私とあるじと縁側で

 ちりりん──。



 風鈴の音で目が覚めた。

 どれくらい眠っていたのだろう。気がつけば、陽はかなり傾いている。

 あれほど暑かった昼間の気温。それが嘘のように今は涼しい。


 堅い板張りの縁側。その上で私は大きく伸びをし、あくびをした。

 ぐっすり眠りすぎて頭がぼんやりしている。


 しばらくぽけーっとしていると、いきなり頭上から声が聞こえてきた。


「お。起きたのか」

「ニャッ!?」


 思わず声が出た。

 そこには、この家の“あるじ”がいた。

 私が寝ていたすぐ隣で、うちわ片手に縁側から足を投げ出して座っている。

 その足の先には水の入った桶が置かれていて、あるじはちゃぽんちゃぽんと気持ちよさそうにその水に浸かっていた。


「いやあ、なかなかいい寝相ねぞうだったなあ」


 そう言いながら、あるじは私をうちわで扇いでくれた。

 そうか。私が寝ている間、ずっと扇いでくれていたのか。

 というか、どんな寝相ねぞうだったのだろう。


 ぐでーっとお腹を床につけて大の字になっていたところまでは覚えているのだが……。


 はて。


 

 あるじは目を細める私を見て「ふふ」と笑った。

 眼鏡をかけた人の良さそうなあるじ。いや、実際良いのだろう。近所の評判を聞くと、かなり慕われている。

「いい加減、早く結婚なさい」とせっつかれているらしいが、いたってその気はないようだ。


 まあ、そのほうがありがたい。

 私とあるじの仲を脅かすものは近寄って欲しくない。


「それにしても、今日は暑かったよねえ。今はだいぶ涼しくなったけど。なんなんだろうね、この暑さは」


 あるじはまるで独り言のようにそう言った。猫の私に聞かれても困る。答えようがない。

 とりあえず私は「ニャア」と鳴いた。


「ん、腹減ったのか?」


 あるじは完全に勘違いをしたが、何やらおやつが出てきそうな雰囲気だったので身構える。


 そう。「腹が減った」アピールだ。


 するとあるじはどこから持ってきたのか、切られたスイカを差し出してきた。


「食うか?」


 言いつつ、自分もシャクシャクとスイカを頬張る。


 スイカか……。

 スイカはあまり好きじゃないのだが……。


 しかしあるじがあまりに美味しそうにスイカを口にしているものだから、私も身を乗り出してシャクリと一口食べた。


 あ、意外とうまい。

 暑い夏だからだろうか?

 あるじが差し出してくれたからだろうか?

 いつにも増して美味しく感じる。

 それに冷えたスイカは、身体の芯まで冷やしてくれるようだ。


 シャクシャクとスイカを食べる私に満足したのか、あるじはまた「ふふ」と笑った。



 庭ではひぐらしが鳴いている。



 涼しいそよ風が風鈴をまたちりりん、と鳴らした──。



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