き込むよりは、ユーリのやり方を先にやるのを待って貰えませんか。多分、それでかなりの確率で消去に成功すると思うんで。それだけユーリの力が強いのは、私が間近で見て来ましたから」

「そんな時間は最早ないのですよ、空さん。ですが・・・・・・そうですね。魔女のアビリティなら確かに。ええ、ではそれを展開出来るようサポートしてもいいですが、一度のチャンスと少しの時間の猶予ですよ。いいですね、そちらの魔女も」

「ええ、感謝するわ。必ず成功させてみせるつもりよ。あちらの妨害も激しいでしょうけどね」

「舞先輩――ありがとうございます! 皆で協力すれば、可能性はグンと上がるはずですよ!」


 はあ、と溜め息を吐いて、舞先輩はユーリに同情する言葉を述べる。


「まったく。呑気な空さんと一緒にいると、困った空気に流されますね。魔女のあなたもこういう空虚な人と付き合うと、全く碌なことにはならないと忠告しておきますよ」


 うーむ。私ってそんなに面倒な性格なのかしら。それとも悪い影響を与えるって言いたいのかな。ちょっと失礼じゃないの?


「ふふ。忠告はありがたく受け取るけれど、今のわたしにはソラの言葉は頼もしくしか聞こえないわね。それだけ勇気を貰える楽観論だってあるってことよ」

「――――やはり魔女とはいえ、感化されてしまうようですね。皆、空さんのペースに巻き込まれてしまうようです。・・・・・・それは私も同じかもしれませんが」


 ユーリはやはり私を信頼してくれているからか、悪くは言わない。ただ一緒に戦う決意をしてくれている。それが何より私には救いなのかもしれない。


「もういいですから。早く行きましょう。私への暴言は後で幾らでも聞きますから。先輩がこんなにお説教好きなのも覚悟しておくべきだったなぁ」


 二人は首を縦に振り、急いでその儀式の場に向かうのである。

 私がなんだか足止めしたみたいじゃない。舞先輩の協力を取り付けたのは私でもあるっていうのに。



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