第6章夜は続く。魔女と女の子、または因縁とシスターと。そして二人の関係

第6章夜は続く。魔女と女の子、または因縁とシスターと。そして二人の関係1

 合流地点に少し待っても、先生は一向にその場所に現れなかったので、かなり心配だったけど、私の体調も思わしくなかったので、とりあえず事務所に帰って来た。


 それでどうも、何やら処置をしてくれるらしいのだが。

 私の部屋に入るなり、ユーリがこう一言。


「ソラ。とりあえず上だけでいいから、服を脱いでくれるかしら」

「・・・・・・・・・・・・ええ?! それって一体? な、な、何するつもりなのよ――?!」


 思わず体を抱きしめてしまう。な、なにか危機の様な気がしちゃって。


「・・・・・・。別に変な意味じゃないわ。ただ素肌の方が同期がしやすいし、魔力炉のチェックとか、進行具合なども見ておかないといけないから。ほら、下着も取ってよ」


 あ、ああ! そっか。魔眼に対しての処置ね! う、うん。分かってましたとも。分かってた、分かってたけど・・・・・・。


「なんか、同性でもちょっと恥ずかしいかなって思うんだけどね・・・・・・」

「ジロジロ見たりしないし、やることやったら着ていいから。こっちだって、裸の相手に処置するのは恥ずかしいのよ。ソラも我慢してよ」

「う、うん・・・・・・分かった」


 かなりこの時の私は、ユーリに気押されてたと思う。有無を言わせぬ態度だったと言うか、そんな感じ。




 ――そうして。

 何故か裸にさせられた私。ブラジャーも脱ぐので、かなり羞恥心はある。


「あの、そんなに変に思わないでよ。その、気にしてる訳じゃないけど、私って発育も良くないしさ」

「そんなの女性の美しさには関係ないことだと思うわ。男性は大きさとか気にするんでしょうけど。・・・・・・それにソラって形は綺麗よ」

「見ないでってば!」


 やっぱりしっかり見るとこは見てるんじゃない。ユーリってば、そういう興味は人並みにあるのね。魔女は侮れないわ。


 でもそういう風に言ってくれるのは嬉しいなと思う。

 他人から変に言われている訳じゃないのはありがたいけど、少し身長とかも小さ目なのは、コンプレックスとか気にしているのでなくても、どうしても不便だったりして、何か嫌な気持ちになる時もあるからだ。


「じゃあ、見ていくわね」


 そう言い、ユーリは私のお腹にそっと右手を当てる。


「ひゃっ」

「我慢して。とにかく探るから」


 艶っぽい声を上げてしまう私に、有無を言わせずピシャリと言うユーリ。


 その手を当てた部分が、パアっと光ったかと思うと、何やら魔力の暖かい作用が体に感じられる。


「うーん。魔力炉の炉心は凄く小さいわね。確かにこれじゃあ、魔眼を制御するのにも苦労するか」


 えーと。それって端的に言えば、かなりヤバいのかな?


「もうちょっと状況が変わらないとどうとも言えないけど、一応軽く魔力のパスは造っておいた方がいいかも。愈々となったら、わたしたち同士を契約関係みたいに完全なパスを繋げなきゃいけないけど」

「そんなの悪いわよ。何か簡単に魔眼の制御をしやすい効力のアイテムとかないの?」


 ジトとこっちを見て来るユーリ。うわ、そんな目されても困る。


「・・・・・・ふう。あのねえ。魔眼っていうのは、神経にも魔力炉にも多大な負荷を掛けるの。それなのに、魔眼の巨大さに比べてね、ソラの容量はとても小さいんだもの」


 それって、保存するには容量が入らないメモリーカードとか、処理する為のメモリ不足とかそういう話なのだろうか。


「魔眼が暴走しないようにも処置しないといけないんだから。ソラが使いすぎたら危険だから、少しセーブしないといけないっていうのもあるけど」

「ええ? それって私ってば役立たずになっちゃうってことなの。そんなの嫌よ。私だって戦える」

「そうね。パスを繋げれば、わたしっていう大きな器から供給されるから、そう暴走したり、呑み込まれることはないわ。でも、ね。式神とか便利なナイフもあるんだから、無闇に〝崩壊〟の方は使わないこと」


 うーん。そうか。外部に働きかける魔眼だと、かなりの神経への負荷があるからって、そういう意味だね。


「とにかく、次はこれを飲んで欲しいの。苦いけど、我慢して」


 そういい、いつの間に準備してたのか、コップに少量の液体が。

 魔術の為の薬だろう。神経を接続するみたいなものだから、より同期しやすい回路を造らないといけないものね。


 ゴクリと飲む。う。やっぱり確かに苦い。それに変にポーッとしそうな感覚が。


「うん。飲んだわね。じゃあ」


 そう言ってから、ユーリは心臓の側の胸に静かに、それも飛び切り優しく右手をまた当てる。


 今度は声を出さないように我慢するが、かなりドキドキして来てしまう。こんな綺麗なお姫様の様な魔女に、一介の小娘の裸の胸を触られているんだから。


 胸の高まりを気づかれないかと、気が気じゃなかったけど、ユーリは頓着せずに、真剣な目で力を込める。


「回路接続良好。魔力炉確認。神経パルス確認。魔力侵入オーケー。身体的機能同期完了・・・・・・魔力安定。鼓動良し」


 恐らく次々に段階を踏んで、設定を進めているとでも言った所かもしれない。


 私は静かに高揚感もある心で、ユーリの動向を見守る。

 ユーリはいつの間にか、注意を逸らさないようにか目を閉じている。

 集中しているんだろう。

 多分臓器移植みたいに、他人の魔力パスを接続するってことは、拒否反応なんかもあるだろうから、かなり難しいはずだ。時間も掛かると思う。


 体は暖かい。ユーリの体温も伝わりそう。それに魔力の感じも段々実感出来るようになっていくイメージ。

 その星に選ばれし、力を与えられし魔女である彼女。その過酷なその人生のイメージが映し出された気がして。


 ――見てはいけないものを見ているのではないか。これはユーリの記憶の断片なのか。


 楽しそうに、誰か少年と姉弟のように遊んでいる風景から、村で迫害されている様子。

 そして、強大な魔術師である老人との旅路の果てに、その事故なのか悲劇なのかが起こる瞬間。


 全てはあなたの為なのだ。

 ――そう、男の声が聞こえた。


 それは何だったのだろうか。もしかするとだが、誰かがユーリを救おうとしている。

 それは叶わぬ夢であり。

 歪んでしまった望みは、世界にとっても異物であり。

 原理にとっても、人にとっても害となる獣となり。

 豊穣な地からエネルギーを得るように、その彼女の体は魔力に満ち溢れていて。

 その彼にはどうにも出来ないほど、彼女は魔女であり。


 魔女は人とは暮らせない。

 だが、だからこそ星はその魔女に人を救う役目を負わせる。

 星は星を救う為の役割と、人を可能な限りで、平常な状態で生きながらえさせようとしていた。


 星の意志。宇宙の意志。

 そんなものが、時折魔女という原理には許容されていても、その器に収まらないくらいの莫大なエネルギーを生み出す欠片としての器を用意する。


 世界に愛されているが故に、どこにも行き場はなく。

 そうすることで、虚実機関などは影でそれをサポートすることはなくとも、人を守る同じ目的の為に協力もし。

 彼女はいくつものSPも見て来たのだろうし、私みたいなのも見飽きるほど見ただろうと思う。


 ――――なのに。

 どうして私にはこんなに肩入れするのか。

 その他の魔に潰される人間の一人ではなくて、助けたいと、そんな風に思ったのか。


 ――――それは恐らく。

 この同期されている状態だから分かることだけど、ユーリはもう悲しい人間の最後を見たくないのだ。

 魔に押し潰されて、化け物になってしまったり、自壊してしまい死んでしまう様な、そんな悲劇はもう沢山だと。

 救える者は少しでも可能性を高めておきたいし、救える命は自分の及ぶ範囲で手を差し出す。


 溺れた子供がいたら飛び込むとまではいかなくても、泣いている子がいれば話を聞くくらいのことはするようなものだ。

 なんだかそう、その曖昧な概念に身を委ねていたら、さっきまでかなり辛かった眼の疼きとか、ぐらつく酩酊感の様なものがなくなっていった。


 眼がスーッとしている。安定したのだろうか。魔眼を無闇に発動することもない。

 だって今は裸眼だけど、自分の意志ではなく〝崩壊〟が発動しないのだ。


「――――うん。大分いい感じ。これで今は行きましょう。シン・クライムの術式が完成に近づいて、予想以上の災害になりそうだったら、ソラのその力をもっと借りると思うから、より強い感応をしないといけないけど」


 それってどういう処置の仕方だろうか。今裸で、その上裸眼で相対しているだけでも、相当のその顔が真っ赤になりそうな、そんな感覚なのに。

 眼鏡を外してるのは、結構個人的には恥ずかしいんだもの。


「それにしても・・・・・・」


 まだ裸でいる私に視線を這わせるユーリ。

 えと、もう終わったのよね? 何故、あなたはそんなにじっくり見つめるのかしら。

 少し私はきゅっと体を抱きしめて、胸を隠してしまう。


「うん。ソラってやっぱり華奢っていうか、凄く細いわよね。体が小さすぎるって訳でもないのに。エナジーの容量も小さいはずね」

「ああ、そういうこと。でも魔力の容量に体の大きさはそんなに関係ないんじゃないの」

「まぁ、基本的にはね。でもソラは色々とこう、弱すぎるのよ。何故、こんな強力すぎる魔眼が宿ったのか分からないくらい」


 そう、と一呼吸置いてからまたユーリは言う。


「SPには分不相応なくらい、危険だったり制御しきれないスピリット能力が宿ることもあるのよ。自分の則を超えすぎる、器から零れる力を有しては、遠かれ潰れてしまう。可能性が自らの意志や身体に適合しないのね」


 ふーむ。だからそれを管理しているのが機関な訳かしら。


「そうね。貴方達の使命は、そういう者たちを監視して、人類社会を安定させて存続させること。先に行き過ぎた可能性は、人類社会を破滅させかねないから」


 ――うん。そっか。なるほど。私がどれほど危ういバランスで成り立っていたか、理解出来たと思う。凄く持て余してるってこともね。


 それだから、助けてくれてありがとう、と素直にユーリに言う私。

 それに少し照れたように、モゴモゴしているユーリ。

 人からの好意には弱いのかもしれないのが少し可愛く見える。


「べ、別に貴方が安定しているのならいいわよ。わたしはそんなに大層なことしてるんじゃないから」


 そうは言うものの、魔力が如何に巨大でもさ、自分のものを他人に分け与えられるのは凄いことだよ、ユーリ。

 それは言わずに、いそいそと私はブラを付けて服を着始める。


「あ。そうそう、もう着てもいいわよ。言うの忘れてたわ」


 これ以上羞恥プレイさせられて堪りますかっての。

 と。そうだ。私も言わないといけないことがあったんだった。

 服を着てから言う。


「とりあえず、今日も泊まっていってよ、ユーリ。もうかなり遅いしさ。私も一人じゃ心細いんだ。先生が帰って来ないのも心配だけど、どうも嫌な予感もしちゃってて」

「・・・・・・ええ。キミエは最悪の予想として、もしかするとシン・クライムに呑み込まれたのかも。あれほど気配を広範囲で探っても、今一つ引っ掛からなくて、残滓もないとなると、ね。少しわたしも困ったわ」


 うん。先生・・・・・・。


 でも私達は後ろを振り返っていられない。前進していって、とにかく事態を解決しないといけないんだから。


 先生がいないのなら、探偵事務所だって継がないといけないし、NPGへの報告とかも含めて、色々な担当とかも私が背負わないといけないかもしれないし。


 とにかく、今はあまり考えずに寝る必要もある。体力は回復させないと。

 そう考えて、私達は部屋で別れて、眠りにつこうとするものの、あまり上手く寝付けなかったのは言うまでもない。



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