第8章ラヴァーズ・エンド2
しばらくして、私がいつものようにボンヤリと何も考えられずに、ゆったりとしていると、ユーリがようやく起きて来た。もう昼過ぎだから、この魔女にしては遅い起床なんじゃないかしら。
「おはよう、ソラ。その、夕べのアレはちゃんと成功したわ。直に触れたから、ソラの内部にもしっかりと触れちゃったけど・・・・・・」
ああ、ユーリの方も私の記憶を見たんだよね。まぁ、それはお互い様と分かっているから、何も言わないでいよう。
「だってね。素肌の方がガードがなくて、魔術の回路の接続とか、弄るのにちょうどいいのよ? それでなくても、ソラの魔力は微弱だし、魔女と人間の魔術炉の回路を全身接続するなんて初めてだったし」
「いいよ。私は別に嫌じゃなかったし、寧ろ得した気分。こんなに綺麗な魔女さんに好かれて、肌が触れ合ったなんて、ね」
「う。それ言ったら、ソラの方が反則だわ。中身はこんなに歪なのに、小動物みたいな可愛さなのよ?」
うん、と相槌を打つ。下手に刺激しない方が良さそうだと思ったから。
「だってだって、よ。そのスカートもそんなに短い訳じゃないのに、足がバッチリ見えちゃってて、それがとても細くて綺麗なものだから、もう目に毒で。スカートとソックスの間のこの感じ! 後、どうしてかしらね。黒い髪がこんなに綺麗に見えるって、やっぱりアジアンビューティーって言うのかしら。ソラの適切な程良く長い黒髪がホントに黒々としていて、もうそれが神秘みたいで」
興奮していらっしゃる。それにどうも足がどうこう云々は、巷で絶対領域とか呼ばれているものを指しているらしい。そんなに美脚の自信もないけど、そう素直に褒められるのなら、素直に受け取っておくのもいいかもしれない。
「ソラはとにかく可愛いの! だから、だから。死んで欲しくない。壊れて欲しくない。だから、頑張ろう――」
「うん。でも、ユーリはいいの? ホントに弟さんを殺す覚悟は決まってる?」
「っ!」
端的に私も言ってしまったけど、やっぱり彼女には動揺があるみたい。
それを必死に隠して、使命感で戦って来たツケが回って来たって所でしょうね。
「それだけ辛いなら、私の魔眼を存分に使えばいいよ。ユーリの〈ムーン・サファリ〉の方が魔術式を破壊するのには適しているのでしょうけど、私が汚れ役は引き受けてもいいのよ?」
噛み締めるように聞くユーリ。それだけに複雑な心境なんだろう。
でもそうやって儀式までしてしまった以上は、私だって後戻りする気はない。
「ええ、そうね。ソラの魔眼は破格の能力だから、相当に有効なはずよ。でも、大丈夫だと思う。わたしももう覚悟はとっくに決まってたんですもの。それが本当に近づいて来たものだから、少し焦ってるのよ、きっと」
焦り、か。ユーリは早く弟を止めたいんだろう。人を愛する魔女だからこそ、かもしれない。
災害は未然に食い止めて、人々に危害が及ばないに越したことはないから。
「そう。じゃあ、ユーリのいいように作戦を立てて。私はいつでも全力で何でもする決意は出来てるから」
「ソラ・・・・・・。うん、ありがとう。これはわたしの私的な戦いなのに、多くの人を巻き込んで悪いと思ってる。でも、一緒に戦ってくれるなら。一緒にいてくれるなら。信じてわたしも背中を預けて、万全に力を振るえるってものよ」
良かった。もういつもの毅然としたユーリだ。これなら、肝心な時に手が止まるってこともないでしょう。
私も正念場だと理解しているからこそ、二人で力を合わせてやらないと、って分かってる。
しかもキチンと同期されてる魔力の線が最大限に発揮されるようにする為にも、精神も安定して、お互いが同調している必要もあるだろうから。
「いいわよ。じゃあユーリの能力で、シン・クライムの固有魔術式を解除しましょう。それの手伝いはどれだけ過酷でもやり切ってみせるわ」
「ありがとう、ソラ。わたしもあの子の暴走した魔術式がどれだけ危ないものになってるか、もうあまり分からないから、解除出来るか、それとも内側から全てを破壊してしまわないといけないかは分からないけど、精一杯努めてみせる」
決意の紅い眼差しは、それはもう死を、殺戮を、まったく厭わない、異端の世界に常にいる魔女の視線で、私は身震いするくらいにその魔女の力の深さを思い知ったのだ。
――これなら。今日のユーリはいつにないくらい、漲っている。
もしかしたらすぐ傍に、そして内側にも、私という存在を感じているからと思ったら、自惚れだろうか。
でもそういう風に思っても悪くないはず。ユーリはそれだけもう私を信用してくれているんだと思いたい。
どんなに体が悲鳴を上げようとも、バラバラになろうとも、やってみせる。
虚実機関のことなんか忘れて、ただユーリの為に行動したかった。
だからこそ、本当はユーリが言ったように出来るかは怪しかったけど、自分の体も気に掛けて、死なない努力もしないと駄目なはずだったんだ。
私に欠けたピースをユーリが埋めてくれている様な、そんな楽観的に自分の感情の欠落を私はそう意識しなかった。
だから私はこの最終決戦に望む前の時間を、緊張もあったはずなのに、そう思い詰めることもなく、無為に過ごしていたのだった。
傍らにユーリの温かい感覚と、冷たい魔女としての怜悧な感覚とを同時にヒシヒシと実感しながら。
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