僕は役立たず~1円玉くんの悩み~
ある日、財布の中にいる1円玉くんが5円玉さんと10円玉くんと50円玉さんと100円玉くんと500円玉さんを見まわして言いました。
「みんなはいいなあ」
5円玉さんがそれに反応して尋ねます。
「あら、どうして?」
「だってみんな、人から喜ばれる硬貨なんだもの」
5円玉さんも10円玉くんも50円玉さんも、きょとんとして首をかしげます。
首をかしげながら10円玉くんが手を挙げて「どういうこと?」と尋ねました。
1円玉くんはみんなを一枚一枚指さして答えました。
「だってさ、5円玉さんはお
「うんうん」
「10円玉くんはお菓子を買うのに使えるでしょ?」
「うんうん」
「50円玉さんはお釣りを細かくしないために使えるでしょ?」
「うんうん」
「100円玉くんは自動販売機でジュースを買うのに使えるでしょ?」
「うんうん」
「500円玉さんはランチを食べる時に使えるでしょ?」
「うんうん」
そう言って最後に自分を指さしました。
「僕は一枚じゃ何もできないもの。誰からも喜ばれないんだ」
「あら、あなただって十分喜ばれる存在よ」
それを聞いた50円玉さんが反論しましたが、1円玉くんは首をふります。
「そんなことないよ。だってこの前、言われたもの。道ばたで僕を拾った人がガッカリしながら『なんだ1円玉か』って。それでポイって捨てられて。僕は誰からも喜ばれない安っぽい存在なんだ」
いじいじと落ち込む1円玉くん。
それを見て100円玉くんが励ましました。
「まあまあ、そんなに落ち込むなって。お前にだっていいところぐらいあるさ!」
「いいところって?」
「そうだなあ……。例えばアルミニウムでできてるとか……、水に浮くとか……、めちゃくちゃ軽いとか……」
ぜんぜん励ましになってない言葉に50円玉さんがドスっと100円玉くんをつつきました。
「あなた、もう少しまともなこと言えないの?」
「うぐ……、そうは言ってもだな。考えてみれば確かに1円玉が役に立ったところなんて見たことないし」
「なんてこと言うの!」
そんな100円玉くんの言葉に、今度は5円玉さんも10円玉くんもポカポカと100円玉くんを叩きました。
1円玉くんはさらに「はああぁ」と落ち込みます。
「どうせ僕なんて、いらない存在なんだ……」
「そんなことないですわ」
それまで黙って見ていた500円玉さんが初めて口を開きました。
「私たちはあなたが集まって出来た硬貨。あなたがいなければ私たちは生まれないのよ?」
「そうだそうだ!」
それを聞いた5円玉さんも、10円玉くんも、50円玉さんも、100円玉くんも、みんな500円玉さんに続きます。
「私たち、あなたが集まってできてるのよ!」
「君がいなけりゃ僕らは生まれないんだ!」
「あなただって立派に役に立ってるわ!」
「でも……」とうつむく1円玉くんに100円玉くんが言いました。
「元気出せよ。オレだってこの前、100枚の1円玉と交換されたんだぜ? 『100枚の1円玉より1枚の100円玉のほうが使いやすい』って言われてさ!」
余計な一言に5円玉さんも10円玉くんも50円玉さんもポカポカと100円玉くんを叩きました。
「あなたは!」
「どうして!」
「余計なことを!」
100円玉くんはポカポカと叩かれながら「ひーん」と頭を抱えました。
それを尻目に1円玉くんはひっくひっくと泣き出しました。
「やっぱり……僕なんていらない存在なんだ……」
うわーん、と声をあげる1円玉くんにみんな困り果ててしまいました。
ちょうどその時です。
財布の蓋が開いて持ち主が顔をのぞかせました。
慌ててみんな口を閉ざします。
持ち主は財布の中身を全部出して言いました。
「ああ、よかった。ちょうどある」
そこはお店のカウンターでした。
どうやらお会計の真っ最中のようでした。
持ち主は硬貨を一枚一枚数えて
「ぴったり666円!」
と店員さんに渡しました。
「よかったですねえ、1円玉があって」
「ほんとほんと。この前は1円足りなくてこの商品買えなかったからね」
「1円といえどもお金ですからね。わたくしどもも1円足りなかったらお売りできませんから」
「そうだよね。今日はほんと1円玉があってよかったぁ~」
みんなと一緒に会計のトレーに乗せられた1円玉くん。
そんな店員さんとのやりとりを1円玉くんは目をうるうるさせながら聞いていました。
初めて人から「あってよかった」と言われたのです。
それをすぐ隣で見ていたみんなは「ほらね」と笑いかけました。
「君だって十分役に立ってるじゃないか」
「君がいなくて買えなかったものだってあるんだから」
「あなただって立派な硬貨なのよ」
瞳をうるうるさせている1円玉くんに、みんなはそう言ってウィンクをしてみせたのでした。
「みんな、ありがと……」
1円玉くんは泣きながらお礼を言うと、レジの中に吸い込まれていきました。
それからというもの、1円玉くんはどこに行っても自信を持って財布の中におさまるようになったそうです。
おしまい
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