第5章風雲急、その先へ2

 放課後になってもまだ今は明るい。その間に下校させる腹なのだから、当然だ。


 ・・・・・・何か皆が騒がしい。どうしたんだろう。

 と思って、皆が見ている窓の所に行くと、うわーと頭を抱えてしまう。


 何気に待ち人来ずみたいな、心ここにあらずなユーリが、校門の所に立っていた。

 いや、それは守衛さんとか、何か注意しなくていいのかなぁ。

 若い美人さんだから、スルーしているのかも。まぁ、不審者には見えないかもしれないけど、絶対に変だとは思うよね。


 私が慌てているので怪訝な顔をしている歩に対しても、とにかくそそくさと急いでいる旨を伝えて、私は足早に下駄箱から校門に急いで行く。


「あ、ソラ!」


 こちらを呼ぶ声がして、そこらにいた人だかりが(恐らく誰もユーリに声を掛ける勇気はなかったのだろう)、こちらに視線を注ぐ。


 うーん、注目されるのって嫌だなぁ。だってあんな美人が、普通の女子学生に手を振っているのだもんなぁ。


「どうしたの。こんな所にまで来ちゃって。まだ予定の時間でもないでしょ」

「ええ。調査してても、そんなに昼間は捗らないし、ソラの通うハイスクールがどんな場所か見に来ちゃった。えへへ。会いたかったって言った方が、ソラは嬉しい?」


 嬉しいなんてもんじゃない。非常に困ります、お姉さん。


「あ、何か抗議したそうな顔だ。折角来てあげたのに、そんな風に邪険にしなくていいじゃない」


 むーとしてみせる顔が愛らしいが、そんなのに負けられない。


「そうは言うけどね、ああもう、とにかくここから離れようよ」


 まだ何も言わずに目線があるだけの群衆に向かって行く気力もないし、注目され続けるのもうんざりだから、手を引いてさっさとその場を離れる。

 あ、そんな簡単に手を握っても良かったのかな、と思っている間も全然なく。


「いい? 学校には来ないで。ただでさえ、ユーリみたいな外国人めいた人は注目されちゃうから。そりゃあそんなに珍しくもなくなってるけど、でも勝手にこんな所に美人がポツンと立ってたら、誰だって興味が出るよ」

「そう? ま、確かに貴方達はあまり目立つのは良くないのだったわね。・・・・・・うん、ごめんなさい。これからは素直に待ってるわ」


 そこまでしおらしくなられたら、こちらもどう返していいか分からなくなっちゃう。


「それに、あんまり家にもお世話になりっぱなしも良くないから。今日は終わったら、すぐにホテルに戻ることにする」

「え? そ、そう?」


 ホテル、か。そう言えば、確かにユーリはこの町に滞在してるんだったね。

 なら、成り行きで私達の家に居た方が変ってもんなのよね。


 少し、寂しいと思ってしまう。

 それに本当は私をずっと校門で待っていてくれたのは、本音で言ってしまえば凄く嬉しかったのだから。


 でもハッキリ言ってしまえば、こちらも相当に好意を持っているのが分かってしまうのだし、それはまだ若者の女子としては、非常に恥ずかしい思いがするのだもの。


 ああ、段々私自身ユーリへの目線が、恋する女の子のそれになっていってしまってる様な気がして来ちゃう。

 任務に明け暮れる虚実機関の構成員にとって、恋なんて縁のないもののはずなのに。


 それでもその美しく気高い理想があると感じられる、この魔女には心惹かれてしまうのだから、もうこれは仕方がないことだ。


 わたしだって女の子だ。綺麗な女性にときめくものが、そう、時にはあるんだ。


 一体、今まで何に悩んでいたのかあやふやになるくらい、一時感情が落ち着かなかったのだけど、夜のことを思うと小松さんの話もユーリにして、危機感を強くするのだった。


 一応、その話にユーリは耳を傾けていたけど、もしかしたら今回の依り代にしているのかもしれないと、簡単に言ってしまってからは、もうそれについてあれこれと憶測では語らなかった。



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